目次
○:優れたスペースユーティリティと、モーターの加速感
×:らしくない堅めの乗り心地と、急速充電に非対応なこと
2022年も、大磯プリンスホテルには日本自動車輸入組合(JAIA)の媒体向け試乗会が開催されたが、今回は高級SUVを中心に試乗してみた。この試乗会は、自動車媒体関係者でも、普段なかなか試乗する機会がない車種もあり、非常にありがたいイベントとなっている。ただ試乗時間が短いため、十分なユーザー視線とはいかないが、そこはご容赦いただきたい。
さて、最初にステアリングを握ったのはプジョー3008 GT ハイブリッド4だ。このラテン系SUVには、プジョーとしてはいくつかの“お初”がある。まず、現在は3モデルのラインナップがあるプジョーのPHEVで、一番最初にリリースされたのが同車である。第二に、これまでFFにこだわってきたプジョーSUVが、PHEVの採用を機に初めて4WDを導入したことだ。
4WDに関して言えば、通常の4WDシステムの場合は前後輪の駆動系に加えて、前後輪を結ぶパワートレーンも必要になるため、レイアウトも含めてなかなか敷居が高くなる。しかし、PHEVの場合は前後のモーターで前後輪を独立させて駆動させるため、プロペラシャフトが必要ない。ならばせっかくなので4WDにしてしまおう…ということだったのだろう。ちなみに、3008には2Lディーゼルと1.6Lガソリンターボもラインナップされているが、こちらは共にFFを採用している。
この駆動系は、フロントに110psのモーター、リアに112psのモーターを配置し、トータルで300ps/520Nmを発生。3008のデビュー当時(2021年)は、歴代市販モデル最強の出力と謳っていた。トランスミッションはPHEV専用のe-EAT8が組み合わされている。ちなみにエンジンは1.6L直4で、200psを発生。EVモードで走っているうちに電気が無くなった場合は、エンジンのみで走行することができる。
4WDのトルク配分は、発進時にリアモーターを駆動させ、135km/hまではそれを維持。状況に応じてFFにする仕組みなっているという。モーター4WDはトラクションコントロールも独自で、FF車にあるような「ノーマル」「マッド」「サンド」といったシーン別のモードセレクトはない。代わりに「4WD」「スポーツ(エンジン駆動)」「ハイブリッド」「EV」というモードに置き換えられ、トラクションコントロールはその中に内包されている。三菱アウトランダーPHEVのように、それぞれモードがあると楽しいのに…と思うのだが、欧州的な思考だと煩雑なインターフェイスは使いづらいのかもしれない。
さて、エクステリアのデザインは、さすがの欧州車である。先代の3008を比べてもゴージャスで、フロント回りなどまるで宝石店のようである。グリルは非常に繊細な細工が施されており、日本車が到底真似のできないセンスだ。最近だとアウトランダーPHEVもかなりデザイン面で頑張っているが、3008を見ると、アルミホイール、メッキモール、リアコンビネーションランプの意匠はいかにもこなれている感がある。
インテリアも同様で、シートの周りはシンプルモダンデザイン炸裂である。こういった意匠はボルボが先駆者的なイメージがあるが、スカンジナビアデザインが有機的なのに対して、ラテン系はメカニカルなエロさがある。流行の液晶メーターはあまりいただいけないが、500万円台のクルマとしては、シートや各トリムも含めてなかなかの色気だと思う。
で、乗り味は言うと、これは賛否が分かれるところではないだろうか。まず、SUVという頭で乗ると、とにかく乗り味が硬い。往年のプジョーファンが「猫足」を想像して乗っても、同じなのではないだろうか。結構、ガチガチである。バッテリーユニット分の重量増ゆえなのか、それともこういうセッティングなのか。高速道路などでは、つなぎ目のハーシュネスをダイレクトに感じるし、後部座席に座るとさらにズンと来る。
しかし頭を切り替えて、SUVルックのスポーティカーなんだと思えば、こういう乗り心地も納得できなくはない。ステアリングホイールのD型っぽい形状を考えても、そもそも3008 GT ハイブリッド4はダートなぞ走るものではなく、ワインディングを気持ち良くドライブするクルマなのだ。そう頭を切り替えると、パワーユニットの出力とサスペンションの特性が見えてくる気がする。
パワーユニットのフィーリングはと言えば、どのモードでも“GT”を感じることができる。EVモードの加速感は刺激的だし、スポーツモードはモーターにアレルギーのある人でも楽しく走ることができるだろう。
乗り味はSUVっぽくなくても、実用性は形状から想像する通りである。セカンドシートを使っても591Lという容量のラゲッジスペースが使え、フルフラットにすれば1670Lという十分な容量を得ることができる。 セカンドシートのシートバックが少し盛り上がるのはご愛敬だが、車中泊もできなくはない。
これで565万円というプライスは、当然ながらブルーライオン好きには高くないだろうし、輸入SUVを模索しているユーザーにもまずまずだろう。しかし、買う前に考えておかなければならないポイントがいくつかある。
周知の通り、日本は急速充電器にCHAdeMO規格のプラグを使用しているが、欧米ではCCS規格。つまり、高速道路のSAなどで急速充電器を使用できないのである。では、3008 GT HYBRID4を充電するのはどうすればいいかというと、SAのCHAdeMO充電器の横にある普通充電用の電源ボックスの箱を開けてもらい、時間をかけて充電するしかない。
ちなみに満充電した場合に、どれだけ走行できるのかを販売店に確認したところ、走行状況次第だがおおむね20km程度だろうという。つまり東名高速・東京ICを出発して、海老名SAで充電する必要があるのだ。さらに電気が完全に無くなってしまった場合は、前述の通り、エンジン駆動で走るしかない。ハイブリッドモードが使えるのは、あくまでも電池残量がある時だけなのだ。
では、3008 GT ハイブリッド4を買う目的を見つけるとすれば、それはSUVのスペースユーティリティと、モーターの爆発的な加速感、そしてエンジン車としても楽しめる「ハイブリッド」車ということになる。このモデルは、家族でエコノミーに遠出するなどという青写真を描くのは間違いで、ともかく気持ち良くかっ飛んでゴルフやレジャーに行く燃費無用のお一人様カーというキャラがふさわしいのかもしれない。
プジョー3008 GT ハイブリッド4・主要諸元
■ボディサイズ
全長×全幅×全高:4450×1840×1630mm
ホイールベース:2675mm
車両重量:1880kg
乗車定員:5名
最小回転半径:5.6m
燃料タンク容量:43L(無鉛プレミアム)
■エンジン
形式:水冷直列4気筒DOHCターボチャージャー
排気量:1598cc
ボア×ストローク:77.0×85.8mm
圧縮比:10.5
最高出力:147kW(200ps)/6000rpm
最大トルク:300Nm/3000rpm
燃料供給方式:電子制御式燃料噴射
■フロントモーター
定格出力:30.0kW
最高出力:81kW(110ps)/2500rpm
最大トルク:320Nm/500-2500rpm
■リヤモーター
定格出力:32.7kW
最高出力:83kW(112ps)/14000rpm
最大トルク:166Nm/0-4760rpm
■動力用主電池
種類:リチウムイオン電池
総電圧:347V
総電力量:13.2kWh
■シャシー系
サスペンション形式:Fマクファーソンストラット・Rマルチリンク
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク・Rディスク
タイヤサイズ:225/55R18
■燃費・性能
【ハイブリッド燃料消費率】
WLTCモード:15.3km/L
市街地モード:11.5km/L
郊外モード:16.7km/L
高速道路モード:16.7km/L
EV走行換算距離(等価EVレンジ):64km
充電電力使用時走行距離(プラグインレンジ):64km
【交流電力量消費率】
WLTCモード:183Wh/km
市街地モード:194Wh/km
郊外モード:180Wh/km
高速道路モード:184Wh/km
一充電消費電力量:11.80kWh/回
■価格
614万8000円