溝呂木 陽の水彩カースケッチ帳 連載・第18回 大いなる『栄光のル・マン』!

溝呂木 陽の水彩カースケッチ帳/連載・第18回 大いなる『栄光のル・マン』!

クルマ大好きイラストレーター・溝呂木 陽(みぞろぎ あきら)さんによる、素敵な水彩画をまじえた連載カー・コラム。今回は10年ほど前に訪れた、フランス、ル・マンで開催されている偉大なクラシックカー・イベントで見た、レース映画の傑作『栄光のル・マン』でおなしみ、レンシュポルト・ポルシェたちのお話をお届けします。
『ル・マン クラシック』で見た、かの名手、リチャード・アトウッドのドライブでエントリーされたガルフカラーのポルシェ917K。(水彩画)

フランス、ル・マンで開催される一大ヒストリック・イベント、『ル・マン クラシック』にはたくさんのメイクスが集合しますが、中でも多数派と言えばポルシェの名前が上がります。50年代のクラスでは356、60年代では911はもちろん、数々のレンシュポルト系ポルシェ(要するにポルシェのレーシングカーのことです)が集合します。

中でも人気なのは50年代の550スパイダーと60年代の904、906、そして908や917といった70年代へと続いていくポルシェたち。さらに最後のクラス、72年から79年までの“グリッド6”にエントリーする白いマルティニカラーをまとったワークス ポルシェ936は、圧倒的な速さを見せて目を見張るものがあります。

会場をいく、アトウッドがル・マンで駆ったポルシェ917。(水彩画)
ムービーカメラとポルシェ917を並べてレース映画の傑作、『栄光のル・マン』の撮影風景をイメージした展示。

この年はレース映画の傑作と言われる『栄光のル・マン』の舞台となった1970年のル・マン24時間レース、ポルシェが初の総合優勝を記録した年から40周年という節目の年で、会場では『栄光のル・マン』のコーナーが作られ、ガルフカラーの917と当時のムービーカメラなどが再現された特設コーナーが設置され雰囲気を盛り上げていました。

もちろんレースでも実際の917のワークスドライバーであり、ハンス・ヘルマンと共にポルシェを優勝に導いたリチャード・アトウッド(日本の岡山国際サーキットの4番目のコーナーにその名が冠されている名手です)が乗るガルフカラーの917は、他を寄せ付けない速さと美しさをもって観客を魅了しました。やはりル・マンではガルフカラーの917は非常に人気が高く、ボクも見惚れて何枚も写真を撮ってしまいました。

マックイーンのカメラカーのポルシェ908。実際に1970年のル・マン24時間レースにエントリーし、撮影しながらレースを行ないました。(水彩画)

そして会場には変わった908も登場。この青い908はボンネットに箱状に突起物がありますが、これこそ当時の映画『栄光のル・マン』で中に16ミリカメラを設置して、実際にル・マン24時間レースにエントリーして走り切った、熱烈なレース・ファンとしても知られる名優、スティーブ・マックイーンの会社のカメラカーそのものなのです。頻繁なフィルムチェンジのために周回数こそ少なくなりましたが、その迫力ある映像はみなさんが心ときめかせて画面で見た通りの素晴らしいものでした。

この908は映画の前にはマックイーン自身がピーター・レブソンと共にアメリカ、セブリングの12時間レースにエントリー。マックイーンは足に怪我をしていて松葉杖をついていたもののレブソンと共に(周回数は少なかったですが)ドライブ。なんと白い908は総合2位で走り切り、チェッカーを受けることになります。マックイーン自身はこの『栄光のル・マン』でも自身がドライブしてエントリーしたかったそうですが、映画会社に許されず、この自分の908を青く塗り替えてカメラカーとしてエントリーさせたのだそうです。

アメリカンな雰囲気の漂うポルシェ904。(水彩画)

このシルバーのポルシェ904も美しいマシンでした。911もデザインしたアレクサンダー・“ブッツィー”・ポルシェ(フェルディナントの孫でポルシェデザインの創業者)がデザインした美しいレーシングカーの904は、ハシゴ型フレームにFRPボディ(なんと製造は、かの航空機メーカーのハインケル!)を持つ構造で、4気筒の4カムエンジンや6気筒エンジンなどを搭載してル・マンでも暴れ回りました。日本では式場壮吉選手が生沢徹選手のスカイラインGTと演じた第2回日本グランプリでの名シーン――スカイライン伝説の誕生――で有名なクルマですね。この904はアメリカンな雰囲気が素敵でとても絵になる個体でした。904はやはりシルバーが似合うクルマです。

ガルウィングドアが美しいポルシェ906。(水彩画)

そして日本グランプリでの滝進太郎選手や生沢選手の活躍で、日本でも人気のポルシェ906カレラ6も大好きなクルマです。この『ル・マン クラシック』で見た、特徴的なガルウィングドアが目立つ906もとても素敵なマシンでした。ボクはかなり昔――たぶん60年代――にイマイがキット化し、それを後年、バンダイが再販した大きめの1/16スケールの精密なプラモデルを作ったことがあります。パイプフレームを組んでエンジンを搭載していく製作過程は、ゴロンとしたプラスティック 製ボディの存在感も合わせて実車感満点で、そのよくできた構成に唸らされました。

キットは60年代の企画らしく生沢選手の1967年日本グランプリ優勝車のデカールがついていましたが、ボクは個人的に気に入っている66年のセブリングの906のデカールをパソコンで自作して仕上げました。それが白いボディに青いフロントフードで大好きなカラーリングなんです。

今では“ガンプラ”でおなじみ(?)のバンダイ(オリジナルはイマイ)の1/16カレラ6 。大きめのサイズでプロポーションも素晴らしい60年代の傑作キットです。セブリング仕様のデカールは自作しました。(模型)
パイプフレームを組んでエンジンを搭載していく製作過程やゴロンとしたボディの存在感も合わせて実車感満点だったバンダイの1/16カレラ6。(模型)
筆者にとっても思い出深い、シルバーのポルシェ550スパイダー。(水彩画)

そしてこの連載で以前にも書いた思い出深い550スパイダー。こちらはボクが日本で乗せていただいた54年式の初期型ではなく、後の55年ごろのスタイル。白いテントを通した強烈な日差しがシルバーのボディにキラキラと輝きとても印象的な一台でした。

日本のヒストリックカー・シーンでも人気が高く、数字の並びから“サンゴロー”と呼ばれて愛されているポルシェ356。(水彩画)

こちらのシルバーの356も、50年代らしい一台で魅力的に映りましたよ。

アメリカのIMSAシリーズでは00番をつけていたインタースコープ ポルシェ935k3、1980年仕様。チーム自体はポルシェ936CK5でル・マン24時間レースにも参戦しています。(水彩画)

最後にこちらはクレマーレーシングの創設者、クレマー兄弟がモディファイした935シリーズの最終形、935k3(“k”はクレマーの頭文字で、彼らによる改良モデルを表す)。アメリカのIMSAシリーズでも活躍したインタースコープ・レーシング――レース・ファンとして有名な映画プロデューサー、日本でも『ラストサムライ』や『ジュマンジ』などで知られるテッド・フィールドが率いたアメリカのレーシングチーム――の美しい漆黒のポルシェで、00番という謎めいたゼッケンナンバーと共に細部まで素晴らしいフィニッシュで大好きだったクルマです。この『ル・マン クラシック』でも艶かしい姿をじっくりと眺めることができました。

『ル・マン クラシック』では戦前の名車から50年代のサラブレッド、60年代のスポーツプロトタイプや70年代の大排気量マシン、80年代に近いグループ5やグループ6などさまざまなクルマたちを楽しむことができます。今はさらにグループCのクラスも追加されているのでさらにバラエティあふれる車を楽しむことができるでしょう。

一つのサーキットを舞台にしたいろいろな時代の歴史絵巻。その時間軸をたくさんの観衆の拍手と声援に混ざってその場に身を置く贅沢。ボクは一生忘れられないでしょう。

著者プロフィール

溝呂木 陽 近影

溝呂木 陽

溝呂木 陽 (みぞろぎ あきら)
1967年生まれ。武蔵野美術大学卒。
中学生時代から毎月雑誌投稿、高校生の…