WRC 速さがあっても大成できない? ベルギー人ラリードライバーのジンクスに挑むティエリー・ヌービル

ティエリー・ヌービル PHOTO:Red Bull Content Pool
8月18日〜21日にかけて、ベルギーを舞台に開催される世界ラリー選手権(WRC)第9戦イープル・ラリー・ベルギー。1965年にスタートしたイープルは欧州屈指の歴史を持つが、長らくヨーロッパ・ラリー選手権の一戦として開催が続いた。WRCのステータスを得たのは意外にも新しく、2021年。そして、ベルギー待望のWRC初開催となったイープルを制したのが、ヒョンデから参戦する同国出身のティエリー・ヌービルだ。

ベルギー出身のWRCチャンピオンはゼロ

PHOTO:Hyundai Motorsport GmbH

先日のラリーフィランドを制したオィット・タナックと共に、ヒョンデが誇るダブルエースとして活躍するヌービル。今シーズンはすべてのラリーで完走し、ポイントを獲得しているものの、ここまで最上位は第2戦スウェーデンの2位。ドライバーズ選手権ではトップを独走するトヨタのカッレ・ロバンペラから95点差の3番手と、厳しい戦いを強いられている。

2022年WRCドライバーランキング(第8戦終了時点)
1位:カッレ・ロバンペラ(トヨタ)198pt
2位:オット・タナク(ヒョンデ)104pt
3位:ティエリー・ヌービル(ヒョンデ)103pt
4位:エルフィン・エバンス(トヨタ)94pt
5位:勝田貴元(トヨタ)81pt
6位:クレイグ・ブリーン(フォード)64pt
7位:エサペッカ・ラッピ(トヨタ)42pt
8位:セバスチャン・ローブ(フォード)35pt
9位:セバスチャン・オジエ(トヨタ)34pt
10位:ガス・グリーンスミス(フォード)28pt

ヌービルの出身国ベルギーは、これまで多くの実力を持ったラリードライバーを輩出してきた。しかし、ワールドチャンピオンは存在しないばかりか、それこそヌービルが登場するまで、ベルギー人ドライバーのWRC勝利は、たった1回しかなかったのである。

ブルーノ・ティリー

ブルーノ・ティリーPHOTO:MICHELIN

ベルギー人として初めて世界のトップレベルに到達したのは、ブルーノ・ティリー。ティリーは90年代前半からWRCで活躍し始め、95年にフォード・ワークスへと加入。この年のツール・ド・コルスでは、フォード・エスコートRSコスワース4×4を駆り、SS1からトップを快走する。ところがSS20でホイールベアリングが破損し、このステージを走り切ったものの、続くロードセクションでリタイアとなってしまう。

残りたった2SS、ティリーは初勝利目前で絶望の淵に突き落とされることになった。その後、フォード、スバル、シュコダとさまざまなチームから参戦を続けたが、二度と彼に勝利のチャンスは巡ってこなかった。

フレディ・ロイクス

フレディ・ロイクス PHOTO:SKODA

90年代中盤、ティリーに続いて頭角を表したのがフレディ・ロイクスだ。トヨタ・セリカGT-Four(ST205)やカローラWRCをドライブしたロイクスは、特に舗装路で驚異的なスピードを披露し、「次世代のチャンピオン候補」に名乗りを挙げる。そして、99年には当時王者トミ・マキネンが在籍していたトップチームの三菱に加入を果たす。

チャンピオンマシン「三菱ランサーエボリューション」を手に入れたロイクスは、すぐにでも勝利を手にすると誰もが思っていたはずだ。しかし、マキネンのために開発されたマシンに、ロイクスのドライビングスタイルが全く合わず、表彰台はおろか、完走すら遠いラリーが続く。結局3シーズンを過ごした三菱での最上位は4位。多くのチームを渡り歩き、今もなお現役を続けているロイクスだが、彼もまたWRC未勝利のままである。

フランソワ・デュバル

フランソワ・デュバル PHOTO:FIA

3人目に挙げるのは、フランソワ・デュバル。2000年代前半、セバスチャン・ローブに続く期待の若手として世界に飛び出し、2002年に22歳の若さでフォード・ワークスから抜擢。その溢れる才能から、ローブのライバルに成長すると思われたデュバルだったが、あまりにもミスが多く、なかなか結果に結びつかない。

それでもローブのチームメイトとして、シトロエンから参戦した2005年シーズン。最終戦のオーストラリアでついに勝利を手にする。ティリーやロイクスがついぞ手にできなかった、ベルギー人初のWRC勝利だった。しかし、初勝利を記録したにもかかわらず、その不安定なドライブを指摘され、翌2006年にシートを喪失。以降、二度とワークスチームからフル参戦することなく、20代で第一線を退いている。

ヌービルが登場するまで、ベルギー人によるWRC勝利はデュバルによる1勝のみ。WRCにおいて「ベルギー人は大成できない」、こんなジンクスが囁かれるようになってしまう。このベルギー人に対する言われなき風評を払拭したのが、ヌービルだった。2012年シーズンからWRCトップカテゴリーへのフル参戦をスタートすると、2013年はコンスタントにポイントを重ね、WRCドライバーズ選手権2位を獲得して見せた。

そしてティエリー・ヌービル

ベルギー人らリースとのジンクスを破れるか? ティエリー・ヌービルPHOTO:Hyundai Motorsport GmbH

ヌービルはヒョンデから参戦した2014年のドイツでWRC初勝利を決めると、デュバルのようにチームを追われることなく、ヒョンデのエースにまで成長。ただ、ベルギー人のジンクスは、ヌービルにもわずかだが残っているようで、現在までWRC15勝を記録しているにもかかわらず、WRCでのタイトル獲得経験は皆無。しかも、5回もランキング2位に終わっているのだ。

迎える地元イープル・ラリー・ベルギー。わずかに残された逆転王座に向けて、ヌービルは反攻の狼煙を上げることができるだろうか……。ちなみにヌービルをセーフティクルー(SS走行前に路面をチェックするドライバー)としてサポートしているのは、ベルギー人のジンクスを作った、あのブルーノ・ティリーである。

PHOTO:Hyundai Motorsport GmbH

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