清水浩の「19世紀の技術を使い続けるのは、もうやめよう」 第9回 

脱・温暖化その手法 第9回 —CO₂の発生理由を見極めると、何が効果的削減になるかが見えてくるー

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Eliica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

運輸部門はCO2排出の20%を占めている

温暖化の問題を解決するには、まず、どこからどのくらいCO2が発生しているのかを知る必要がある。そのデータは私が1997年まで勤務していた国立環境研究所の温室効果ガスインベントリオフィスから発表されている。

2019年の排出量で見ると、総排出量が12億トンに対して発電などのエネルギー転換部門で40%、産業部門で25%、運輸部門で20%、オフィス、学校などの業務部門で6%、家庭で5%、セメント等を作る工業プロセスで4%、廃棄物で3%となっている。

この計算は実際にCO2を排出しているところでの発生量であるが、発電によるものが最大の排出場所になっている。2011年の東日本大震災以前は原子力発電があったために発電所での排出は約30%であった。現在は原子力発電所の停止により10%増えたのである。

産業部門での排出は、主に工場で熱を使うことによるものである。この中で大きな割合で発生しているのは製鉄においてである。その量は1.7億トンで割合は14%である。

工業プロセスのセメント生産では、石灰石の主成分は炭酸カルシウム(CaCo3)であるがこれからCO2を分離して酸化カルシウムとする。この時に大量の熱を使うと同時に、CO2が発生してしまう。

運輸部門のほぼ9割は自動車から

運輸部門ではそのうちの86%(全体の17%)が自動車(自家用車とトラックなどの商用車)からで、運輸部門からの排出の大半を占めている。これに続いて航空機が5%(全体の1%)、内燃航海運も5%(全体の1%)、鉄道は4%(全体の0.8%)である。いかに運輸部門の中で自動車による排出が大きいかが理解できる。とはいうものの、2000年以降は少しずつ減ってきている。これは自動車の燃費が上がったことによる。

利用者から見るとCO2排出の14%は家庭(個人)から

CO2発生量の計算の方法として、ここまでは直接燃料を消費したことによる発生量を示したが、もう一つの計算法は、エネルギーを実際に消費するところで間接的に排出していることの計算もある。それによって、どこで使用するためのCO2かを見極めることができる。

発電所は自らがエネルギーを消費しているわけではなくて、家庭やオフィスに供給する電力を作るためにCO2を排出している。間接的な排出の観点で見ると、その内訳はエネルギー転換部門が8%まで減り、その代わり、家庭で14%、オフィスなどの業務で17%になる。

家庭では直接のCO2発生が5%だったが、間接的発生は14%となっている。この増加分が電力消費によるものである。

また自家用車のCO2排出は運輸部門のうち46%、全発生量に占める割合は9%である。これと家庭での発生の14%を加えると個人が生活の中で消費するCOは全体の23%となる。この分は人々の努力で減らせる分にはなる。

こうして細かく見ていくことによって、CO2がどこでどれだけ消費されているのかが見えてくる。そうすると、個人分を例えば半分に減らすということを求められたとしたら、そこには大きな無理があると感じられるだろう。

ただ単に掲げられた努力目標のまま進むのではなく、明確な数字が見えていれば誰でもがその実現の可能性と貢献度がわかるようになる。このことが、世界的な努力を要する取り組みには極めて重要なことである。

2004年に開発したEliica(エリーカ) 
最高速度は370km/h、0-100km/h加速時間は4.2秒の性能だった。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…