マツダCX-60 直6ディーゼルのスチールピストンに萌える【’22上期、最も刺さったこの1台】

マツダCX-60 3.3ℓ直列6気筒ディーゼル搭載モデル
2022年上半期、もっとも印象的だったクルマを取り上げるリレーコラム。今回は技術に強い自動車ジャーナリスト、世良耕太さんのチョイスだ。心に刺さったのはマツダのSKYACTIVD-3.3、つまり新開発直列6気筒ディーゼルターボエンジンである。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)

SKYACTIV-D3.3は大排気量多気筒なのに燃費もいい

マツダCX-60 XD 3.3ℓ直6ディーゼルエンジン搭載グレードFRモデルは323万9300円

マツダの新世代商品群第1弾となるCX-60の予約受注が6月24日に始まった。縦置きパワートレーン専用に開発されたシャシーに搭載するパワートレーンは4種類が設定されている。

ラージプラットフォームは、直6、新開発8AT、AWD、PHEV、48Vマイルドハイブリッドシステムなどの技術を適宜組み合わせる。

価格レンジの高いほうから、2.5L直列4気筒自然吸気ガソリンエンジンと高出力モーターを組み合わせた、プラグインハイブリッドの「e-SKYACTIV PHEV」(539万円〜626万4500円)。新開発した3.3L直列6気筒ディーゼルエンジンに48Vマイルドハイブリッドシステム(MHEV)を組み合わせた「e-SKYACTIV D」(505万4500円〜547万2500円)。マイルドハイブリッドを組み合わせない“素”の3.3L直列6気筒ディーゼル「SKYACTIV-D 3.3」(323万9500円〜465万8500円)。そして、プラグインハイブリッドシステムを組み合わせない、素の2.5L直4ガソリン「SKYACTIV-G 2.5」(299万2000円〜407万円)を設定している。

SKYACTIV-D3.3のスケルトン
SKYACTIV-D3.3
形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
排気量:3283cc
ボア×ストローク:86.0mm×94.2mm
圧縮比:15.2
最高出力:231ps(170kW)/4000-4200rpm
最大トルク:500Nm/1500-3000rpm

このなかで筆者が前のめりになったのは、新開発の6気筒ディーゼルだ。SKYACTIV-Dの第2世代に位置づけるSKYACTIV-D 3.3は、燃焼の進化によってクリーンな排気と低燃費を実現したという説明だった。とくに目を引いたのは燃費で、MHEVのe-SKYACTIV-D 3.3はWLTCモード燃費が21.1km/L(1910kg、4WD)、モーターとバッテリーを持たないSKYACTIV-D 3.3は18.5km/L(1840kg、4WD)のカタログ燃費を叩き出す。第1.5世代SKYACTIV-D 2.2を搭載するCX-5のWLTCモード燃費が16.6km/L(1690-1720kg、4WD)だと記せば、第2世代SKYACTIV-Dの実力のほどが窺いしれるだろう。

大きく重たいクルマに排気量の大きなエンジンを載せているのに、燃費は格段に良くなっているのだ。燃費のために走りを我慢しなくていいのも第2世代SKYACTIV-Dの特徴で、SKYACTIV-D 3.3は500Nmの最大トルクを、e-SKYACTIV-D 3.3は550Nmの最大トルクを発生する。e-SKYACTIV-D 3.3搭載車をテストコースで短時間走らせた印象を言えば、我慢とは無縁。むしろ、元気いっぱいの走りが印象的だった。これで実用燃費が良ければ、申し分ない。

なぜ3.3ℓの大排気量にしたのか? マツダの狙いは、燃焼を進化させて排気量をエミッションと低燃費に使うことだ。

力強い走りと燃費、排ガス性能の両立に大きく寄与しているのは、マツダが「空間制御予混合燃焼(DCPCI)」と呼ぶ燃焼技術だ。リーンな混合気をよく混ぜたうえで、上死点(TDC)付近でコンパクトに燃やすので、熱効率が高くなる予混合圧縮燃焼(PCI)が広い範囲で実現できた。ガソリンエンジンにあてはめれば均一予混合圧縮着火燃焼(HCCI)の範囲を拡げたのと同等である。WLTCモード走行を含め、実用領域はDCPCI燃焼でカバーできるというから驚きで、だから、力強い走りと燃費が両立できた。

DCPCI燃焼を実現する手段はボウル形状をしたピストン冠面に段を設けた2段エッグ燃焼室と多段噴射だ。これにより、噴霧の干渉を回避しつつ、噴霧が空気をしっかり取り込んでリーンで燃える。「マツダはまたすごいことやってきたなぁ」と感心するのは早く、DCPCI燃焼に関する説明を受けた3ヵ月後、第2世代SKYACTIV-Dに適用しているピストンを見せられて目を見張った。2個並んだピストンのいっぽうは前にも見たことのある第1.5世代SKYACTIV-D 2.2のアルミピストンだ。

理想の燃焼の追求と排気量アップを中心にした技術革新で、走り、燃費、エミッションすべてにおいて価値を向上させる。理想の燃焼の実現にはDCPCI=空間制御予混合燃焼を開発した。
DCPCIとはDistribution Controlled-Partially Premixed Compression Ignitionのイニシャルをとったものだ。

その横に置いてあるのは明らかに様子が違って鈍色をしている。「スチール(鉄)ピストンだったのか!」と驚くとともに、高回転時代のF1ピストンを見たときに近い感動を覚えて、「これ、欲しい」と思った。机の上に置いて眺めていたい。

「鉄のほうが重たくなるのですが、機械抵抗は断然低くなります」と説明してくれたのは、第1世代SKYACTIV-Dから開発に携わる志茂大輔氏だ。「(第1.5世代の)4気筒から6気筒にすると、普通に考えたら機械抵抗は大きくなるのですが、実は4気筒よりも下げています。その大きな要因が鉄ピストンです」

鉄よりアルミのほうが線膨張係数(温度によって長さや体積が膨張する割合)は大きい。そのため、エンジンが暖まったときは鉄ピストンよりアルミピストンのほうが径は大きくなる。ということは、アルミと鉄の中間的な特性を持つ(アルミブロックに鉄のライナーを鋳込んでいるため)シリンダー壁面との抵抗は、鉄よりアルミのほうが大きくなる。その抵抗を下げるため、鉄ピストンを採用したというわけだ。

普通に鉄に置き換えるとだいぶ重たくなってしまうが、設計の工夫により、鉄にしては軽く抑え、5000rpmまできっちり回るようにしたという。新旧を持ち比べてみると鉄ピストンのほうが確かに重たいが、ヘッド部は薄くコンパクト。スカートが分離した構造になっているのも特徴で、単純にカッコイイ。第2世代SKYACTIV-Dの燃費に寄与しているのは、実は、鉄ピストンの効果も大きいと聞いて、関心が高まった。

2022年上半期で最も刺さったのはCX-60のディーゼルエンジン搭載車だが、もっと細かくいうと、鉄ピストンである。

CX-60の直6ディーゼル搭載車のエンジンコンパートメント

キーワードで検索する

著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…