軽自動車も電動化すべきか?「E」の意味は、ひとつではない

FOMM ONEは軽自動車扱いなので黄色いナンバープレートになる。全長2585×全幅1295×全高1550mm、ホイールベース1760mm。前輪インホイールモーターは5.3kW/200〜600rpmと控えめだが2名乗車と荷物で750kg程度の車重なので日常用途では充分。リチウムイオン電池はアタッシュケース4個程度の大きさで約12kWhだ。エアバッグもスタビリティコントールも付いていないが、運転感覚が「生」なので、おそらく大多数のドライバーは無理をしないだろう。軽のBEV化にどれほどの意味があるのかとは思うが、挑戦してみる価値はあるように思う。

軽自動車も電動化すべき……政権内からはそういう声も聞こえてくる。電気はすべて太陽光や風力で補えるという幻影は独り歩きを始めた。小さなBEV(バッテリー電気自動車)の話題も出回り、中国で人気の格安BEV、上汽通用五菱「宏光50」を日本のメディアが取り上げた。乗ってみれば、良くできた小さなBEVは楽しい。しかし価格の問題を日本勢は解決できるか。

先入観という色めがねでモノを見てはいけない。FOMM ONEを運転して筆者は心底そう思った。タイ製であることは問題ない。いまやタイは自動車輸出国であり、タイからの輸出車両はほとんどが日本車だ。見栄え品質は、ひょっとしたら日本より上かもしれない。手先が器用な人が多いタイで自動車工場を取材すると、見事な現場仕事をあちこちで目にする。

FOMMは日本企業であり、国土交通省はタイ製FOMM ONEを日本車として取り扱い、ECE(国連欧州経済委員会)規定の「Mクラス」として並行輸入扱いで承認した。しかし、クルマの「乗り味」は国交省が保証してくれるわけではない。だから筆者は色めがねで見ていた。インホイールモーターで車輪は重たくなる。キングピン軸の設定は難しい。全長×全幅とホイールベースの数値を見れば、相当にうまく脚を組まないとピッチング挙動が大きくなりやすい……などという先入観である。

ところが、実車はまったく違った。FOMMの現場スタッフはセンスが良かったのだ。

樹脂外板のドアはそれほどペコペコではなかった。内側は真っ平らだけれど上半分だけ内張りがある。インパネは簡素で、小さな液晶メーターと数少ないスイッチ。前進/ニュートラル/後進の切り替えはスイッチで行なう。エアコンは標準装備。シートは堅いが「体を支える」機能は充分。筆者のドライビングポジションを取っても後席には何とか大人が座れる。

ステアリングホイールは上下がつぶれたM字型。左右各100度ほどしか動かないが操舵はこれで充分。ステアリングコラムに取り付けてあるパドルは電流コントローラーであり、これがアクセルペダルの代わりである。ブレーキはちゃんとペダルがあった。BEVだから変速機はなく、前述のようにインパネにあるスイッチで前進/ニュートラル/後進を切り替える。

このスイッチを前進状態にしてブレーキペダルから足を離すと、わずかにクリープがある。パドルを引くと、その量に合わせて電流が増える。パドルはコラム左右にひとつずつあるが、どちらを操作しても構わない。機能はまったく同じだ。パドルを引く量を増やせばモーターへの電流が増しクルマはスピードに乗る。このときに車両重量620kgという軽さを感じる。

カーブに差し掛かる。パドルを緩め、フットブレーキも少し使って減速し、M字型のハンドルをゆっくり切る。カーブ進入時の車速を保って曲がると普通に曲がれる。旋回中にパドルを少し引き加えるとタイヤ軌跡は旋回外側にやや膨らむが、その量は想定内だ。ふたたび直線で加速し、緩やかな坂を登る。2人乗車ならちょっとした坂道でもまだ余力がある。

気持ちいいスピードに乗せたあと、少し強めの制動を入れてカーブを曲がる。見事にピッチング挙動は抑えられていて、ボディ上屋の挙動は落ち着いている。頭が前後に揺すられる不快なGは出ない。これには面食らった。すごく良くできているじゃないか!

普通に運転を組み立てればFOMM ONEはごく普通に走る。指先で操作するパドルの持ち手部分を自分の指に合わせてオーダーできるとありがたい。運転感覚はバイクと昔の360cc時代の軽自動車の中間と感じた。

上汽通用五菱「宏光50」は、これより良くできているだろうか。昨年、中国では「宏光50」が年間11.3万台も売れ、テスラ「モデルS」の13.8万台に次ぐNEV(新エネルギー車=BEVとPHEV)で第2位の販売実績のモデルだ。筆者はこの兄弟車とも言える上海通用汽車の宝駿(Baojun)ブランドから発売されている「E100」を現地で運転したことがあるが、そのときの印象が小型BEV色めがねの原因だ。

E100はピッチング挙動が大きく、しょっちゅうひょこひょこと跳ねていた。操舵感も頼りなかった。アクセルペダルは中国市場の好みに合わせて最初の「飛び出し」が強く、ドライビングのリズムを組み立てるのに苦労した。これが素性なのか、あるいは個体差なのかは判断できなかったが、信頼できる運転技量を持った旧知の中国メディア記者に「宏光50」の印象を尋ねると「E100と大して変わらない」「たぶんキミは気に入らないだろう」との答だった。

中国製小型BEVがそんな印象だったから、筆者はFOMMにも偏見を抱いていた。ところが日本人が設計したFOMM ONEは違った。

「試作車はかなりひどい出来だった。そのままではとても世に出せるものではなかった。キングピン軸が寝ていて、そのオフセット量は40〜50mmもあり、ハンドルが重たかった。サスペンションのジオメトリーを見直し、アンチダイブジオメトリーを入れ、後輪が前輪の挙動に追従するように直した」

FOMMの担当者はこう言った。苦労は報われたと思う。しかし、クルマそのものの仕上げとは別のところで、日本で販売する認可を得るまでに約2年かかった。行政側は一枚岩ではなく、新しいモノをすんなりとは認めてくれなかったのだ。とはいえ、FOMM ONEという前例ができたことは大きな実績だ。2年間粘ったFOMM側スタッフの忍耐と努力を讃えたい。

日産と三菱が共同開発する軽自動車規格のEVが2022年には登場する。写真は2019年の東京モーターショーで登場したIMk。

こういうBEVを味わうと、日本の軽自動車を「電動化」することもできるのでは、と思う。年産2000台規模で8年作るBEVなら生涯生産台数は1.6万台。たとえば三菱i-MiEVの骨格設計を衝突要件ごと流用し、全長と全幅を詰めて小さめの軽サイズとし、前面衝突対応が楽になる後輪駆動を踏襲し、電池搭載量を割り切る。ドアもi-MiEVから流用し、全長を短くしたぶん、3ドアにする。装備と航続距離を犠牲にすれば、補助金に頼らなくても買ってもらえる小さなBEVは成立するように思う。新規開発車であっても、工夫次第だと思う。

生産設備投資を1台当たり40万円に抑え材料・部品代は60万円。製造費は水道光熱費込みで30万円。販売店利益とメーカー利益は1台20万円ずつ。宣伝費と販売管理費は10万円以内。これで合計180万円。初代スズキ・アルトのように1グレード設定で全国統一価格。ボディカラーは水性塗料っぽい赤青黄の3色。180万円なら買ってくれる人はいるはずだ。とはいえ、この値段に抑えるには生産・販売の考え方を従来とはガラッと変える必要があるだろう。

あるいは「マイルド以上フル未満」のHEV(ハイブリッド車)を48V(ボルト)電源で作るのも手だ。現行の軽ICE(内燃エンジン)車に電動駆動系と2次電池を追加するコストをどこかで吸収しなければならないが、トヨタがTHS(トヨタ20年かけて大幅圧縮した事例があり、スズキがマイクロHEVシステム「エネチャージ」を全モデル展開することで低コスト化した事例もある。事例はいくつもある。昔の日本自動車産業は挑戦が好きだった。

いっそ軽の全モデルをBEVかHEVにするという手もある。軽自動車にE=エレクトリフィケーション(電動化)の文字を無理なく入れるなら、日本はBEV20%、HEV80%が現実的に思える。日本のエネルギーインフラが外資の好き勝手にされてもいいのであればBEVは積み増しできるが、ほぼ四半世紀もデフレ状態にある日本には、欧米標準価格のものをどんどん買う余力などない。それこそ最後は土地も人も魂も売らなければならないだろう。それでいいとは到底思えない。

そもそも、電動車の解釈はBEVだけとは限らない。E=エレクトリックの文字が入ればいいのだ。日本はEV=エレクトリック・ビークル、HV=ハイブリッド・ビークルというあいまいな表現を使っているから社会に共通認識が育たない。電動化=エレクトリフィケーションであるなら、HEVもシリーズHEVも有資格車だ。軽トラやスズキ・ジムニーのラダーフレームを使う軽自動車版スケートボードコンセプトのBEVも選択肢に入れない手はない。

三菱i-MiEVは軽のEVとして先駆者だったと言える。

いま、日本では8年落ちのi-MiEVが100万円で売られている。販売店は「ガソリンスタンドが近所にないから」だと言う。必ずしも軽BEVに航続距離は要らない。しかし、高ければ絶対に売れない。かといって税の再配分になる補助金をBEVにだけ手厚くする行為は、いまの日本の発電事情からすればとんでもないナンセンスだ。海外動向ばかり見ていないで、もっと日本に適した道を考えなければならない。

そもそも、電動化に副作用はないのか?

(文:牧野茂雄 1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産業界を取材してきた。中国やシンガポールなどの海外媒体にも寄稿。オーディオ誌「ステレオ時代」主筆としとてオーディオ・音楽関係の執筆にも携わる)

著者プロフィール

牧野 茂雄 近影

牧野 茂雄

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産…