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自衛隊でもレーザー交戦装置を持っているが…
スウェーデンのSAAB(サーブ)は、日本では自動車メーカーのイメージが強いかもしれないが、実は北欧でも有数の防衛装備企業だ(自動車事業はすでに手放している)。自衛隊とのつながりも深く、陸上自衛隊が1978年に導入した対戦車無反動砲「カール・グスタフ」は同社の製品であり、バージョンアップを経て現在でも現役である。

さて、そのサーブ社が興味深い製品をリリースしている。戦闘シミュレーション装置「GAMERシステム」だ。簡単にいうと、銃弾の代わりにレーザー光線を利用して擬似的に戦闘を行なうシステムである。同様のレーザー交戦装置は、陸上自衛隊でも「バトラー」と呼ばれる装置を2000年代初めから使用しているが、GAMERは何が違うのか?
実際の弾丸は光速でもないし、直進もしない
当たり前の話だが、レーザー光線は実際の弾薬と違い“光速で直進”する。近距離のアサルトライフルでの戦い程度なら問題にならないのだが、長距離の武器では話が違ってくる。たとえば、前述した「カール・グスタフ」のような携行式対戦車ロケットの弾速は毎秒100~300mのため、目標の未来位置を考えた見越し角度をとった射撃をしなければいけないし、戦車の側でも回避行動をとる余地がある。

これまでのレーザー交戦装置は、この点に不満があったが、GAMERは慣性計測装置などをレーザー装置に組み込み、アタリ判定に弾速や弾道の要素を加えて、よりリアルな訓練体験を得られるようになったという。これは大きな変化だ。
動きやすいシンプルな個人用装具
性能も素晴らしいが、GAMERが筆者の目を惹いた最初の理由は、兵士個人が着用する専用装具のデザインだ。これは相手が発したレーザーを受光するセンサーを内蔵したもの。前述した陸自のバトラーは、上半身や上腕を覆うベストを着用するのだが、かさばり動きにくく、隊員の評判は芳しくないと聞く。

対してGAMERの「PDD(個人検知デバイス)」と呼ばれる装具は簡易なH型サスペンダーで、とても動きやすい(筆者も着用させてもらった)。PDDは機能面にも優れている。「負傷」判定にともない、出血など詳細な状況も設定され、負傷者救護の訓練まで行えるという。
アメリカ軍や欧州各国でも採用
以上は主に兵士個人レベルの戦闘や装備の話をしたが、GAMERは戦車や火砲も含め、地上戦闘全体をカバーできるシステムとなっている。筆者は担当者から詳しい説明を受けたが、リアリティの追求は、これまでのレーザー交戦システムを大きく上回るものだと感じた。

このような優れた機能のため、欧州を中心に多くの国で採用が広がっている。自衛隊と繋がりが深いアメリカ海兵隊も「MCTIS(海兵戦術機器システム)」の名称で導入を開始した。ここ数年で陸上自衛隊と海兵隊をはじめ諸外国軍との訓練は一気に増加し、内容もより実戦的なものへと変化している。このようななかで、共通の訓練基盤を持つことは、訓練効率や質的向上という意味で、大きなアドバンテージを持っているのではないだろうか。