ホンダとソニー、夢のタッグが開発するBEVはどんなクルマになるか? ホンダはなにを得るのか?

吉田ソニー社長と三部ホンダ社長。メディアの注目度は非常に高い。
ホンダとソニーが新時代のモビリティとモビリティサービスの創造に向けて戦略的な提携に向けた協議・検討を進めると発表した。両社で新会社を設立し、EVを共同開発、25年に発売するという。どんなクルマになるのか?

「新しい価値」とはなにか?

共同記者会見の案内は、会見開始の2時間前だった。

3月4日の夕方に開催された記者会見で壇上に並んだ三部敏宏ホンダ社長(60歳)と吉田憲一郎ソニーグループ社長(62歳)は、何度も「新しい価値」という言葉を使った。

ソニーは2月2日の「2021年度第3四半期決算発表」で、EV開発については
「基本的にはパートナーとなる企業の方々との連携・提携を前提に、アセットライトをイメージしており、この事業に大きな資本の投下は考えていない。具体的にはバッテリーの自社開発や車両自体の製造設備、販売・メンテナンスのインフラを自前で持つことは考えていない。それがない前提で、我々が掲げるビジョンを達成するためにはどうしたらいいか、という観点で、継続して検討していく」(十時副社長兼CFO)
としていた。

この提携相手がホンダだった、というわけだ。

もともと、22年春に「ソニーモビリティ」を設立すると表明していたわけだが、これがホンダとともに設立する合弁会社(新会社)になるということなのだろう。

一方のホンダは、大きく電動化へ舵を切ったわけだが、現在のところBEVはHonda-eのみ(中国は除く)。今後、まずはGMの電動プラットフォームを使ったEV(プロローグ)を24年に発売する。

ホンダにとって本命とある独自電動プラットフォーム「e:Architecture」は「2020年代後半に投入予定」と発表されている。

今回の提携で発表では、新会社の第一号EVは「2025年に発売」する、という。となると、e:Architectureではない、のか。あるいは、e:Architectureの開発のスピードを上げて、これをホンダ・ソニーEVに前倒しで使うということなのか。

ソニーのEV、Vision-Sコンセプト。開発はマグナやボッシュ、コンチネンタルなどの欧州のメガサプライヤーが受け持った。組立はマグナ・シュタイヤーだ。

ソニーがこれまで発表しているEV(Visionシリーズ)は、マグナ・シュタイヤーやボッシュ、コンチネンタルなど欧州の開発会社、サプライヤーが開発に協力している。ホンダがソニーと新しいEVを開発するのに、このVisionシリーズをベースにするとは考えにくい。まして、生産はホンダが担当するはずで、マグナなどの欧州メガサプライヤー主導で開発したものを使うメリットはなさそうだし、2025年は3年(25年12月までの時間は45ヵ月)ある。

世界のEVベンチャーの開発スピードは、1車種30ヵ月というとんでもないペースで進む。もちろん、”早くて雑”という面も否めないがスピードが速いことは事実。従来の自動車メーカーも開発スピードを上げる必要があるのは間違いない。ホンダとソニーの新会社も45ヵ月でホンダのe:Architectureをベースにした魅力的なEVを開発すると予想する(2025年は大まかに言えば「20年代後半」である)。

ホンダがソニーに期待するのは、「サービスプラットフォーム」だ。

ソニーグループはゲームや音楽、映画といった娯楽分野で約1億6000万人の顧客基盤を持っている。そして、これを将来、10億人にするという目標を掲げている。

吉田ソニー社長(左)と三部ホンダ社長(右)。ふたりがこの件で顔を合わせたのは2021年12月だったという。

会見で、三部社長は「電動化というキーワードにおいて、ただICE(内燃機関)を下ろしてモーターを積めば電動化とは思っていない」と述べた。

吉田社長は「サービスのプラットフォームは、いままでコネクテッドで繋がっているクルマを認証するところから、人(個人)を認証するようになる。人を認証してなんらかのアクション、サービスをする、アップデートをする。それをやって、かつ必要があれば課金。それをサポートする。それがサービスプラットフォームだ」とコメントした。

サービスプラットフォームは、ソニーが作ったプラットフォームを使うと決めている。すでに億単位の顧客基盤を持ち、実際に課金サービスを提供しているソニーが持つノウハウはホンダにとって喉から手が出るほどほしいものだ。

ホンダは、ソニーとの新会社とは別に、ホンダとしてのEV戦略を進めていく。数(販売台数)を追うのは、GMとの共同開発、そしてホンダ独自のEV戦略に任せて、ソニーとの提携では、「新しい価値の創造」「ソニーとの協業による化学反応、ホンダにとっての刺激」を求めている。

ホンダとソニーという、日本経済界の2大スター企業のジョンとベンチャーのスタートということで、世間の反応は好意的だ。まさに夢のタッグという捉え方だ。「ホンダとソニーが組んだら……」で、「……」に入るのは、人によってはさまざまな想いある。

ホンダとソニーが組んだら(世界のEVベンチャーと戦える)
ホンダとソニーが組んだら(テスラに勝てる)
ホンダとソニーが組んだら(トヨタひとり勝ちに待ったをかけられる)
ホンダとソニーが組んだら(日本経済に明るい展望が開ける)

といったところだろうか。

創業者同士の交流についても触れた吉田社長
ホンダ三部社長。

壇上に並んだふたりの社長は、年齢も近くなんとなく雰囲気も似ていて「ケミストリーが合う(相性が良い)」感じした。とはいえ、これはスタートである。

過去には、トヨタとパナソニック、アサヒビール、花王などが1999年に手がけた「WiLL」プロジェクトやダイムラーとスウォッチのMCC(のちのスマート)など異業種合同プロジェクトがあった。それがみな成功を収めたわけではないのは周知の事実だ。ホンダとソニーのゴールデンカップルだから必ず幸せになれるわけではない。両社とも戦後に生まれたいわば成功したベンチャー企業で、そのイノベーションを起こす企業体質が似ている、と言う人もいるが、モビリティのものづくり企業のホンダと総合電機メーカーにしていまや金融、エンターテインメント企業のソニーは、やはりまったく違う企業文化を持つ。化学反応が起きるのは間違いないが、それが制御可能でポジティブなものかどうかはわからない。

だが、ホンダとソニーの提携は、なにか新しいものを創造してくれそうな強い予感がある。なにをもたらすのかわくわくする。注目していきたい。

キーワードで検索する

著者プロフィール

鈴木慎一 近影

鈴木慎一

Motor-Fan.jp 統括編集長神奈川県横須賀市出身 早稲田大学法学部卒業後、出版社に入社。…