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フェアレディZしかないじゃないか!
2025年1-6月の自動車販売ランキングの47位は4644台で、なんとフェアレディZである。2022年に発表・発売した現行RZ34型フェアレディZは、デビュー直後に受注が殺到して長いこと受注停止になっていた。その受注した分がどんどん納車されている……ということなのだろう。25年1月に受注が再開され、現在は納車まで3ヵ月程度となっている。つまり、フェアレディZは、いま買えるスポーツカーなのだ。
のっけからお金の話で恐縮だが、車両価格はこうなっている。
フェアレディZ(6MT):549万7800円
フェアレディZ Version S(6MT):634万7000円
フェアレディZ Version ST(6MT):675万9500円
フェアレディZ Version ST(9AT):675万9500円
クルマの値段がどんどん上がっている昨今、あれ? Zって意外とお安いじゃん、と感じる。Z34型のビッグマイナーチェンジじゃないか、という声もあったが、3.0LのV6ターボエンジンを積んだ後輪駆動の美しいスポーツカーがこの価格で買える、マニュアルトランスミッションも選べるというのは、ちょっと(かなり?)良い話なのではないだろうか。


最近、”終のクルマ”についての相談を受けることがよくある。深刻な話ではなく、要するに「この先、もう純エンジン車はなくなっていく。最後に買うべき純エンジン車はなにが相応しいだろう?」ということだ。
人によっては「純エンジン車」に加えて「エンジンもマルチシリンダーがいい」「マニュアルトランスミッション」「後輪駆動」という条件が付け加えられる。
となると、日産フェアレディZしかないじゃないか(正確には直6ターボエンジン搭載のGRスープラRZ 800万円がある。スープラは2026年春に生産終了が発表されている)。
そういうわけで、日産フェアレディZ version STの6MTモデルを借りだした。
ワンガンブルーという鮮やかなボディ色のZ。文句なしにカッコいい。どこから見てもZだし、貴婦人の名にふさわしい優雅さもある。マッスルカーではない美しさ。ドアを開けて車内を覗き込むと、なんと車内もブルーだった。これは11万円のオプション。この青が効いている。インパネの樹脂のシボの具合など、やはり少し古い感じがするのだが、青のおかげでそこに目が行かない。センターにある三連メーターなど、スポーツカーとはこういうもの、という文法に則ったクラシカルなインテリアがいい。


9インチのディスプレイは現代基準では少し小さいけれど、必要十分(というか、これ以上大きくあってほしくない)。Apple CarPlay/Android Autoにも対応、BOSEサウンドシステム(8スピーカー)まで付いている。
ドライバーズシートに腰を下ろしエンジンスタータースイッチを押してエンジンを始動。フロントに縦置きされるのは、現代の名機と言っていい3.0L・V型6気筒DOHCツインターボは、迫力あるサウンドとともに目を覚ます。これを”うるさい”と感じる人は、そもそもZに目もくれないだろうから、サウンドはZの魅力のひとつだ。

エンジン形式:V型6気筒DOHCツインターボ
エンジン型式:VR30DDTT
排気量:2997cc
ボア×ストローク:86.0mm×86.0mm
圧縮比:10.3
最高出力:405ps(298kW)/6400rpm
最大トルク:475Nm/1600-5600rpm
過給機:ターボ
燃料供給:DI

6MTのシフトフィールは極上

久しぶりにマニュアルトランスミッション車に乗る。といっても、自転車乗りと同じようにMTは一度操作を覚えてしまえば、すぐに感覚が蘇る。クラッチは重くない。
じつは、現行RZ34型でロングドライブしたことがある。それは9速ATモデルだった。
MT/AT、どちらも選べたのだが、あえてATにした。新開発の9速ATに興味があったのと、Zの6MTのフィーリングが好きではなかったからだ。現行RZ34型はZ34型からキャリーオーバーしているところがある。6MTもそのひとつで、Z34型の6MTモデルに試乗したときの、シフトフィールとクラッチの渋さがどうにも楽しくなかったからだ。新9ATの出来は素晴らしく、そのために「Zを買うなら9ATだな」と思い込んでいたのだ。
さて、ギヤを1速に入れて走り出す。2速、3速、4速、5速、そして6速。エンジンの太いトルクがあるから、街中でも6速までフルに使える。そして、シフトフィールが望外にいいのだ。望外に、じゃない。純粋にとても良いのだ。
ちなみに、フェアレディZの現在のMT:ATの比率は、およそ3:7だそうだ。
MTを選ぶ理由は、速度、コーナーのR、勾配を見極め、自分が走りたいライン、速度を決めシフト操作する喜びにある。右足でアクセル、左足でクラッチ、右手でステアリング、左手でシフトレバーを操作する。2ペダルではけっして味わえない身体の連動的動きを思ったとおり制御できたときのうれしさ。これを面倒と思う人にはけっしてわからないだろう。しかし楽しいのだ。
この楽しさもおそらく今後数年でほぼ消えてしまう。いまのうちに味わっておくべきだし、いまのうちにキープしておくのもありだ。
700万円の最新BEVを購入したとして、10年後の2035年にはその価値はほぼなくなっているだろうが、いまフェアレディZを手に入れて大切に35年まで乗っていたら、おそらくそれなりの価値を保っていると思う。

飛ばさなくて楽しい。それがいいスポーツカー
筆者の試乗は、ほとんど飛ばすことがない。フェアレディZの動力性能・ハンドリング性能については、多くの自動車評論家の先生たちがレポートしてくれている。私が試したいのは、”普通のとき””日常の足としてつかったとき”のことだ。都内の通勤、高速道路、駐車のしやすさ……そういうなにげないとき、どうなのか? スポーツカーに燃費は求めないといっても、燃費がよいに越したことはないし。
前型までは油圧パワーステアリングだったがRZ34型になって電動式になったが、ステアリングフィールもしっとりしていてなかなかいい。


シフトレバー左上には「Sモード」ボタンがあって、これを押すと、シンクロレブコントロールが作動する。要するにエンジンの回転合わせを自動でしてくれる機能だ。これをONにしておくとちょっと運転が上手になった気にさせてくれるが、OFFでもまったく不自由はない(から8割方OFFにしていた)。
メーターで100km/h巡航時の6速でのエンジン回転数は2100rpmほど。そこから踏み込んでも加速していく。
気分を盛り上げてくれる三連メーター(電圧/ターボ回転計/ブースト計)を見ていると、普通に大人しく走っていると、ターボはまったく効いていない。それでも3.0Lという排気量がもつ生来のトルクで気持ち良く走る。ひとたびアクセルを深く踏めば、V6ツインターボは本来の力(とサウンド。じつはアクティブサウンドコントロールを装備しているから、ある程度作り込んで音なのだ)を発揮する。もちろん速いが、速さを追求するなら2ペダルの方がいいに決まっている。大事なのは「速い気がする」こと。Zはそこがいい。


5日間、フェアレディZと生活をともにしてすっかり虜になってしまった。狭い我が家のガレージで乗り降りするのは少しコツがいるし、そもそもふたりしか乗れない。荷物もろくに詰めない。それでもZはいい。優雅に乗り降りするには、それなりに身体を鍛えておく必要がある。でも、現代にスポーツカーを選ぶというのは、そういうこと、込みだろう。
今回、燃費は464.8km走行して10.9km/L(平均速度41km/h)、モード燃費(WLTCモード燃費:9.5km/L)の114.7%と良好な数値となった。燃費だって、これなら許されるのではないか。
冒頭に価格の話をした。素のZなら550万円じゃないか! と思って詳しく装備まで検討した。検討すると、version SかSTに落ち着くようになっているんですね。
フェアレディZに興味のある方、最後の純エンジン車、それもMT、後輪駆動ということなら、もうこれしかない。いまなら3ヵ月待ちで購入できる。
日産のイヴァン・エスピーノサ新社長は、「ハートビートモデルはけっしてなくさない」と意思表明しているが、次のZがどんなクルマになるかはわからない。純エンジン、MT、後輪駆動の3条件がクリアされる可能性は低いだろう。ましてやこの価格帯で出てきてくれるかどうか。
その意味でも、気になっている人は、ぜひ、現行型フェアレディZ、6MTモデルは、クルマらしいクルマ、スポーツカーらしいクルマである。

日産フェアレディZ Version ST (6MT)
全長×全幅×全高:4380mm×1845mm×1315mm
ホイールベース:2550mm
車重:1590kg
サスペンション:Fダブルウィッシュボーン式 Rマルチリンク式
エンジン形式:V型6気筒DOHCツインターボ
エンジン型式:VR30DDTT
排気量:2997cc
ボア×ストローク:86.0mm×86.0mm
圧縮比:10.3
最高出力:405ps(298kW)/6400rpm
最大トルク:475Nm/1600-5600rpm
過給機:ターボ
燃料供給:DI
使用燃料:プレミアム
燃料タンク容量:62L
トランスミッション:6速MT
駆動方式:RWD
WLTCモード燃費:9.5km/L
市街地モード6.4km/L
郊外モード9.9km/L
高速道路モード11.6km/L
車両価格:675万9500円
メーカーオプション:外装色ワンガンブルー特別塗装色17万6000円/内装色ブルー特別塗装色11万円