【『パンダリーノ2025』レポート vol.2】

どこが違うの?初代フィアット・パンダは23年間で450万台を生産したロングセラー!スペイン製やバンモデルもある!?

2025年5月24日(土)と25日(日)の2日間に渡って静岡県浜松市にある渚園キャンプ場を会場に『パンダリーノ2025』が例年通り開催された。初代から3代目まで個性豊かなパンダがエントリーするこのミーティングには、日頃なかなかお目にかかれない前期型のパンダ・セリエ1が多数エントリーしていた。今回はそんなセリエ1をフィーチャー、セリエ2との比較などをお届けする。
REPORT&PHOTO:山崎 龍(YAMAZAKI Ryu)

初代フィアット・パンダは23年間で450万台生産!!

2008年に第1回が開催され、今回で16回目を数えるフィアット・パンダの祭典「パンダリーノ2025」が、2025年5月24日(土)と25日(日)の2日間に渡って、静岡県浜松市にある渚園キャンプ場を会場に開催された。

『パンダリーノ2025』会場の様子。
【『パンダリーノ2025』レポート vol.1】

今回エントリーした車両は約300台。そのほとんどがフィアット・パンダで、さらに会場に並ぶパンダのうち半分以上が初代モデルだった。このクルマは1980年2月26日にイタリアで発表され、2003年9月5日に最終生産車がラインオフするまで、23年間に渡って450万台が生産された。

23年間に渡って製造された初代フィアットパンダは、大きく分けて前期型のセリエ1、中期型のセリエ2(MC前)、後期型のセリエ2(MC後)の3種類が存在する。写真左側が前期型、右側が中期型だが、オーナーの好みで後期型のグリルに換装されている。
セリエ1とセリエ2(MC前)のリヤビュー。前期型は903cc直列4気筒OHVエンジンを搭載したパンダ45、中期型は1108cc直列4気筒SOHC「FIRE」エンジンを搭載したパンダ1100CLX。

イギリスのAUTO CAR誌の2020年の記事によれば、単一生産モデルの長寿記録としては史上29番目となるらしい。ただし、同誌の記事は36年間に渡って生産が続いた三菱デボネアが抜けるなど、精査の甘さがある。この順位を額面通りに受け入れて良いのかやや不安にはなるが、いずれにしても欧州を代表する長寿車であることに変わりはない。

企業出店で参加していた「ガレージミニパン」(https://mini-pan.com)が展示販売していたパンダ45。コンディションは良好。価格は応談とのこと。
中期型の1987年型パンダ1000CL。フロントグリルと丸型のサイドマーカーが後期型との違い。
後期型の1998年型パンダ4×4。オーストリアのシュタイアー・プフ社(自動車の生産や部品製造のほか、ブルパップ式の軍用小銃シュタイアーAUGの製造元としても知られる。※現在は銃器部門は分社化)の開発したドライブトレインを搭載。4×4は前期型のモデルライフ途中となる1983年6月に追加された。

セリエ1とセリエ2以降のモデルとの違いとは?

だが、初代パンダは厳密に言うと前期のセリエ1とセリエ2とは、外見はそっくりでも中身はまったく異なっているので、36年間進化がなかったということではない。

前期型のパンダ45の透視図。
中期型のパンダ1000の透視図。

セリエ2が1985年にフィアットが満を持して世に送り出したFIRE(Fiat Powertrain Technologies)エンジンを搭載しているのに対し、それ以前のセリエ1のパワーユニットは、フィアット126用の空冷652cc直列2気筒OHVと127用の水冷903cc直列4気筒OHVという2種類の設計が古いエンジンが搭載されていた。なお、搭載エンジンの違いから前者は「パンダ30」、後者は「パンダ45」と命名されている。

前期型としてはモデル末期に生産された1986年型パンダ45CL。
1985年型パンダ45のリヤビュー。コンビランプの意匠とナンバープレートがリヤハッチバックゲートに備わることが前期型の特徴だ。

組み合わされるトランスミッションは、パンダ30、パンダ45ともにデビュー時は4速MTのみ。発売開始から3年後の1982年後半になって、上級グレードとして追加設定された「スーパー」に5速MTがオプションとして選べるようになっただけで、ATの設定はなかった。

リヤゲートとボンネットを開いた状態のパンダ45CL。

また、ランチアY10にも採用された「オメガアーム」と呼ばれるトーションビーム式の近代的なリアサスペンションは備えるセリエ2とは異なり、セリエ1は古典的なリーフスプリングを使用したソリッドアクスルとなる。

前期型パンダは三角窓を備えることが中期型以降のモデルとの識別点。サイドミラーの形状も異なる。

エクステリアとインテリアはかなり異なる。もっとも簡単な外観上の見分け方はフロントグリルの意匠の違いで、セリエ1のみプレス加工によるスリットの入った1枚板のグリルが取り付けられていた。このスリットはエンジンレイアウトの違いからパンダ30は左側、パンダ45は右側に設けられている。

パンダの給油口はボディ右サイドに備わるが、ボディから突き出たタイプは前期型だけの特徴だ。

ほかにもボディサイドのプロテクションモールが、のちのモデルとは異なり、ドアとリヤフェンダーの下側全体を覆っているという違いもある。

パンダ45の心臓部はフィアット127のものを流用した水冷903cc直列4気筒OHVエンジン。なお、パンダ30は126用の空冷652cc直列2気筒OHVエンジンを搭載している。

ただし、上級グレードのスーパーはセリエ2と同じく、当時のフィアット車のCIである斜めに入った5本線を中央に配置した樹脂製のものになる。

パンダの前期型はリーフスプリングを使用したソリッドアクスル。中期型以降はランチアY10に先行採用された「オメガアーム」と呼ばれるトーションビーム式のリヤサスペンションに変更された。

その場合はサイドガラスの三角窓の有無や、ドアミラー、サイドマーカー、リヤコンビランプの意匠の違いや、セリエ1のみの特徴となるリアハッチに装着されたナンバープレートの配置で識別が可能だ。

652cc直列2気筒OHVエンジンを搭載したパンダ30。パンダ45とはフロントグリルのスリットの位置が左右反転していることに注目。
前期型のモデルライフ途中で追加された上級グレードのパンダ45スーパー。

セリエ1のインテリアはシンプルかつユニーク!

インテリアはさらに違いが大きく、もともと初代パンダのインテリアはシンプルで装備も必要最小限度なものとなるが、セリエ1は輪をかけて簡素で、メーターナセルは小さく、メーター類はスピードメーターだけとなる。

パンダ45のコックピット。中期型以降のモデルと比べると装備はより簡素となる。

セリエ2以降はダッシュボードに組み込まれた1DINのオーディオスペースもなく、レシーバーやラジオを取り付ける場合は、ダッシュボード下部の左右に広がった物入れのいずれかの場所に取り付けるのが普通のようだ。

後期型のパンダ1100 4×4のコックピットまわり。写真を見ればわかる通り、パンダ45とは細部のデザインがかなり異なる。

シートはセリエ1だけがシトロエン2CVを参考にしたと思しきハンモックシートとなるが、セリエ2以降のシートは一般的な形状のものが装着される。シート生地はのちのモデルにはファブリックも採用されていたが、セリエ1はニットのみだ。なお、パンダでお馴染みのダッシュボード左右に移動可能な灰皿はセリエ1から採用されている。

パンダ45のインテリア。ハンモックシートが前期モデルの特徴だ。
パンダ後期型のインテリア。シートは一般的なクッションを用いたタイプとなった。

セリエ1に準じたスペインのライセンス生産版

セリエ1の内外装の特徴は、スペインでライセンス生産されていたセアト・パンダもほぼ同じだ。それというのもフィアットとのライセンス契約は1986年で失効したことから、フィアット版のセリエ2に相当するモデルは生産されてはいない。

セアト・パンダトランス。フルゴネットのトランスはセアトのみのボディバリエーション。1986年にフィアットとの提携関係が終了してからは、フロントマスクをセアトオリジナルに変更し、テッラとして生産が継続された。
セアト・パンダトランスのリヤビュー。観音開き式のリヤゲートが備わる。

フィアットとセアトの提携が解消されてからは、パンダの商標を使うことができなくなったことから、セアト版はマルベーリャに名称を変更することになった。その際にフィアットの意匠権を侵害しないように、フロントグリルをセアトオリジナルのものにするなど細部のデザインが変更されている。

セアト・パンダトランスのフロントマスク。ラジエターグリルのバッジがセアトに変更されている。
セアト・パンダトランスの運転席直上のルーフにはエアデフレクターを兼ねたキャリアが備わる。
リアゲート右側のセアト・パンダトランスのバッジ。

メカニズムは基本的にセリエ1のものが踏襲されており、1998年にマルベーリャが生産を終了するまで、メカニズムに大きな変更を受けることはなかった。

乗用モデルのセアト・パンダ。
1986年以降、セアトはパンダをフェイスリフトし、マルベーリャの名称でセアトオリジナルのコンパクトカーとして販売を継続した。
セアト・マルベーリャはヨーロッパのクラシックラリーでも見かける。

初代パンダの各モデルを見比べられる『パンダリーノ』

今回のパンダリーノでは、さすがに南欧を中心に販売されたパンダ30を見かけなかったが、それでもパンダ45はそれなりのエントリーがあった。そればかりか、日本に正規輸入されることのなかったセアト・パンダ、それも商用版であるフルゴネットの「トランス」がいたのには驚かされた。

1983年型パンダ45。

街中で初代パンダを見かけることはあれども、前期型のセリエ1やセアト・パンダを見かける機会はほぼないだろう。セリエ1はその後のモデルと比べれば明らかに設計の古さを感じるものの、ジョルジェット・ジウジアーロ氏の原初のデザインということもあって、パンダのファンからは重用されている。

1987年型パンダ45。
1987年型パンダ45のリヤビュー。

なお、こうした初代パンダのモデルによる違いをじっくりと検分できるのも、フィアット・パンダの祭典である『パンダリーノ』ならではのことだろう。それだけでも会場に来た甲斐があるというものだ。

キーワードで検索する

著者プロフィール

山崎 龍 近影

山崎 龍

フリーライター。1973年東京生まれ。自動車雑誌編集者を経てフリーに。クルマやバイクが一応の専門だが、…