「ビンファスト」って知ってる?2017年に設立されたベトナム初の乗用車メーカーは2023年にはナスダック上場を果たす大躍進!

フォーやバインミーなどの料理や民族衣装のアオザイなどで知られるベトナムにも、自動車メーカーがあることをご存じだろうか。それが「ビンファスト」だ。
REPORT:大音安弘(OHTO Yasuhiro) PHOTO:大音安弘(OHTO Yasuhiro)/ビンファスト(VINFAST)

「ビンファスト」とは?

ビンファストは、ベトナム最大の財閥である「ビングループ」が2017年に立ち上げた新興自動車メーカーである。その翌年にベトナム初の乗用車が発表された舞台は、なんと最も歴史のある自動車ショーのひとつであるフランスの「パリサロン」という豪華さ。当初から世界進出を意識していたことがうかがえる。

ハノイ市内にあるビンファスト新車ディーラー。綺麗で上品な作りの販売店だった。

2018年のパリサロンで、ワールドプレミアされたミドルサイズセダン「Lux A2.0」とミドルサイズSUV「Lux SA2.0」のスピード開発を支えたのは、名立たる欧州企業だ。なんとデザインをピニンファリーナ、設計をマグナシュタイアが担当。BMWからはプラットフォームなどの技術提供を受けていた。初披露の舞台には、デビット・ベッカムを招くなどド派手なデビューを飾った。

ビンファストLux A2.0(写真中央)。その後方がビンファストVF3。写真右のスクーターもビンファストだ。
激レアの限定車「プレジデント」風のカスタムを加えたビンファストLux SA2.0。

2018年11月には、バイクが国民の足であるベトナムらしく電動バイクにも参入。同じタイミングでコンパクトSUV「Fadil」、ミドルサイズセダン「Lux A2.0」、ミドルサイズSUV「Lux SA2.0」のガソリンエンジン車3車種を発売。本格的なベトナムでの自動車ビジネスをスタートした。ただし、納車開始は2019年6月からとなった。

ビンファストFadil。GM系のボクスホール・ヴァーバ・ロックスと基本を共有するモデルだ。

当初はエンジン車のみを展開しており、2020年9月には6.2L V8という大排気量の高級SUV「プレジデント」を発表。しかし、翌年の2021年1月には独自開発のEV「VF e34」「VF e35」「VF e36」の3車種のSUVを発売した。

ビンファスト・プレジデント。Lux SA2.0ベースのV型8気筒エンジン搭載モデル。限定500台のレア車だ。
ビンファストVF e34。最初に投入されたEVシリーズのひとつ。写真はタクシー仕様のもの。現在もビジネスユース向けに「Nerio Green」の名で販売中。
ビンファストVF e35。現在は、VF8に改名されている。
EVフラッグシップモデルとなる「ビンファストVF9」の発表時の名称が「ビンファストVF e36」だった。

そのタイミングで、世界進出と共にEVシフトの戦略を掲げ、大きな話題となったことは記憶に新しい。2021年7月には、北米と欧州内の5つの市場への参入を皮切りに、グローバル展開をスタート。2023年8月にはナスダック上場も果たしており、驚くべきスピーディな展開である。

全6モデルをラインナップし、全モデルがSUVタイプのEV

最新の車種展開については、小さい順に「VF3」「VF5」「VF6」「VF7」「VF8」「VF9」の6車種のEVを展開。全てSUVタイプとなる。

ビンファストディーラー内に展示された「ビンファストVF6」。全長4238mmのコンパクトSUVだ。
ビンファストディーラー内に展示された「ビンファストVF7」。全長4545mmのミドルサイズSUVだ。
ビンファストVF8(写真手前)は全長4750mmとVF7よりワンサイズ大きなミドルサイズSUV。4WDとなるのも特徴。ビングループのショッピングモール内にも新車ディーラーがあった。
ビンファストディーラー内に展示された「ビンファストVF9」は、全長5120mmのラージSUVで同社のフラッグシップモデル。全車4WD仕様となる。

現地では、どのくらいビンファストが活躍しているのだろうか。現地メディアの情報では、ベトナムの2024年新車販売の1位と2位にビンファストのEVがランクイン。3位~10位までは海外ブランドが占めており、一部ハイブリッドを含むが、ほぼエンジン搭載車だ。

ベトナムの自動車販売台数トップはビンファストVF5

1位に輝いたのはビンファストVF5だ。全長4m以下のコンパクト5ドアハッチバックで、ボディサイズは、全長3967mm×全幅1723mm×全高1579mmと手頃なサイズだが、トールスタイルのEVため、サイズよりも室内は広く感じる。

ビンファストVF5のビジネス向けモデル「Herio Green」のタクシー仕様。

前輪駆動で、モーター性能は最高出力134HP、最大トルク135Nmと1.5Lエンジン車並みの性能を有する。1充電当たりの航続距離は326kmとなっている。

ショッピングモールに設置されたビンファストの急速充電ステーション。多くのビンファストが充電中だった。

価格は5億2900万ドンと日本円で292万円ほど(2025年7月4日のレート)。装備はエアコンとタッチスクリーンなど基本的なもので、ADASはほぼ無いがブラインドスポットモニターは標準装備されている。自動車とバイクが激しく競り合うベトナムのハードな道路事情を考慮したものなのだろうか。同車は3万2000台が売れたという。

バイクに囲まれるビンファストのタクシー。ベトナムの交通事情も東南アジアの御多分に洩れずバイクが非常に多い。

2位もビンファストのVF3だが、3位は三菱エクスパンダー

エントリーモデルとなる「ビンファストVF3」は、他のビンファストとは異なる愛嬌たっぷりのデザインが特徴だ。

2位はビンファストVF3だ。シティコミューター的な3ドアコンパクトカーで、ボクシーなスタイルが特徴的。全長3190mm×全幅1679mm×全高1622mmとボディサイズ小さいが4人乗りだ。
後輪駆動で、モーター最大出力が32kW、最大トルクが110Nmとなる。航続距離は215kmとされている。

ビンファストVF3のリヤビュー。他モデルはFWDかAWDだが、同車だけRWDとなるのも特徴。

価格は2億9900万ドンと日本円で150万円ほど(2025年7月4日のレート)。シンプルだが、エアコンやタッチスクリーンなども装備しているので実用性は十分だ。2024年8月に発売されたものだが、お手頃さからか2万5000台も売れたという。

ビンファストVF3のコックピット。センターディスプレイを中心としたシンプルなレイアウト。
ビンファストVF3のフロントシート。
ビンファストVF3のリヤシート。

ちなみに3位がMPVの三菱エクスパンダーで1万9498台。4位がピックアップトラックのフォード・レンジャーの1万7508台。そして最も意外だったのが、高価格帯であるミドルサイズSUVのマツダCX-5が1万4781台で5位となっていたこと。さらにトップ10では日本車勢が健闘を見せているが、フォードやヒョンデも存在感を示している。

ベトナムの2024年新車販売台数3位の三菱エクスパンダーは3列シート7人乗りのMPV。価格は5億6000万ドン(約309万円)から。
2024年新車販売台数5位のマツダCX-5は、価格が7億4900万ドン(約438万円)からと高価なモデルだ。

2024年の国内外の乗用車と商用車を合わせた新車販売の総数は49万台とされている。まだまだ市場希望は小さく、ビンファストの海外戦略も、国内市場だけでは自動車メーカーとしての採算が厳しいとの判断なのだろう。

急速に拡大しいるベトナムの充電インフラ

ハノイ駅前の様子。多くのバイクとクルマが行き交う活気にあふれたエリアだ。

ベトナムの首都ハノイの街中ではビンファストのタクシーがゴロゴロしており、ライドシェアカーとしても活躍。そのため、VF5もタクシーなどのビジネスカーに使われるものが多い模様だ。

ビンファストVF5のライドシェアカー。ベトナムでも配車アプリが積極的に使われている。

ただVF3は、個人所有を示すナンバーが付けられており、モータリゼーションの下支えとなっていることがうかがえる。

個人所有ナンバーのビンファストVF3。白地のナンバーが自家用車を示す。

価格面では、2024年販売台数7位にラインクインしたトヨタのコンパクトセダン「ヴィオス」がガソリン車で5億ドン前後であることを鑑みれば、VF3とVF5がEVとしては、かなり手頃であることが分かる。

トヨタ・ヴィオス(2025年モデル/ベトナム)。現地では小型セダンのニーズも高いようだ。

ただ、ビンファスト人気の背景には個人向けの低価格車とビジネスカーニーズだけでなく、積極的な充電インフラの整備がある。ビンファストはベトナム全土で多くの急速充電ステーションを配備しており、かなりの数がある模様。

充電中のビンファストVF3。

それを象徴するのが、2025年6月に誕生したハノイ最大となる急速充電ステーションだ。なんと120kW出力の急速充電器が42基あり、最大で84台が同時に充電できるという凄さ。財閥系という資本力の大きさを活かした戦略が功を奏しているようだ。

ハノイの急速充電ステーション。同ステーションはショッピングモールに隣接。ショッピングモール内に数か所の急速充電ステーションが設けられていることには驚いた。

このため、比較的航続距離が短くとも、タクシーとしての活用できるのだろう。やはり、現地の有力企業が主導すれば、難しい市場開拓の大きな一歩を踏み出せるということか。その姿勢は、ベトナム版テスラともいえるかもしれない。

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著者プロフィール

大音安弘 近影

大音安弘

1980年生まれ、埼玉県出身。幼き頃からのクルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後…