コントロール部に剛性を感じると操作は安定してくるのかも!? <Honda・テックマチックシステム> 福祉の車窓から

手元のグリップで車速をコントロールするってどんなカンジ?【ホンダアクセス福祉車両試乗会】

ホンダアクセスによる福祉車両試乗会のレポート。会場に用意されたのは、上肢や下肢の機能のみで運転できる車両や、車いす利用者や足腰が弱くなった者との移動がラクになる車両など。そしてさらに歩く方向をナビゲートしてくれる靴も登場! 数回に分けてその全貌を紹介していきます。下肢のみで運転できるフランツシステムに続き、第2回は上肢のみで運転できるテックマチックシステムに試乗します。担当は小学生になった子の上下肢に障がいがあり、車いすスロープ車を普段遣いしている古川です。

前回試乗した下肢のみで自動車が運転できるフランツシステムに続き、今回は上肢のみで運転できるテックマチックシステムへ試乗します。運転という動作の上で、上肢の担う作業はもともと多く、そこにさらに下肢で行なってきた動作をプラスするとインターフェースはどうなるのか? そこがテックマチックシステムのポイントになります。なお、今回試乗するテックマチックシステムは、テックマチックシステム手動運転補助装置<Dタイプ>。同じテックマチックシステムのなかには、左足のみでペダルワークができるようにするテックマチックシステム左足用アクセルペダル <Bタイプ>もあります。

下肢で操作するアクセルとブレーキの操作を、円滑な交通を司っている上肢の操作にどう組み込むか?

運転動作を分解した時、その車両の進行のために恒常的に操作しているものと言えば、ステアリングとアクセル&ブレーキ。
そして、他車への合図や安全の確保のため、また車内環境の調整のために、レバーやスイッチボタンの操作がその間に入ります。

このうち、アクセルとブレーキ以外は上肢が行なっている操作です。
下肢が不自由な場合、このアクセルとブレーキの操作も上肢が担当することになります。

恒常的にステアリング操作をし、その合間にレバーやスイッチの操作をしている上肢。そこに車両を運行している限り、恒常的な操作が必要なアクセルとブレーキの操作が入る場合、どういったインターフェースがあるのでしょうか?

Honda FIT e:HEV(画像は実際に試乗した車両ではありません)

オートマ車のシフトノブの親玉みたいなレバーに集中配置された操作系

上肢のみでのアクセル&ブレーキまでコントロールするドライビング・インターフェイスは、大別してリング型とレバー型があります。

テックマチックシステムは、このうちのレバー型を採用しています(リング型については、以前の記事の中のマツダ・MX-30 SeDVの項をご確認ください)。

その名称はコントロールグリップ。
センターコンソールから生えたしっかりしたステーの上に、掴んだり押したりしやすい、太めの塊感のあるシフトレバーのような形状のグリップが配されたデザインをしています。

左手で掴むこのグリップを手前に倒していく操作がアクセル操作、前方に押していく操作がブレーキ操作となります。

そしてグリップにはスイッチボタンがいくつか。

親指側には上から、ヘッドライトのハイ/ロー切り替えボタン、ホーンボタンを順にレイアウト。
コントロールグリップの背面には、上からブレーキロックボタン、ウインカーレバースイッチが並びます。
そして小指側にハザードランプボタンが配されています。

このなかで、組み合わせ=コンボ(コンビネーション)作業が必要なのは、ブレーキロック。
ブレーキロック・コンボは、グリップを奥に倒した状態でブレーキロックボタンを押すという動作になります。

機能と少し離れますがグリップ自体も洗練されたデザインで、最新モデルのインテリアにもマッチするというところも、大事なポイントかもしれません。

肘を支点に手首の返しと腕の押し引きでコントロールできるのが特徴

このテックマチックシステムのいちばんの特徴は、グリップ下端を軸とした回転運動によりアクセル&ブレーキをコントロールするというところ。

わかりにくいでしょうか?

テックマチックシステムは、アクセル&ブレーキを司る可動部分の支点がグリップの下端になります。
他方、従来からある一般的なレバー型(従来型)ではフロアから立ち上がった長いレバーを前後させるなどして同じアクセル&ブレーキの動作をします。
従来型では、てこの支点が遠くになる分、動作も大きくなるのです。

また後者は、バーとバーをリンクでつなげ、アクセル&ブレーキペダルをプッシュする仕組みが多く、レバーが重くなりがちです。
さらに、バーがセンターコンソールの脇に立ち上がるため、そのもの、ないし下肢に当たらないようにするボードなどが足元を狭くします。

メッシュホースの中にアクセル/ブレーキをコントロールするケーブルが通る

テックマチックは、グリップの土台となる部分がセンターコンソールから生えたバーについているものの、そのバーは固定。グリップの動作とシンクロしてふたつのペダルをコントロールするのはワイヤーケーブル。コンソールからダッシュボード裏を通ってペダルをコントロールするため、足元にさほど大きな影響はありません。これにより、座位で下肢が不安定でも可動部にぶつかる心配が減りますし、症状による運転姿勢の違いにも広く対応できる可能性をもたせることもできます。

バータイプであれば、シート左脇に支点となるポールが立ち、レッグスペースに向かってバーが走る。テックマチックではワイヤーが取り回されているのみとなっています

そして、このワイヤーコントロールも絶妙なチューニングがされており、操作レスポンスにダイレクト感が出ているそうです。ペダルを踏んでコントロールしたことのあるドライバーならば、同じようなフィーリングでドライビングができるそう。

クルマを動かすための力ではなく、レバーを動かすための力が必要なくなり、可動距離が減ったことで、結果的に腕全体というより、手首の返しと肘の軽い押し引き程度の動作で操作できる範囲が広がって、運転がしやすくなっています(症状による)。

実際にグリップを握ってみたらそのしっかり感に驚き!

実際に体験試乗をしてみて一番最初にわかるのが、このグリップ型の運転装置の立て付けがとても良いこと。

なんとなれば寄りかかっても大丈夫じゃない?(やってはダメです)と思ってしまうくらいしっかり付いているので、運転中の車両の振動でブルブルすることもなく、つまり本来の動作に集中することができること。

また、前後ストロークも適正な動きがつかみやすく、すぐにコントロール量が憶えられ、そうなればリラックスして操作できるというところもメリットだと感じました。

ホンダセンシングに車速管理を支援してもらうことも!

加えて、今回の試乗車には先進の安全運転支援システム「Honda SENSING」が付いてており、ステアリングホイールにあるスイッチで渋滞追従機能付きアダプティブクルーズコントロールなどが利用できます。そうなるとさらに余裕を持ったドライブも可能になるかもしれません。

また、ステアリングホイールを片手で持ち替えずに回せるハンドル旋回ノブ(ホーンスイッチなし)を装備。そのほかオプション装備として、左手でウインカーレバーを動かせるエクステンション、下肢が暴れて誤作動をさせないよう使わないペダル類をカバーしておく、ペダル誤操作防止プレートなどが用意されていて、必要に応じて選択ができます。


オプションのペダル誤操作防止プレートをたてたところ

またカバーなどを外せば、通常モデルと同様に上下肢を使った運転もできます。

ペダル誤操作防止プレートを利用しないときは畳んでおけるので、下肢でのアクセル&ブレーキ操作も可能となります

パートナーとドライブ、どちらも運転できるというのは嬉しいですね。

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著者プロフィール

古川 教夫 近影

古川 教夫

クルマとバリアフリー研究家。基本は自動車雑誌編集&ライター&DTP/WEBレイアウター。かつてはいわ…