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マイバッハの最新ラインアップに加わった「EQS 680 SUV」

AMGがメルセデス・ベンツのスポーツラインなら、マイバッハ(Maybach)はメルセデス・ベンツというブランドが受け継ぐラグジュアリーさに輪を掛けてラグジュアリーなブランドである。ラグジュアリーという表現では足らず、スーパーラグジュアリーだ。運転席に座って自らステアリングを握るのもいいが、どちらかというと後席に身を任せる身分でありたいと思わせるブランドだ。
現在、メルセデス・マイバッハは3モデルある。SクラスとGLS、そして2024年8月1日に発売されたEQS 680 SUVである。2025年にはSLがラインアップに加わることが予告されている。

今回試乗したのは、メルセデス・マイバッハ初の電気自動車(BEV)となるEQS 680 SUVだ。車名が示すように、ベースはEQS SUVである。床下に118kWhもの大容量のリチウムイオンバッテリーを搭載するのは、EQS 580 4MATIC SUV Sportsと同じ。マイバッハの一充電走行距離は640kmだ。日本仕様独自の機能として、バッテリーに蓄えた電力を家庭で利用できるV2Hと、家電製品に電力を供給するV2Lに対応する。この機能もEQS SUV譲りだ。
“静寂の猛加速”と“超巨体の身軽さ”が共存する理由
車名に含まれる三桁の数字が示すようにEQS SUVよりもマイバッハのほうがパワフルで、前後に搭載するモーターのシステム最高出力はEQS 580 4MATIC SUV Sportsが400kW(544ps)なのに対し、マイバッハは484kW(658ps)である。システム最大トルクは955Nmだ。車両重量は3050kgもあるが、0-100km/h加速は4.4秒でこなす。全開加速を試みてみたが、理解を超える力が全身にのしかかる。しかも、圧倒的に高い静粛性を維持しながら。

エンジン車ならエンジンサウンドと加速がシンクロして独特の高揚感をもたらすところだが、メルセデス・マイバッハEQS 680 SUVは音の変化をほとんどともなわずに強烈な加速を提供する。もし、あなたが運転手で後席にゲストを乗せているなら、大事なゲストにひと言断ってからフル加速することをおすすめする。断りなくフル加速してもいいが、後でどうなっても知らない。
逆相に最大10度切れるリヤアクスルステアリング(後輪操舵)を搭載するのもEQS SUVと同じで、全長が5135mm、ホイールベースが3210mmもあるのに最小回転半径はたったの5.1mでしかない。制御がよくできているので、小回りが利くのはいいが、お尻を振り出して外側の柱や壁にぶつかりそう、といった心配をする必要はほとんどない。運転手の身になってみれば、扱いやすさのみが享受できる。

乗る者すべてを魅了する“ファーストクラス”のインテリア

インテリアは先進感とラグジュアリー感がミックスしたEQS SUVのムードに輪を掛けてラグジュアリーにしたイメージ。ステアリングホイールの奥、センター、そして助手席側に高精細のディスプレイを配置し、それらを幅141cmの1枚ガラスで覆ったMBUXハイパースクリーンを標準装備しており、このスクリーンが映し出す鮮やかなグラフィックが、先進感を感じさせる大きな理由。ラグジュアリー感を感じさせる理由は、視覚的にもソフトな触感をイメージさせるナッパレザーだ(サステナビリティに配慮した工程で生産)。
それ以上にラグジュアリーだと感じさせるのは、空間の使い方である。EQS SUVが3列シート7人乗りなのに対し、マイバッハは2列シート5人乗りが基本。オプションでファーストクラスパッケージを選択すると、2列シート4人乗りとなる。このレポートで取り上げる車両がそれだ。ファーストクラスを名乗るにふさわしい、ゴージャスな空間が広がっている。左右の座席は完全に独立しており、センター部には専用のシャンパングラス収納部と脱着可能な大型クーリングボックスが装備される。セルフサービスなのが、旅客機のファーストクラスと異なるところだ。カップホルダーには温度調整機能が備わる。

随所にちりばめられた“MAYBACH”の意匠と存在感の演出
乗り味はフワフワとしている。とだけ書くと誤解を生みそうだが、いつまでもフワフワとして落ち着かないのではなく、フワッとしたかと思うとスッと揺れが収束してフラットな姿勢に戻る。これもEQS SUV譲りではあるが、マイバッハはADS+(減衰力連続可変ダンパー)とAIRMATICサスペンションを搭載する。
NVH(騒音・振動・ハーシュネス)は後席を重視した仕立てだというが、乗り味についても後席乗員を重視した仕立てになっているのだろう。静粛性の高さもあり、前席乗員との会話を楽しむというより、11.6インチのモニターを備えたリヤエンターテインメントシステムで映像を楽しむなり、音楽を楽しむといった、ひとりの世界に浸る乗り物の印象だ。

ところで、メルセデス・マイバッハEQS 680 SUVはエクステリアとインテリアの至るところに、MをあしらったエンブレムやMAYBACHのロゴが確認できる。フロントバンパー両サイド部はエンブレムで埋め尽くされているし、車内に乗り込もうとサイドステップに目を落とせば、そこにもエンブレム。
そして、ドアを開ければMAYBACHのロゴが光ってお出迎え。前席シートバックにもエンブレムがあり、後席の乗員には常に目に入る仕掛け。アクセルペダルとブレーキペダルもマイバッハのエンブレム入りで、ドライバーもその存在を意識せずにはいられない。マイバッハならではのスペシャル感をかもし出す役目を充分すぎるほど果たしている。




