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初代フィアット・パンダは23年間で450万台生産!!
2008年に第1回が開催され、今回で16回目を数えるフィアット・パンダの祭典「パンダリーノ2025」が、2025年5月24日(土)と25日(日)の2日間に渡って、静岡県浜松市にある渚園キャンプ場を会場に開催された。

今回エントリーした車両は約300台。そのほとんどがフィアット・パンダで、さらに会場に並ぶパンダのうち半分以上が初代モデルだった。このクルマは1980年2月26日にイタリアで発表され、2003年9月5日に最終生産車がラインオフするまで、23年間に渡って450万台が生産された。


イギリスのAUTO CAR誌の2020年の記事によれば、単一生産モデルの長寿記録としては史上29番目となるらしい。ただし、同誌の記事は36年間に渡って生産が続いた三菱デボネアが抜けるなど、精査の甘さがある。この順位を額面通りに受け入れて良いのかやや不安にはなるが、いずれにしても欧州を代表する長寿車であることに変わりはない。



セリエ1とセリエ2以降のモデルとの違いとは?
だが、初代パンダは厳密に言うと前期のセリエ1とセリエ2とは、外見はそっくりでも中身はまったく異なっているので、36年間進化がなかったということではない。


セリエ2が1985年にフィアットが満を持して世に送り出したFIRE(Fiat Powertrain Technologies)エンジンを搭載しているのに対し、それ以前のセリエ1のパワーユニットは、フィアット126用の空冷652cc直列2気筒OHVと127用の水冷903cc直列4気筒OHVという2種類の設計が古いエンジンが搭載されていた。なお、搭載エンジンの違いから前者は「パンダ30」、後者は「パンダ45」と命名されている。


組み合わされるトランスミッションは、パンダ30、パンダ45ともにデビュー時は4速MTのみ。発売開始から3年後の1982年後半になって、上級グレードとして追加設定された「スーパー」に5速MTがオプションとして選べるようになっただけで、ATの設定はなかった。

また、ランチアY10にも採用された「オメガアーム」と呼ばれるトーションビーム式の近代的なリアサスペンションは備えるセリエ2とは異なり、セリエ1は古典的なリーフスプリングを使用したソリッドアクスルとなる。

エクステリアとインテリアはかなり異なる。もっとも簡単な外観上の見分け方はフロントグリルの意匠の違いで、セリエ1のみプレス加工によるスリットの入った1枚板のグリルが取り付けられていた。このスリットはエンジンレイアウトの違いからパンダ30は左側、パンダ45は右側に設けられている。

ほかにもボディサイドのプロテクションモールが、のちのモデルとは異なり、ドアとリヤフェンダーの下側全体を覆っているという違いもある。

ただし、上級グレードのスーパーはセリエ2と同じく、当時のフィアット車のCIである斜めに入った5本線を中央に配置した樹脂製のものになる。

その場合はサイドガラスの三角窓の有無や、ドアミラー、サイドマーカー、リヤコンビランプの意匠の違いや、セリエ1のみの特徴となるリアハッチに装着されたナンバープレートの配置で識別が可能だ。


セリエ1のインテリアはシンプルかつユニーク!
インテリアはさらに違いが大きく、もともと初代パンダのインテリアはシンプルで装備も必要最小限度なものとなるが、セリエ1は輪をかけて簡素で、メーターナセルは小さく、メーター類はスピードメーターだけとなる。

セリエ2以降はダッシュボードに組み込まれた1DINのオーディオスペースもなく、レシーバーやラジオを取り付ける場合は、ダッシュボード下部の左右に広がった物入れのいずれかの場所に取り付けるのが普通のようだ。

シートはセリエ1だけがシトロエン2CVを参考にしたと思しきハンモックシートとなるが、セリエ2以降のシートは一般的な形状のものが装着される。シート生地はのちのモデルにはファブリックも採用されていたが、セリエ1はニットのみだ。なお、パンダでお馴染みのダッシュボード左右に移動可能な灰皿はセリエ1から採用されている。


セリエ1に準じたスペインのライセンス生産版
セリエ1の内外装の特徴は、スペインでライセンス生産されていたセアト・パンダもほぼ同じだ。それというのもフィアットとのライセンス契約は1986年で失効したことから、フィアット版のセリエ2に相当するモデルは生産されてはいない。


フィアットとセアトの提携が解消されてからは、パンダの商標を使うことができなくなったことから、セアト版はマルベーリャに名称を変更することになった。その際にフィアットの意匠権を侵害しないように、フロントグリルをセアトオリジナルのものにするなど細部のデザインが変更されている。
メカニズムは基本的にセリエ1のものが踏襲されており、1998年にマルベーリャが生産を終了するまで、メカニズムに大きな変更を受けることはなかった。


初代パンダの各モデルを見比べられる『パンダリーノ』
今回のパンダリーノでは、さすがに南欧を中心に販売されたパンダ30を見かけなかったが、それでもパンダ45はそれなりのエントリーがあった。そればかりか、日本に正規輸入されることのなかったセアト・パンダ、それも商用版であるフルゴネットの「トランス」がいたのには驚かされた。

街中で初代パンダを見かけることはあれども、前期型のセリエ1やセアト・パンダを見かける機会はほぼないだろう。セリエ1はその後のモデルと比べれば明らかに設計の古さを感じるものの、ジョルジェット・ジウジアーロ氏の原初のデザインということもあって、パンダのファンからは重用されている。


なお、こうした初代パンダのモデルによる違いをじっくりと検分できるのも、フィアット・パンダの祭典である『パンダリーノ』ならではのことだろう。それだけでも会場に来た甲斐があるというものだ。