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「ビンファスト」とは?
ビンファストは、ベトナム最大の財閥である「ビングループ」が2017年に立ち上げた新興自動車メーカーである。その翌年にベトナム初の乗用車が発表された舞台は、なんと最も歴史のある自動車ショーのひとつであるフランスの「パリサロン」という豪華さ。当初から世界進出を意識していたことがうかがえる。

2018年のパリサロンで、ワールドプレミアされたミドルサイズセダン「Lux A2.0」とミドルサイズSUV「Lux SA2.0」のスピード開発を支えたのは、名立たる欧州企業だ。なんとデザインをピニンファリーナ、設計をマグナシュタイアが担当。BMWからはプラットフォームなどの技術提供を受けていた。初披露の舞台には、デビット・ベッカムを招くなどド派手なデビューを飾った。


2018年11月には、バイクが国民の足であるベトナムらしく電動バイクにも参入。同じタイミングでコンパクトSUV「Fadil」、ミドルサイズセダン「Lux A2.0」、ミドルサイズSUV「Lux SA2.0」のガソリンエンジン車3車種を発売。本格的なベトナムでの自動車ビジネスをスタートした。ただし、納車開始は2019年6月からとなった。

当初はエンジン車のみを展開しており、2020年9月には6.2L V8という大排気量の高級SUV「プレジデント」を発表。しかし、翌年の2021年1月には独自開発のEV「VF e34」「VF e35」「VF e36」の3車種のSUVを発売した。




そのタイミングで、世界進出と共にEVシフトの戦略を掲げ、大きな話題となったことは記憶に新しい。2021年7月には、北米と欧州内の5つの市場への参入を皮切りに、グローバル展開をスタート。2023年8月にはナスダック上場も果たしており、驚くべきスピーディな展開である。
全6モデルをラインナップし、全モデルがSUVタイプのEV
最新の車種展開については、小さい順に「VF3」「VF5」「VF6」「VF7」「VF8」「VF9」の6車種のEVを展開。全てSUVタイプとなる。




現地では、どのくらいビンファストが活躍しているのだろうか。現地メディアの情報では、ベトナムの2024年新車販売の1位と2位にビンファストのEVがランクイン。3位~10位までは海外ブランドが占めており、一部ハイブリッドを含むが、ほぼエンジン搭載車だ。
ベトナムの自動車販売台数トップはビンファストVF5
1位に輝いたのはビンファストVF5だ。全長4m以下のコンパクト5ドアハッチバックで、ボディサイズは、全長3967mm×全幅1723mm×全高1579mmと手頃なサイズだが、トールスタイルのEVため、サイズよりも室内は広く感じる。

前輪駆動で、モーター性能は最高出力134HP、最大トルク135Nmと1.5Lエンジン車並みの性能を有する。1充電当たりの航続距離は326kmとなっている。

価格は5億2900万ドンと日本円で292万円ほど(2025年7月4日のレート)。装備はエアコンとタッチスクリーンなど基本的なもので、ADASはほぼ無いがブラインドスポットモニターは標準装備されている。自動車とバイクが激しく競り合うベトナムのハードな道路事情を考慮したものなのだろうか。同車は3万2000台が売れたという。

2位もビンファストのVF3だが、3位は三菱エクスパンダー

2位はビンファストVF3だ。シティコミューター的な3ドアコンパクトカーで、ボクシーなスタイルが特徴的。全長3190mm×全幅1679mm×全高1622mmとボディサイズ小さいが4人乗りだ。
後輪駆動で、モーター最大出力が32kW、最大トルクが110Nmとなる。航続距離は215kmとされている。

価格は2億9900万ドンと日本円で150万円ほど(2025年7月4日のレート)。シンプルだが、エアコンやタッチスクリーンなども装備しているので実用性は十分だ。2024年8月に発売されたものだが、お手頃さからか2万5000台も売れたという。

ちなみに3位がMPVの三菱エクスパンダーで1万9498台。4位がピックアップトラックのフォード・レンジャーの1万7508台。そして最も意外だったのが、高価格帯であるミドルサイズSUVのマツダCX-5が1万4781台で5位となっていたこと。さらにトップ10では日本車勢が健闘を見せているが、フォードやヒョンデも存在感を示している。


2024年の国内外の乗用車と商用車を合わせた新車販売の総数は49万台とされている。まだまだ市場希望は小さく、ビンファストの海外戦略も、国内市場だけでは自動車メーカーとしての採算が厳しいとの判断なのだろう。
急速に拡大しいるベトナムの充電インフラ

ベトナムの首都ハノイの街中ではビンファストのタクシーがゴロゴロしており、ライドシェアカーとしても活躍。そのため、VF5もタクシーなどのビジネスカーに使われるものが多い模様だ。

ただVF3は、個人所有を示すナンバーが付けられており、モータリゼーションの下支えとなっていることがうかがえる。

価格面では、2024年販売台数7位にラインクインしたトヨタのコンパクトセダン「ヴィオス」がガソリン車で5億ドン前後であることを鑑みれば、VF3とVF5がEVとしては、かなり手頃であることが分かる。

ただ、ビンファスト人気の背景には個人向けの低価格車とビジネスカーニーズだけでなく、積極的な充電インフラの整備がある。ビンファストはベトナム全土で多くの急速充電ステーションを配備しており、かなりの数がある模様。

それを象徴するのが、2025年6月に誕生したハノイ最大となる急速充電ステーションだ。なんと120kW出力の急速充電器が42基あり、最大で84台が同時に充電できるという凄さ。財閥系という資本力の大きさを活かした戦略が功を奏しているようだ。

このため、比較的航続距離が短くとも、タクシーとしての活用できるのだろう。やはり、現地の有力企業が主導すれば、難しい市場開拓の大きな一歩を踏み出せるということか。その姿勢は、ベトナム版テスラともいえるかもしれない。
