清水浩の「19世紀の技術を使い続けるのは、もうやめよう」 第12回 

脱・温暖化その手法 第12回 ー製鉄の技術もまた19世紀から継承されているー

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Eliica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

人類の宝=鉄が高度な文明をもたらす

軽くて強い材料は人間生活に欠かせない。強いという表現の中には引っ張っても変形が少ないということを表す剛性と、引っ張っても切れないことを表現する強度がある。そしてそれが重量当たりどれだけかということが実用上重要で、それぞれ比剛性、比強度である。

鉄はこの双方共が他の金属に対して大きいことと、鉄のもととなる鉄鉱石が地上に大量に存在することで遠い過去から最も多く使われている金属材料である。

鉄は通常酸化鉄の形で存在し、ここから酸素を除くことで鉄を作ることが出来る。

人間が鉄を使うようになったのは紀元前1600年頃に現在のトルコで誕生したヒッタイト人からとされている。

日本の鉄鋼業の省エネポテンシャルは極めて高い。鉄鋼業は文明にとって不可欠な産業だが、
それだけでは測れない側面がある。(資料:経済産業省 金属産業の現状と課題より) 

製鉄技術の向上は産業革命の礎

現在に続く製鉄は、高炉によって銑鉄(せんてつ)を作り、これを転炉で銑鉄に含まれる炭素と他の不純物を取り除いて鋼(はがね)にするという方法が取られている。

高炉は溶鉱炉とも呼ばれるが、古くは古墳時代の紀元前1世紀まで遡ることができる。

高炉では燃料と鉄鉱石を混ぜ合わせ、鞴(ふいご、吹子)で風を送ることで高温を発生させて銑鉄を作る。その燃料として古くは木材が使われていたが、大量の木材を利用するためにその生産量は限られていた。

1709年、イギリスのエイブラハム・ダービーが石炭をコークスにすることで高温が得られることを発見し、これを用いることによって近代製鉄が誕生した。

こうして鉄が大量に作られ、一方では蒸気機関も発明されたことで、18世紀から始まる産業革命の基礎となった。

銑鉄には大量の炭素が含まれている。ケイ素やマンガン等の不純物も含まれる。このために脆い。これらの不純物を除くことによって、鋼となって強度が高くしなやかになる。そのために、転炉が用いられると前述したが、これは大きな釜のような形のもので、その中に銑鉄を入れて回転させながら酸素を吹き付ける。すると銑鉄中に含まれる炭素と酸素が結合してCO2を発生させ、他の不純物であるケイ素やマンガン等も酸素と結合して、二酸化ケイ素や二酸化マンガンとなる。これらは鉄に比べて比重が軽いので上に浮かぶ。これを除くことで鋼が作られる。

現在に続く転炉は1856年イギリスのヘンリー・ベッセマーの発明によるものである。これにより効率良く鋼を作ることができるようになった。しかしベッセマーが発明した転炉の内壁は不純物であるリンに弱かった。そこで1878年にイギリスのシドニー・トーマスとパーシー・ギルクリストが耐火性の高い煉瓦を使うことでこの問題を解決した。

この原理の転炉は今に至るまで使われている。こうしてみると、自動車や発電と同じように、大量の火力を必要とする近代製鉄法も、19世紀に発明され基本原理は変わらず今でも使われていることになる。

日本の産業における鉄鋼業はCO2排出量は全体の5割に迫る。
(経済産業省 金属産業の現状と課題より)
2011年に開発した電動バス”SAKURA”。8輪車を8輪駆動。
車輪を小さくして低床フルフラットとした。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…