脚周りと“実効空力”開発で「曲がりの質」をアップ! 発売が本当に楽しみなヴェゼルe:HEVモデューロXコンセプト

ヴェゼルe:HEVモデューロXコンセプト
ホンダアクセルが手がけるモデューロX。今回、木曽の雪上で試すことができたのは、今年発売予定のヴェゼルe:HEVをベースに開発中のホンダ純正コンプリートカーのモデューロX(コンセプト)だ。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)PHOTO:HONDA
Honda Snow Test Drive 2022 in 御岳スノーランド

それは衝撃的な映像だった。2022年の発売に向けて開発が進むヴェゼルe:HEVモデューロXコンセプトがホンダのテストコースを走っている映像だ。ランダムにうねった路面を高速で走行するシーンである。モデューロXコンセプトの車輪はせわしなく上下に動いており、激しい路面の荒れ具合を伝えてくる。同時に、車両姿勢が安定していることもまた、その映像は伝えてきた。ボディがほとんど揺れていないのだ。モーグルの選手が脚の曲げ伸ばしだけでこぶをいなしながら滑走する様子に似ている。

上体がぶれないのは体幹がしっかりしているからで、だとするとモデューロXコンセプトのボディもしっかりしていることを映像は示唆している。ベース車を開発したのはホンダ。腰から下のチューニングを行なっているのは、モデューロを開発するホンダアクセスだ。

ホンダ純正コンプリートカーのモデューロXは、2013年のN-BOXからスタート。2021年6月には、シリーズ第7弾となるフィットe:HEVモデューロXを発売した。ヴェゼルe:HEVモデューロXコンセプトはシリーズ第8弾で、1月に開催された東京オートサロン2022で初公開。御岳スノーランド(長野県・木曽町)で開催された雪上試乗会には、AWD仕様のプロトタイプが用意されていた。

モデューロXは完成された車両をベースに、北海道にあるホンダの鷹栖テストコースや群馬サイクルスポーツセンターでテストを重ね、セッティングを詰めていく。「最後は数字ではなく人の感覚」と開発担当者は説明する。開発アドバイザーを務めるのは、レーシングドライバーとして実績を重ねた土屋圭市氏だ。

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モデューロXは完成された車両をベースに、北海道にあるホンダの鷹栖テストコースや群馬サイクルスポーツセンターでテストを重ね、セッティングを詰めていく。「最後は数字ではなく人の感覚」と開発担当者は説明する。開発アドバイザーを務めるのは、レーシングドライバーとして実績を重ねた土屋圭市氏だ。

モデューロXシリーズに共通する走りの方向性は、「誰がどんな道で乗っても安心して気持ちよく走れる」ことだという。

「まず、FUNであることが大前提。いかなる路面状況でもコントロールしやすくなるようにセッティングしていますので、運転のうまい下手は関係なく、誰が乗っても、どんな路面状況であっても安心感があり、意のままに気持ちよく走れます。モデューロXの走りはあらゆる路面状況で接地感が高い。この懐の深さが安心感にもつながっています。さらに、乗り味はストローク感があるしなやかで上質なものを目指しています。そのため、ドライバーだけでなく同乗者も上質な乗り心地を体感していただけます」

セッティングするにあたって重要なのは、「曲がりの質」だと説明する。「コーナーの先に導かれるような感覚と我々は表現していますが、モデューロXは常にコーナーの出口に向かって旋回姿勢をとっています。これが、意のままに操る楽しさにつながっています」

ホンダアクセスが重視する”実効空力”のためのエアロパーツ。
速度域が高くない雪上でも効果を実感できた。

モデューロXの走りを支えるのは、専用の脚周りと空力だ。空力に関してはあえて「実効空力」と呼んでいる。サーキットを走るときのような高速域でしか効果が期待できない空力ではなく、日常の速度域でも充分に効果が体感できる空力にこだわっている。街なかや雪上でも体感できるというから、相当低い速度域までカバーする技術だ。

ModuloX専用フロントエアロバンパー/専用グリル

「あらゆる路面環境で意のままの走りを実現するには、接地荷重を4輪に均等に掛け、前後のリフト(車両を浮き上がらせる向きの力)バランスを整えることが必要だと考えています。その達成方法は、実効空力によるエアロパーツと、足まわりのセッティングです。空力は理想的な風の流れをイメージし、テストコースを走りながらミリ単位で改修を繰り返し、開発しました」

ヴェゼルe:HEVモデューロXコンセプトは、実効空力を象徴するエアロスロープ(フロントバンパー下端のリップ部分)とエアロボトムフィン、バンパーコーナー部のエアロフィンを設けている。エアロスロープは車体下面を流れる速い流れをフロントからリヤに導き、直進安定性を高める狙い。エアロボトムフィンは、ホイールハウス内の風の流れをスムーズ化し、内圧を低減することで上質なステアリングフィールを提供する。エアロフィンはタイヤ周辺の乱流を抑制し、旋回性向上を図る狙いだ。ボンネットフード形状にも手を入れており、車体上面とラジエーターグリル内にきれいな風を流す効果を持たせている。

リヤのテールゲートスポイラーは乱流を車両後方に遠ざける(と、ドラッグ=空気抵抗の低減につながる)役割を担い、リヤバンパーはディフューザー形状とすることで床下の空気をスムーズに車体後方に導き、フロント側のデバイスと連携して高い直進安定性と旋回性能をバランスさせる。リヤで実効空力を象徴するのは、リヤエアロバンパー左右下部の処理だ。航空機のエンジンに設置されているシェブロン(エンジンノズル後縁部のギザギザ状の処理)と同様の形状としている。旋回時にリヤタイヤの接地感を高める効果につながるという。

路面への追従性を追求したという専用サスペンションは、ダンパー内部の構造やオイルまでこだわったチューニングを施している。減衰特性は低速域から高速域までリニアとし、硬い、柔らかいではなく、質にこだわった点を強調する。専用ホイールは「ホイールもサスペンションの一部」という設計思想で開発。剛性の向上のみを追求するのではなく、適度にたわませることで路面への追従性を高める考えだ。

このように、ホイールを含めた専用の脚周りと、実効空力のコンセプトで開発した空力アイテムにより、ヴェゼルe:HEVモデューロXコンセプトはモーグル選手のように、路面外乱を吸収しつついなし、澄まし顔で荒れた路面を駆け抜ける。雪上コースではベース車とプロトタイプの乗り比べを行なったが、「本当にダンパーとエアロだけ?」「シャシーに手を入れていない?」と疑問に感じるほど、操舵感の向上ぶりが印象的だった。しなやかさを失わずに、しっかり感だけ増した印象だ。

試乗したモータリングライターの世良耕太氏

雪上試乗会にはホンダが用意したヴェゼルもあり、こちらはブリヂストンのブリザック系スタッドレスタイヤを履いていた。いっぽう、ヴェゼルe:HEVモデューロXコンセプトと比較用ベース車はヨコハマ・アイスガード7を履いていた。「なぜ?」と質問すれば、「いろいろ履き比べたのですが、モデューロXにはアイスガードのほうが合っていたので」との回答。タイヤ銘柄にこだわるのは当然といえば当然だが、開発陣が細かなところまで走りにこだわっている証拠でもある。そういう人たちが走りに向き合い、熟成させたのがモデューロXというわけだ。正式デビューが楽しみである。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…