ホンダe:HEVの新・心臓は熱効率世界トップ級 理想のエンジン像を追求した

新型ホンダ・シビックe:HEVが搭載する新開発エンジンは「燃費と走り」を両立する 2.0ℓ直4直噴アトキンソンサイクルエンジン

ホンダ新型シビックe:HEVが搭載する2.0ℓ直4直噴アトキンソンサイクルエンジン
新型シビックe:HEVに搭載される2.0ℓ直4エンジンは、ホンダのエンジン技術の粋を結集して開発されたエンジンだ。厳しくなる燃費規制・排気規制を先取りし、2030年を見据えて作り上げられた新エンジン。その開発背景と技術について解説する。

2030年に向けて開発したエンジン

新エンジンの開発目標は
・2030年に向けた世界の自動車普及拡大・大幅に強化されるCO₂、エミッション規制に対応する。
・次世代を担う中型の中核ベースエンジンとして燃焼技術を刷新、1骨格でPHEV/HEV/コンベンショナルをカバーし、燃焼技術を共有する。
・高出力・世界トップレベルの熱効率/低エミッション技術を持つコストコンシャスでクリーンガソリンエンジンを開発する。
である。

ホンダの三部敏宏社長は「2040年にグローバルで4輪車を100%電動化する」「先進国トータルで2030年に40%、35年に80%がEVとFCVになる」との方向を語った。しかし、ホンダがいますぐにICE(内燃エンジン)の開発を停止するわけではない。計算すればわかるように、2030年には60%、35年でも20%はなんらかのICEを積んだ車両が販売される。そのための新しいICEは用意しなければならない。

しかし、エンジンを巡る状況は非常に厳しい。ひとつは法規制だ。燃費(つまりCO₂排出)と排出ガス規制はどんどん厳しくなる。EUでは2025年以降、2030年までに導入されるユーロ7排ガス規制と、さらに厳しいCO₂規制がある。北米ではLEV(ロー・エミッション・ビークル)4排ガス規制と連邦燃費規制の強化がある。中国はユーロ7に準じた「国Ⅶ」を導入する。日本にも2030年燃費規制がある。

ICEに求められる性能は、まず低燃費と有害物質低排出。これは必須である。しかし、最終的に市場が選択する自動車という商品に搭載する以上、楽しさも求められる。となると、必然的に選択肢はICEに何らかの電動駆動機構を合体させるHEV=ハイブリッド・エレクトリック・ビークルになる。

ホンダはどうするか?
その答えが、新型シビックe:HEVに搭載される新開発の2.0ℓ直列4気筒直噴エンジンである。
モーターやIPU(インテリジェントパワーユニット)、PCU(パワーコントロールユニット)を一新した次世代2モーターハイブリッドユニットと組み合わせて今後のホンダ車の中核をなす重要なパワートレーンになる。ホンダのハイブリッドシステムとしては「第4世代」にあたる。シビックなどCセグメント車からアコードなどのDセグメント車までを広くカバーするICEである。おそらく、組み合わせるモーターの出力やバッテリーの出力密度および搭載容量を変えることで、プラグインHEVへの対応も視野に入れているだろう。

新型ホンダ・シビックe:HEV

開発目標の中心は、前述した規制への対応がひとつ。ただし、すでに決定されている規制スケジュールだけでなく、その先に予想される規制も見据えている。もうひとつは中核エンジンとしての資質。電動機構との組み合わせとICE単体での使用の両方を柔軟にこなせる「中核ベースエンジン」としての性能である。

さらにもう一点、できるかぎりのコスト低減がある。排ガス対応デバイスを後付けすれば、その分は確実にコストアップになる。ここを抑えるためには、燃焼の基礎をしっかりと抑えなければならない。原理原則に立ち返った燃焼解析により後処理デバイスを最小限に抑える工夫が注がれている。

世界トップ級の熱効率を実現できた技術とは

新開発された2.0ℓ直4直噴アトキンソンサイクルエンジン

新エンジンのスペックを見てみよう。
エンジン形式:2.0ℓ直列4気筒DOHC
ボア×ストローク:81.0mm×96.7mm
排気量:1993cc
圧縮比:13.9
最高出力:141ps(104kW)/6000rpm
最大トルク:182Nm/4500rpm
燃料供給:燃料筒内直接噴射(DI)
最大噴射圧35MPa

従来の2.0ℓエンジンは
エンジン形式:2.0ℓ直列4気筒DOHC
ボア×ストローク:81.0mm×96.7mm
排気量:1993cc
圧縮比:13.5
最高出力:145ps(107kW)/6200rpm
最大トルク:175Nm/3500rpm
燃料供給:ポート噴射(PFI)

だった。

基本骨格であるボア×ストロークは81.0mm×96.7mm。ストローク/ボア比は1.19。思い切ったロングスロトークである。最大熱効率は世界トップレベルの41%。この数値は、燃料が持つエネルギーポテンシャルを最大限に使い切っていることを示す。最高出力104kW、最大トルク182Nmというパワースペックよりも注目すべき数値である。

熱効率の妨げになるのはポンプ損失、冷却損失、機械損失、廃棄損失が代表的であり、それぞれに対策がある。しかし、商品としてのICEにはバランスが求められるほか、小さなエンジンルームに搭載するという搭載性も必須だ。ホンダはこのそれぞれにメスを入れた。

新エンジンは高燃圧DI+多段噴射、高流動ポート、流動保持ピストンを採用することで理想の燃焼を実現した。

まずは燃焼の見直しである。熱効率を上げるためにレギュラーガソリン対応で圧縮比を13.9まで高めた。従来型のポート噴射では13.5が限界だったが、筒内直噴を使い13.9を実現した。燃料噴射圧は35MPa。ガソリンICEとしてはかなり高い圧力だが、燃料を微粒子化し、シリンダー内で圧縮される短い時間内での気化のための高圧化だ。しかもホンダは、ディーゼル並みの多段噴射技術を投入した。通常の運転領域では2~3回、低回転高負荷域では4回に分けて燃料を噴き、理想的な混合気を作る。

同時に、混合促進ために吸気を勢いのある縦渦(タンブル)にする。強いタンブル流を使えば噴射された燃料は渦の流れに乗り、シリンダー壁面への付着を抑制できる。ホンダはすでにシビックTYPE R用過給エンジンでタンブル活用の知見を得ている。その技術を応用しNA(自然吸気)にも活用した。ピストン冠面の浅皿処理や吸気ポートの形状など、すでに効果を実証済みの処理を取り入れているものと思われる。

ただし、タンブル流を生成すると時間当たりの吸気流量が低下してしまう。ここが技術のポイントだ。ターボ過給の場合はターボのコンプレッサーが吸気を圧縮してシリンダーへ必要な空気量を供給してくれるが、NAではピストンの下降で空気を吸うしかない。このあたりはストローク値の設定や吸気ポートの形状も含めて緻密な計算が行なわれたと想像する。

強いタンブル流の中でガソリンが気化し、混ざり合う。その混合気を高い圧縮比でギュッと凝縮し、一気に急速燃焼させる。高圧縮比化はノッキング(不整着火)との戦いだが、ホンダはすでにピストンへのクーリングチャンネル成形や排気バルブへのナトリウム封入などによってノッキングの原因となる「局所的に温度が高い場所」を作らない設計を実用化している。新ICEにもその技術は使われている。

筒内燃料噴射用のインジェクターは、燃焼室の真上に置くトップフィードではなく、手慣れたサイドフィード(横方向からの噴射)だという。「手の内にある」サイドフィードの直噴技術を使い、同時に現有の製造設備を大幅に変える必要がない。コストセーブ術である。

排気マニフォールドには、すでにシビックTYPE R用の2.0ℓVTECターボで世界初採用した2ピースウォータージャケットを使っている。排気マニフォールド付近はつねに高温になるが、エンジンブロックに外付けするマニフォールドでは効率的な冷却ができない。そこでホンダは、排気ポートとマニフォールドを一体成形し、緻密に冷却回路を張り巡らせる技術を開発した。いまやこの方法は、世界の高性能ICEのスタンダードである。

主運動系はPmax(筒内最高ガス圧)がPFIエンジンに対して上がったことに対応して剛性を上げている。剛性アップはNV性能にも好影響を与えている。手前下に見えるのは2次バランサーだ。
動弁系は、吸気側に電動VTC(可変バルブタイミング機構)、排気側に油圧VTCを組み合わせる。直噴ポンプは排気カムシャフトで駆動する。エンジンの休止〜再始動の振動を抑えるために電動VTCをワイドレンジで動かす。

動弁系では、排気側に油圧式カムフェーザーを、吸気側には新しい薄型電動カムフェーザーを採用している。ホンダは1980年代からバルブリフト量とバルブ開閉タイミングの可変化に取り組んできたが、新エンジンではカム位相を可変にする技術と多段噴射、急速燃焼といった技術で対応している。

ほぼ全域ストイキ運転で実燃費も向上する

新型ホンダ・シビックe:HEV

もう一点、この新ICEが実現した重要ポイントのひとつがストイキ(理論空燃比=ストイキオメトリー)で運転する領域の拡大だ。従来のPFIエンジンが苦手としていた低回転高負荷、高回転高負荷領域で大幅にストイキ運転領域を広げている。高トルク域での燃料消費率が30%低減、ストイキトルクも30%向上している。これはほぼ全域ストイキ運転と言っていい。この点は排ガス抑制にも効く。

これ以外にも、新ICEには多くの技術が注がれているようだが、同時に将来の発展性も確保されている。2020年代を通じて第一線にとどまり、世界が必要とするICEとしてCO₂排出抑制に貢献できるエンジンである。燃費が向上すれば、その分CO₂排出は減る。しかも現有設備で製造が可能で余分な資源負荷もかけない。これも立派なサステナビリティだ。

このエンジンを最初に積むのがシビックe:HEVだ。報道試乗会では、燃費以外でもNV改良技術によって現行アコードe:HEV用エンジン以上の静粛性と爽快なエンジンサウンドを実感できた。モーター、PCU、IPUも一新されたシビックe:HEV。搭載する新開発エンジンにも注目だ。なぜなら、これが2030年までを見据えたホンダの新中核エンジンなのだから。

MFi特別編集 ホンダのテクノロジー

自動車のみならずモーターサイクル、飛行機、発電機などのライフプロダクトまで手がけるホンダは年間3000万基のパワーユニットを生産する文字通り「世界一のパワートレーン・カンパニー」。 
今回の特別編集本では、ホンダの研究開発を支える本田技術研究所の全面協力のもと、ホンダの自動車用エンジン、ハイブリッド技術、電気自動車、燃料電池の技術と戦略はもちろん、HondaJetや航空宇宙への挑戦、スーパーカブをはじめとするモーターサイクルのパワートレーン技術について、豊富な写真、図版を使って掘り下げます。 
電動化時代の開発を支える風洞や鷹栖プルービンググランドの現地取材も敢行。ホンダがこれからどんなわくわくするパワートレーンを作ってくれるのか。どんな戦略なのか。ホンダファン、自動車ファン、アナリスト必読です。

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