デザイナーという職業は、とても面白く、とても責任重大!【“MY STYLE” 難波治のカーデザイナー的視点 Vol.01】

2016年4月に刊行されたMotorFan Vol.01に掲載された“MY STYLE”  The Voice of FORMの1ページ。
東京都立大学で教鞭を執っていた難波治教授(当時)がMotorFan誌に寄せてくれた “MY STYLE”  The Voice of FORMコラム。カーデザイナー的視点で、さまざまなデザインの蘊蓄を語っていただいた連載だが、残念ながら雑誌休刊とともに連載が終了してしまった。そのデザイナー独特の視点をふたたび読みたい! とお願いし、数ヵ月。やっと実現することになりました。デザイナーという職業について、その面白さと責任の重さを徒然なるままに綴ってもらいます。Web版・デザイナー講座、始まりです。

TEXT:難波 治(Osamu NAMBA) PHOTO&FIGURE:Motor-Fan.jp

ご挨拶代わりに……

“MY STYLE”  The Voice of FORMというコラムを書き始めたのは2016年4月。復刊を果たしたMotorFan誌のVol.1だった。2015年の半ばで自動車会社勤めを終え、大学で移動体のデザインを教えるようになってすぐにお話をいただいたのだと思う。当時のMotorFan編集長・鈴木さんからのご依頼だったとは思うのだが、その当時の経緯はあやふやになってしまっている。

当時の僕には「文章を書く」というスタンスがまったくなかったので、じつはかなり戸惑ったように記憶している。
学校を出てからの社会人人生のすべてをカーデザイナーとして生きてきた僕は、常に商品としてのクルマを創り出すことに専念していて、かつそれを評される側に立っていたので、いわゆる「物書き」(こんな呼び方をすると大変失礼なのでしょうね、スミマセン)の側に立つということは予想もしていなかったし、デザインは口頭で説明してアタマで理解していただく類のものではなく、直感的に感じとってしまうもので、デザインを文章化することはたいへん難しいことだったので、もしお声がけいただいていなければまず自分からは文章を書くことはしていなかったはずだ。
しかも鈴木さんとの出会いの記憶もとても曖昧で、いつ、どういう形だったのだろうか……と。
兎にも角にも自分のページを持たせていただけることとなり、ならば僕なりのクルマとの関わり方を書いてみたい、と生意気にも「“MY STYLE”というスタンスで書かせてもらいたい」と発言したことは少し覚えている。
しかしこれにはわれながらとても興味が湧く。今度鈴木さんにしっかりと聞いてみよう。

カーデザイナーとして40年近くも過ごしてくると、かなりカタブツになるわけで、それなりに自分というものが確立してくる。年寄りのようにブツブツと「言いたいコト」も出てくるわけで、しかも長く宮仕えをしていると随分と鬱憤も溜まっていて、それを吐き出したいという思いもあったのかもしれないが、それ以上に“MY STYLE”と題して「僕の見方」「僕の考え方」という視点でデザイナーとしての自分自身とクルマにまつわるさまざまな関わりを「僕のやり方」で書いてみたいと思ったのである。

しかし、カーデザイナーという特殊な仕事をしている人物が、ナニを考えながらデザインをしているのか、あるいはデザイナーの仕事ってどういうことなのかという視点はお忘れなく、と鈴木さんからお願いされたこともあって、形から聞こえる声 Voice of Formという副題をつけさせていただいて、造形に携わっていたデザイナーが自動車スタイリングとどのように向き合っていたのか、ということも含めて9回にわたって書かせていただいた。

Web版のデザインウォッチングはコチラにまとまっています。ぜひ、ご覧ください。

今回、このMotor-Fan.jpへweb版として続編を書かせていただくことになったのだが、紙媒体とwebでは勝手が違うように感じている。紙の本のときには、定期的に発刊される一冊の本の一部として本来のクルマ関連の記事の間にちょっと一服として息抜きのような立ち位置で、存在できるのだが、webは常に最新の情報が次々に現れる媒体で、掲載される記事は一編ごとに独立して存在してしまっているので、記事(情報)ではないコラムは、なんとも存在しにくいのではないだろうかと思っている。
とくに忙しい読者の皆さまにはこのような「独り言」のような内容は長くて、回りくどくて、読まずに飛ばされてしまうのではないかと思っているのだが、どうだろうか。であるから皆さんに飛ばされてしまわないような、スピーディーで明瞭簡潔、興味をそそられるものにしていかなければならないと思ってはいるのだが、もうすでにできていない。嗚呼……。

デザインとは……

デザイナーという職業はとても面白くて、とても責任重大だ。私たちの周りにはデザインされていないものはない。例えば毎日出かけるときに、ナニを着て、どの靴を履いて、どのカバンを持ってゆくのか、は大事なことだが、そのすべての製品の見えないところにデザイナーはいる。
製品には、そのモノの働きをする機能があり、コーヒーカップであれば、器としてコーヒーを溜めることができて口元に運ぶための取っ手があればコーヒーカップとして成り立つ。

でも、コーヒーカップはさまざまな種類があって、僕らはそのたくさんのコーヒーカップのなかから自分の目にかなったものを選んで購入する。毎日使うお気に入りから、時々エスプレッソを飲むときに使う小さなもの、キャンプに行くためのシンプルな金属製のカップも持っていたりする。こんな風に製品は、それが使われるシーンによって選ばれ、大切なのは機能だけでなく、そのモノが持つ雰囲気だったりする(写真はイメージです)。

クルマやバイクも実際には走って、曲がって、止まればそれで事足りるのだが、実際にはそれ以上の要素が多くあって、作っている側と、それを所有して使う側の思いが一致しなければ商品として成り立たず、マーケットに存在する理由がなくなってしまう。

さらに、本来は動いて移動するための道具なはずなのに、止まっているときにも惚れ惚れしなくてはダメだ、というのだからとても厄介なのだ。しかも相手にしているのはとても目の肥えているお客さまだったりするのだから、これはとても大変責任重大な仕事なのである。最終的には企業の業績もデザイナーの腕にかかっているというわけだ。そんなデザイナーという職業人がナニを考え、ナニを伝えようとしているのか。
いっぽうで、綺麗な形に見せるためにどんな技があるのか、どんな工夫をしているのか、ということもこのコラムでは紹介していきたいと思っている。

デザイナーを目指している学生諸兄だけでなく、デザイン、そしてデザイナーという生き物に興味がある皆さまもぜひご覧いただけたらと思います。
ご挨拶代わりの前置きが長くなってしまいました。次回から、よろしくお願いいたします。

【“MY STYLE” 難波治のカーデザイナー的視点】連載は隔週掲載となります。次回は6月12日公開予定。どうぞお楽しみに!

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著者プロフィール

難波 治 近影

難波 治

筑波大学芸術専門学群生産デザイン専攻卒業後、株式会社スズキ入社。軽自動車量産車、小型車先行開発車輌…