真摯に向き合うほどにその奥深さが滲み渡る! ポルシェ 911 GT3【’22上期、最も刺さったこの1台】

公道でGT3を走らせると、当然ながら使い切れない。それを不要や過剰と思う人もいるだろう。ではなぜ世界中でGT3を求める人がい続けるのか。そこを突き詰めると、ポルシェのブレない哲学に行き着く。
REPORT:山田弘樹(YAMADA Koki)

山田弘樹が感銘を受けたのは、究極のシャシーファスターカー、911 GT3

2022年の上半期で最も衝撃を受けたのは「ポルシェ911 GT3」だ。その前触れを感じたのは、Type992型となった新型カレラSに昨年初めて乗ったときだった。電子制御ダンパーで乗り心地を整えながらも、真に見えるやる気に満ちあふれた足周りの出来映えや、久々に感じた金庫のようなボディ剛性の高さには、かなり驚かされた。

それはガソリン時代の終焉を前に、ポルシェができることを全て詰め込んだかのような気合いの入りかただったから、「これでGT3が出たら、どうなってしまうのだろう?」と思ったものだ。

実際、新型GT3はエグかった

見た目にも美しい911 GT3のカーボンルーフ。

特に強烈だったのは、遂にダブルウイッシュボーンとなったフロントサスアームの剛性の高さ。これが前述したボディを土台にして、コーナーで強烈なCF(コーナリングフォース)を立ち上げた。そのとき2世代を経て熟成を経た後輪操舵の制御は、目の覚めるような旋回を何事もなかったかのようにアシストしていた。

この時代に自然吸気のまま4リッターの排気量を保ち続ける水平対向6気筒の直噴エンジンは、お世辞でも何でもなくポルシェの魂だ。911GT3 Rのレーシングエンジンをベースに公道用へとデチューン…というよりアジャストされたエンジンには低速から明らかな余裕があり、かつ高回転では超が付くほど刺激的である。いまや600PS超えが珍しくなくなったスーパースポーツのジャンルにおいてGT3の510PS/8400rpmという最高出力は一見控えめに見えるが、とんでもない。

ボア径が102mmもあるシリンダーの中でその大型ピストンは13.3:1の高圧縮比をもって混合気を圧縮・爆発させ、81.5mmのショートストロークをもって9000rpmまでクランクを回しきる。その刺激は同じ4リッターの排気量を持ちながらも、カレラ用のターボエンジンを自然吸気へと置き換えた718ケイマンGT4のそれとは、まったくの別物。

リヤエンジンの蹴り出しも加わってそのアクセルレスポンスは恐ろしくリニア&トルキー。なおかつ望めば、これが自然吸気エンジンの従順さをもって9000回転まで一気に回る。しかしその狂気のサウンドを聴いていると、走らせているこっちがなんだか怒られているような気持ちになる。

GT3は「510psでしかない」のだが‥‥

ブレーキペダルステーはカーボン製。

ポルシェが小排気量ターボによる高出力化の道を選ばず、頑なに自然吸気エンジンで意地を張り通したのは、使い切れないオーバー600PSよりも、510PSでの全開率を求めたから。これも相当にハードルの高いオーダーではあるけれど、そこにオーナーは気持ちをかき立てられる。ポルシェは歴代911でそういうクルマ作りをしているが、新型911GT3は正に「510PSのシャシーファースター」なのである。

だから正直911GT3をオープンロードで走らせていると、思い切り手に余る。そして門外漢の人々ほどきっと、「そこまで必要なの?」としらけたり、「自分には関係のない乗り物だ」という気持ちになるだろう。しかし911GT3というスポーツカーが、世界中のマニアたちから、きちんと必要とされているということも覚えておいて欲しいと筆者は思う。

その潔癖なまでのドライビングプレジャーの追求と、妥協のないシャシーワークの出来映えに惚れ込んだクラブマンレーサーたちが、ニュルブルクリンクや世界中のサーキットでGT3(やGT3 RS)を本気で走らせている。世界中のレースではプロ・アマ含めたレーシングドライバーたちが、カップカーやFIA-GT3マシンで戦っている。

ドライビングに真摯に向きあえば向きあうほどに、ポルシェ911というスポーツカーは、運転の面白さというものをわからせてくれる。それをこの70数年間ぶれずに、表現し続けてくれているのがポルシェの素晴らしいところ。スーパーカーメーカーではなくスポーツカーメーカーだからこそ、911GT3などまったく縁遠い筆者も、ポルシェのことが放っておけないのである。

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