新型トヨタ・ノア/ヴォクシー開発責任者インタビュー:「『必ずいいクルマにする』」と、お客様のニーズ一つひとつの解決策を必死に考え実現しました」

「必ずいいクルマにする!」新型トヨタ・ノア/ヴォクシー の開発責任者が語る「なぜここまでできたのか」

新型トヨタ・ノア(左)、ヴォクシー(右)とトヨタ車体の水間英紀チーフエンジニア
新型トヨタ・ノア(左)、ヴォクシー(右)とトヨタ車体の水間英紀チーフエンジニア
1月13日に発売された新型トヨタ・ノア/ヴォクシー。先々代の二代目より開発の指揮を続けており、現在はトヨタ車体の取締役・執行役員 開発本部本部長としての重責も担う、水澗英紀チーフエンジニアに、さまざまな新機軸が盛り込まれた経緯について聞いた。

REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●遠藤正賢、トヨタ自動車

初期受注では約7割! 新型はハイブリッド比率を上げたい

ハイブリッド車(FF)のパワートレーンとベアシャシ
ハイブリッド車(FF)のパワートレーンとベアシャシ

MF ハイブリッド車とガソリン車の販売比率はどうですか?
水澗さん 先代のハイブリッド車比率は35%でした。でも電動車の比率を上げていくなかで、今回のモデルではもっとハイブリッド車率を上げたいと思っていますが、先行受注では70%近かったはずです。価格差が縮まっているという部分もあり、ハイブリッド車の燃費がさらに良くなってるというのもあり、ガソリン価格は高騰していて比較的ペイしやすくなってきている。あとはカーボンニュートラルの関係で「これからの車は電動化だよね」という考え方が広まり、「今の時代なら……」という人が増えてきた結果が、7割という数字だと思います。

MF それは想定通りですか?
水澗さん 想定より多いですね。

MF 想定ではどのくらいの比率だったんでしょうか?
水澗さん 正確な数値はありませんが、私は6割くらいいけばいいなと思っていました。

MF ハイブリッド車とコンベンショナルなエンジン車が両方の設定がある場合、ミニバンの場合はハイブリッド比率が比較的低いのでしょうか?
水澗さん ミニバンだからというより、価格帯によると思います。高級車、例えば先代のクラウンは、ほとんどハイブリッド車でした。ところがノア/ヴォクシーはバリューフォーマネーなクルマで、走りのために買うクルマではないですよね。バリューフォーマネーなのでペイバック、何年何万kmでペイするのかということを考えます。先代は価格差が45万円ぐらいあったんですが、これをペイしようとすると結構長い距離を乗らなければなりません。それならガソリン車で……という方が多かったと思います。その結果が35%ぐらいという比率なのだと思います。このクラスは他社さんも恐らくそのくらいです。新型ではハイブリッドとコンベの価格差は35万円くらいになり、さらに減税等々を考えると価格差はもっと縮まります。それで前述の風潮もあり、7割という結果になったのかなと思います。

「E-Four」用リヤトランスアクスル

MF 新型では、ハイブリッド車に4WD車(E-FOURが追加され、国内マーケットの北の方が全部取れるにようにな……ったりするんでしょうか?
水澗さん 元々北海道地区は、トヨタのシェアは決して低くないと思います、4WD車のレパトリーが多いメーカーですから。ただ、ハイブリッド車を発売した際に、「何でE-FOURがないの?」とずっと言われてきました。元々ハイブリッド比率がどのくらいかって読めなかった。先代を企画した時は、ハイブリッド比率は15~20%、そんなに高くないんじゃないかと言われていたなかで、E-FOURはトゥーマッチだよねという考えがありましたし、まだ現行プリウスのスタンバイE-FOURが出るか出ないかくらいのタイミングでしたから。ただ時代も変わって、「次回は絶対E-FOURが欲しい」という声を北の地域からいただいており、しかもスタンバイE-FOURよりも強力なリヤモーターが今回できたものですから。

MF あのリヤモーターは、新型ノア/ヴォクシーのために作ってくれと頼んだわけではなく、トヨタさんがちょうど開発していたものの一番出しが新型ノア/ヴォクシーになったということですか?
水澗さん そうです。第5世代とトヨタ内では呼称していますが、ノア/ヴォクシーのために作っていただいて感謝していますね。……敬語ですけど、トヨタに作っていただいたというスタンスです(笑)。間に合わせていただいたというか、彼らもノア/ヴォクシーのハイブリッドを良くしたいという想いで、すごく前向きに開発してくれましたね。

MF ミニバンのユーザーは、さほど燃費にはこだわらないものなのでしょうか?
水澗さん
 数値で……例えばセレナの方が燃費が良いからセレナを買う、ノア/ヴォクシーの方が燃費が良いからノア/ヴォクシーを買うというお客さんはいらっしゃいますが、決して多くないと思います。ミニバンとしての使い勝手、プライオリティはこれが一番ですね。ただ、決して燃費が良いクルマではないが故に、ひとつ前のヴォクシーから新しいモデルに乗り換えられた時に燃費がどのぐらい良くなっているかを気にされる方は、すごく多いですね。他社との比較というより、ヴォクシーに代々に乗っており、カタログ値は良くなっているのに実燃費は変わらない……という声は、これまでに聞いたことがあります。ですが、燃費のモードが変わっているので、昔の10・15がJC08になり、WLTCになり……そういう部分で言うと、数値が一人歩きしなくなっているのではないかなという感覚はあります。


GA-Cプラットフォームを用いた新型ノア/ヴォクシーのボディ骨格
GA-Cプラットフォームを用いた新型ノア/ヴォクシーのボディ骨格

3ナンバー化、新プラットフォーム採用の効果

MF 新型では全車とも全幅が3ナンバーサイズになったのが、ひとつの大きなトピックだと思いますが、その結果得られたメリットはどこにあるのでしょうか?
水澗さん フロントサイズを決めたのはほとんどが、フロントのエンジンコンパートメントとサスペンションです。これはTNGAのGA-Cプラットフォームを使ったことで、やはり5ナンバーサイズを維持するのが非常に難しくなりました。グローバルのプラットフォームですので、現行のプリウスやカローラを見ても1760mmありますよね。ですからそのまま使おうと思ったら1760mmになるんです。ただ、こういう扱いやすい、国内専用のミニバンだからこそ、極力小さく狭くできないかという改良のなかで、先代のエアロ仕様の全幅が1735mmだったので、これよりは小さくしようということになり、全幅は1730mmになりました。ただ、これによってタイヤサイズも1ランク上げられました。先代は16インチが最大でしたが、新型は17インチまであります。また先代は、フロントフェンダーだけで全幅を決めていましたので、リヤは1695mmだったんですね。今回はリヤまで1730mmありますので、リヤフロアが若干ワイド方向に余裕ができたことで、意匠代が増えたことや、センターウォークするが少し広くなったなどのメリットが生まれています。

7人乗り仕様・2列目キャプテンシートの超ロングスライド機構使用イメージ
7人乗り仕様・2列目キャプテンシートの超ロングスライド機構使用イメージ

MF 新型では2列目のシートスライドに左右方向の動きがなくなり、前後方向だけで車体後方までスライドできるようになっていますが、これは全幅を広げたことが……。
水澗さん これは、幅とは関係ないんですね。元々内側にスライドしていたのは、ホイールハウスとシート骨格のリクライナーがぶつかっているからで……これは最後のエスティマから採用していたのですが……内スライドのロングスライドを採り入れていました。アルファードやノア/ヴォクシーもみんなこの機構でしたが、そうするとセンターテーブル、カップホルダーが使えないんですね。センターテーブルがなくなりますし、シートバックテーブルは遠くて届かないですし、ウォークスルーもできないですし、あとは大人2人乗ると隣が近すぎてキャプテンシート感がない。
ということで、今回シート骨格を作り直して、リクライナーを車両の内側にグッと寄せたので、横スライドなしでホイールハウスをよけてスライドできることになりました。そうすることで、テーブルも使える、ウォークスルーもできる、隣の人との距離も離れて快適に座れるようになっています。機構としてもシンプルな方が、お客様としてはずっと分かりやすいですし。

MF ホイールハウスが小さくなったからロングスライドできるようになった……?
水澗さん
そうではないですね。ホイールハウスも変わっていません。

MF ミニバンでは、シートアレンジを「これもできる」「あれもできる」と競っている時期があったと思いますが、現在はその流れは落ち着いたのでしょうか?
水澗さん 二代目の時には回転シートなどもありましたが、自分も使っていて、手間がかかる割に……という部分もありましたね。例えばセレナは「スマートマルチセンターシート」を使っていろんなアレンジができますよね。ですが聞くと、意外とほぼ固定で使われるケースが多いので、アレンジの数を競うよりは使い方を簡単に、2列目だけしか使わない時や、 3列目も使う時に、説明されなくてもシートアレンジできる方が良いのではないかと私は思っています。

3列目シートをワンタッチで跳ね上げて格納した状態。ロック機構と解除ボタンはDピラー中央付近に備わる
3列目シートをワンタッチで跳ね上げて格納した状態。ロック機構と解除ボタンはDピラー中央付近に備わる

MF 新型の3列目シートの折りたたみ機構はすごいですね。
水澗さん ロックは先代の時点でやりたかったんですが、できなかったんですよね。

MF バックドアを途中で停止できる機構や補助ステップ、3列目のワンタッチ跳ね上げ機構などは、思いやり機能という印象がありますが、他にも何かありましたら……。
水澗さん サイドステップと中間停止のバックドア、3列目のロックはわかりやすいと思いますが、横スライドしないでストレートにロングスライドできる2列目シートは、縁の下ですけど座る方にとっては先代よりずっと簡単で快適だと思います。

もうひとつ、シートでは、3列目のシートが先代よりさらに薄くなったんですね。要は新型では2列目が内側スライドしない、外でスライドする分だけ、3列目を跳ね上げた際によりクォーターガラスへ押し付けなければならなくなったんですが、先代でも乗り心地、座り心地が硬いと批判されていました。ですから薄くしながら座り心地を良くするのがなかなか難しかったんですが、今回新しく開発したネットシートタイプのスプリングを使って、薄いんですがしっかり綺麗にたわませて、ホールド性も座り心地もまあ悪くないという所まで何とかできたと思います。

新型ノアの走行イメージ。サスペンションは全車ともフロントがストラット式、リヤはトーションビーム式
新型ノアの走行イメージ。サスペンションは全車ともフロントがストラット式、リヤはトーションビーム式

MF 最後の質問です。ボディ&シャシーはどのように進化しているのでしょうか?
水澗さん フロントサスペンションとエンジン懸架系をTNGA-Cに変えましたが、従来は昔のイプサムからずっと使い回していたんですね。ですから今回初めて、フロント周りが刷新されました。これによってフロントサスペンションも新世代に刷新されたので直進性、旋回性は格段に良くなっています。
リヤの骨格も、今までは低床優先でロッカーパネルやアンダーの骨格断面を決めていましたが、若干フロア高が上がったものの、骨格をしっかり通したことによって剛性が上がりました。走りの質感向上にも寄与していますので、ぜひ試乗していただきたいと思います。

MF その時を楽しみにしています。ありがとうございました!

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著者プロフィール

遠藤正賢 近影

遠藤正賢

1977年生まれ。神奈川県横浜市出身。2001年早稲田大学商学部卒業後、自動車ディーラー営業、国産新車誌編…