清水浩の「19世紀の技術を使い続けるのは、もうやめよう」 第19回 

脱・温暖化その手法 第19回   —19世紀の技術は力学、電磁気学の成果である

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Eliica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

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辺りはすべて19世紀の技術

温暖化の原因は19世紀に発明された技術を原理は変えずに今でも使い続けていることが本質であるということが、第14回目で述べたかったことである。

科学と技術はまったく別の概念であるが、密接に関係しながら発展してきたということも第18回で述べた。

自動車の内燃機関は、シリンダーの中で気化したガソリンの爆発力でピストン内部の容積が大きく拡大する時の力を使い動力とする。この運動は、上下方向あるいは横方向の直線的な動きである。これをクランクで回転力に変えてトランスミッションと差動装置を伝わって車輪を回す力となる。

内燃機関の原理図 シリンダーの中で、ガソリンと空気の混合気を
スパークプラグで爆発させ、ピストンを下に押し下げる力をクラン
クで回転運動に変える。

エンジン内の気化したガソリンの燃焼は化学的知識を使うが、その他の車を設計する時に必要な知識は力学である。力学はアイザック・ニュートンにより、ものの運動を表す物理学の一分野として生みだされた。これが次第に発展して、構造物に力がかかった時の曲がりにくさや、非常に大きな力がかかった時の壊れにくさを計算する材料力学に発展した。

例えば同じ太さの鉄の棒ですべてが鉄で出来たものと、パイプ状になったものに力をかけたらどちらが曲がりにくいだろうか。これはすべて鉄でできた棒の方が曲がりにくい。それでは、何故パイプが使われるのか。それはパイプに力をかけた時の曲がり易さは全体が鉄の棒より大きいが、重さが全く違うのである。このため、軽く、僅かな材料で車の車体を作りたいときにはパイプ構造にするという設計を行なうことが出来る。

力学はまた空気や水のように、流れるものの運動を計算する方向に発展した。これが流体力学である。これと自動車時代の関係で言えば、流線型の車は空気抵抗が小さく、従って燃費が良く、箱型の車は燃費が悪いわけだが、それを計算で求めるために流体力学が使われる。

19世紀の科学/技術はCO2の発生を軽視してきた

発電はどうか。発電機で起こせる電力は、磁場を作る電磁石や永久磁石の強度とコイルの巻線の数の掛け算で決まる。では、どのように磁石とコイルを配置するのが良いか? の計算は電磁気学の知識を使う。

発電機とモーターの基本構造 回転する磁石と固定のコイルから構成されている。
発電機とモーターの回転力は磁石の強さと、コイルの巻線数をかけたものになる。
回転力に回転数をかけると出力になる。

発電の場合、水や水蒸気の力でタービンを回すわけだが、どのような経路で伝えるのが良いかは流体力学の知識で計算できる。

製鉄においては石炭と鉄の化学反応を起こさせるのが高炉であるが、これは高さ100m以上の建築物である。高炉の建設には材料力学が使われる。

セメント生産でも大きな窯(かま)が使われる。ここで使われるのはロータリーキルンというもので、回転しながら材料に熱を加える。この建設も材料力学の知識が使われる。

このように、19世紀に生まれ、現代に続く便利な技術であることに間違いない。しかし、それが故に大量のCO2 発生の原因になっている技術は、力学、電磁気学を科学的根拠とした技術なのである。

 19世紀の科学上の成果は、大きなエネルギーや創造物を生み出すことに成功したことだが、CO2 の発生が大きな問題として意識されていなかったことが、最大の欠点であったのだ。

国立環境研究所の大型レーザーレーダー
筆者が、大学院を出て就職して最初に開発したシステム。
つくばから東京上空までの大気観測をすること目的として
いた。グリーンの線がパルス状のレーザービーム。これを
大気中に打ち出して大気中の粒子や分子に当り、散乱され
る光を大型の望遠鏡で受信することで、大気の分析と、そ
こまでの距離を観測する。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…