わかったら相当なマニアかも? さて、この装備はいったい何でしょう?

これ、何だかわかりますか? 使わないまま売っちゃったかも!? 説明されないとわからない、ちょっとマニアックな装備とモード

果たしてこの装備は、いったい何に使うものでしょう?
「こんなのがあったら、きっと便利だ」
自動車技術者やデザイナーは常にそう考えながら自動車を作っています。
しかし、あまりにも考え過ぎてしまい、マニュアルをよく読んだり、誰かに説明されないと肝心のユーザーが気が付かなかったり、社会環境の急激な変化で突然に意味あいが薄れてしまう装備やモードが生まれてしまうこともあります。
いわゆる「珍装備」とはちょっと意味が違う、そんな説明不足(?)が残念だった装備やモードを振り返ってみましょう。

「あれ、収納に失敗したかも?」と不安になりかねない後ろ向きモード

■ホンダ 初代オデッセイ(RA1型) 3列目シート『オープンベンチモード』(1994年)

ホンダ 初代オデッセイ(RA1型) (1994年)

1994年に発売されたホンダのベストセラー・ミニバンである初代オデッセイの3列目シートには、『オープンベンチモード』と呼ぶ後ろ向きに座れるモードが用意されていました。

初代オデッセイの『オープンベンチモード』と呼ぶ後ろ向きに座れるモード。下は3列目席の回転収納。これがあるから実現できたシートアレンジだ。

このモードは停車中のみに使用する(と言うか、走行中に使用しても意味がない)もので、リヤハッチを跳ね上げて簡単なタープがわりにし、アウトドアで休憩する際に使用してくださいという意味合いで用意されていたものです。

初代オデッセイの3列目シートはヘッドレストをはずし、背もたれを前方に折り畳んでフラットにし、それを後方に180°クルリと回転させて床下にスッキリ収納するというものでしたが、この「回転させて収納」という仕掛けがあってこそ生まれたのが『オープンベンチモード』でした。3列目シートのヘッドレストをはずしたら、折り畳まずにそのまま後方へ回転させて、座面を背もたれに、背もたれを座面にして使おうというわけです。

新車発表時にはこのモードは様々なメディアで騒がれていたよう記憶していますが、徐々に触れられることが少なくなり、すっかり忘れられてしまったように感じます。シートのモード変換にかかる手数のわりに使いどころが少なかったからでしょうか。今では旧車紹介のような記事でもこのモードの事は滅多に触れられていません。

このモードでは背もたれと座面の角度調整ができず、やや苦しい着座姿勢を強いられます。むしろ個人的には「そのままリヤゲートの端に腰かけた方が手間いらずで楽なのでは?」とも思いましたが…。また、何も説明されなければ「収納に失敗したのかも」と不安になりかねませんでした。いずれにせよ誰かに説明されないとわかりにくい、中古車で買ったら気が付かないレベルのモードではないでしょうか。

実は単なるデザインではなく立派に「収納」だった謎のスリット

■日産 2代目キューブ(Z11型)/キューブ・キュービック(GZ11型) 『センタースリット』(2002年)

日産 2代目キューブ(Z11型) (2002年)

2002年に発売された日産の2代目キューブは、良好な後方視界を確保するための左右非対称ボディや、デザイナーが「カクにマル」と称したスクエアでありながら角をなくしたレトロモダンに通底する独特のデザイン、自分の部屋のような居心地の良い室内空間の演出といった要素がヒットし、3列シートのコンパクト・ミニバン仕様のキューブ・キュービックも生み出したヒット車です。

この2代目キューブの前列シートはセンターコンソールボックスのフタがシートの座面風に仕立てられ、ベンチシート風になっています。この座面風のフタには縦長のスリットが2本入れられていました。一見すると左右のシート座面のデザインと整合性を持たせたデザイン処理に見えますが、実はそこそこ深く作られており、立派に「収納」の一部だったのです。

矢印で示しているのが『センタースリット』。ベンチシート風に見せるデザイン処理というだけでなく、実は音楽CDなどカード状あるいは板状のものをはさんで仮置きする「収納」だった。

『センタースリット』と名付けられたこのスリットは、駐車場の駐車券や高速道路などの通行券や領収書、あるいは音楽CDなどのカードや薄い板状のものを差し込んで一時的に仮置きするためのものでした。

ETCの普及で高速道路などでは通行券は受け取ることもなくなり、その後のオートチェンジャーなどの登場と普及によって音楽CDの交換作業もなくなったため、この装備も後になくなってしまいます。車内で聞く音楽にしてもCDではなくネット配信、カーナビさえもはやスマホ頼りと、当時と“文化”が大きく異なってしまった現在、このクルマを中古で手に入れたとしたら、「いったい何のために、わざわざ掃除のしにくい深さのスリットなどシート座面に切ったのか?」と悩むことでしょう。

実は筆者の友人がそうでしたが、この『センタースリット』の使い方に気が付く前にクルマを売却してしまい、後日、筆者の説明でようやく“真相”が判明した次第。やはりこれも「中古で買ったら使い方のわからない装備」の一つだったのではないかと思います。

心遣いが細か過ぎてユーザーに伝わり難かった便利装備

■三菱 初代eKワゴン(H81W型) 『プチごみ箱』&『霜とりクン(スクレーパー)』(2001年)

三菱 初代eKワゴン(H81W型) (2001年)

2001年に発売された三菱の初代eKワゴンは、「いい軽」を創ろうという願いを込めて名付けられた「eK(いい軽)プロジェクト」から誕生した、次世代をリードしてスタンダードとなることを目指した軽自動車です。なお、公式には「eK」は「excellent K-car」の頭文字とされています。徹底したユーザー調査で導き出された「ちょうどいいサイズ」のセミトール・パッケージングと使いやすさを追求したシンプル&モダンなインテリアが好評を博し、様々な派生モデルを生み出し、現在もその名が4代目として受け継がれている傑作軽自動車です。ちなみに開発指揮を執られた相川哲郎氏は後に軽自動車『i』や世界初の量産EV『i-MIEV』を開発、2014年には同社社長に就任されました(2016年退任)。

写真左側、ドア前方のユーティリティポケットに装着されている青い容器が『プチごみ箱』。写真右側の赤丸で囲われた部分にドアポケット内部の移動式パーティションとして機能中の『霜とりクン』が見える。

この初代eKワゴンの運転席側、右フロントドアのドアポケットには、従来にない2つの装備がありました。一つは前方のユーティリティポケットに装着された『プチごみ箱』、そしてもう一つは『霜とりクン』と名付けられたスクレーパーです。

『プチごみ箱』はドアのユーティリティポケットだけでなく、センターパネル下にも装着できるように工夫されていた。

『プチごみ箱』はセミ・クリアブルーの塩ビ素材で作られた小さなごみ箱で、メーカーの説明では有料道路などの通行券の半券やレシート、個別包装のキャンディの包み紙など、ちょっとしたクズごみを捨てるためのものでした。この『プチごみ箱』はユーティリティポケットにスッポリとはまりますが、実は助手席側の人にも使えるよう、取り外してセンターパネル下にも装着できるようになっていました。しかし、おそらく誰かに説明されなければ、センターパネル下に移設できることはわからなかったのではないでしょうか。また、中古車ではこれが紛失している個体も少なくなく、センターパネル下の金具がいったい何のために付いているのかわからない人も少なくなかったことでしょう。

寒冷時にガラス面に付着した霜をこそぎ取るためのスクレーパー『霜とりクン』。普段はドアポケットの内部を仕切る、マグネット固定式で左右移動が可能なパーティションとして機能する。

さらにハードルが高い(?)のが『霜とりクン』です。これは寒冷時にガラス面に付着した霜をこそぎ取るためのスクレーパーなのですが、普段はドアポケットの内部を仕切る、マグネット固定式で左右移動が可能なパーティションとして機能しています。おそらく誰も教えてくれなければ、取り外し自在のドアポケット内部の移動式パーティションとしてしか認識されなかったでしょう。これもまた中古車市場では紛失している個体が少なくなかったようで、「そんなのあったっけ?」と言われがちな装備の一つです。

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著者プロフィール

高橋 昌也 近影

高橋 昌也

1961年、東京生まれ。早稲田大学卒。モデラー、ゲームデザイナー、企画者、作家、編集者。元・日本冒険小…