異色の『トミカ』、かにクレーン参上!

トミカ × リアルカー オールカタログ / No.63 前田製作所 かにクレーン

発売から50年以上、半世紀を超えて支持される国産ダイキャストミニカーのスタンダードである『トミカ』と、自動車メディアとして戦前からの長い歴史を持つ『モーターファン』とのコラボレーションでお届けするトミカと実機の連載オールカタログ。あの『トミカ』の実機はどんなマシン?
No.63 前田製作所 かにクレーン (ブーム上下・伸縮/アウトリガ可動・希望小売価格550円・税込)

『トミカ』の『No.63 前田製作所 かにクレーン』はちょっと異色の『トミカ』です。ご存じのようにクレーンとは人の力では持ち上げられない大きなものや重いものを吊り上げて運ぶ機械――起重機――です。新しい機械のように思えますが、日本では867年ごろ、奈良・東大寺の大仏の修復作業に初歩的なクレーンが使われたという記録が残っています。

前田製作所 MC174CRM かにクレーン 実機(PHOTO:前田製作所)
前田製作所 MC174CRM かにクレーン 実機 格納状態(PHOTO:前田製作所)

さて、“かにクレーン”とは、クレーンを転倒させないように本体から脚のように張り出して接地させる装置――アウトリガあるいはアウトリガー――を展開させた姿が“かに”のように見えることからきた呼び名で、“くも”のように見えるとして“くもクレーン”とも呼ばれることもあります。正しい分類としては“クローラークレーン”という、クローラ―――履帯(りたい)、無限軌道、カタピラ――によって自力移動して作業のできる移動式クレーンになります。

その“クローラークレーン”の中でも定格荷重が5トン未満の小さなものを特に“ミニクローラークレーン”と呼んで区別しますが、“かにクレーン”とか“くもクレーン”と呼ばれるものは、この“ミニクローラークレーン”の中でもさらに小さな、定格荷重3トン未満で4本のアウトリガを備えたクレーンのことを指します。基本的には床上に立った姿勢で外から操作する比較的小さな機械なので、運転席を持っていません。つまり“かにクレーン”は乗り物ではないのです。『トミカ』は基本的には乗り物をモデル化していますが、“かにクレーン”は乗り物ではありません。これが『トミカ』の中でも『No.63 前田製作所 かにクレーン』が異色とされている点です。

前田製作所 かにクレーン MC174CRMと人間との対比。サイズ感がつかみやすい。かにクレーンは人間が乗り込むのではなく、外部から本体の操作盤あるいはドローンのようにリモコンで操作される。(PHOTO:前田製作所)

“かにクレーン”はコンパクトでありながら幅広い作業に対応できるため、ラフテレーンクレーンのような自走式クレーンが入れないような幅の狭い場所での道路工事、石材あるいは造園工事、建屋内での機械組立やPC板ALC板の建組工事に多用されています。基本的には“かにクレーン”は定格荷重で大きく4つのクラスに分類されています。一番小さなものは1.7トン・クラスで、ブームは4段伸縮。その上が2.4トン・クラスでブームは5段伸縮の長いものになります。さらにその上が2.8トン・クラスで、排気ガス規制の対象とならない最大のクラスになります。そして最大が2.9トン・クラスで、ブームは5段伸縮から7段伸縮までとバリエーションに富んでいます。

前田製作所の“かにクレーン”は定格荷重クラス順にMC174CRM、MC285C-3、MC305C-3、MC405C-3の4種類があり、これにナックルブームクレーンのMK1033CW-1も加えたファミリーを形成しています。『トミカ』の『No.63 前田製作所 かにクレーン』のモデルとなっているのは、その形状から見て、最小の1.7トン・クラスに属するMC174CRMだと思われます。

MC174CRMの格納状態の全幅はわずか590mm。(PHOTO:前田製作所)
格納時の全幅が小さいため、幅の狭い小道でもラクに通り抜けられる。(写真はMK1033CW-1ナックルブームクレーン。PHOTO:前田製作所)
安全に作業のできるモーメントリミッタが標準装備されている。(PHOTO:前田製作所)
現場に合わせた作業範囲を設定しておけばブームが設定位置で自動停止するため、接触することなく安心して作業が可能。(PHOTO:前田製作所)

MC174CRMは世界中で広く使用されている“かにクレーン”のベストセラー・モデルです。ブームやアウトリガを折りたたんだ格納状態での幅はわずか590mmで、通常のドアからの搬入はもちろん、建築用エレベーターへの積載も可能なコンパクトさ、機動性の高さが魅力です。また、クレーンに過荷重がかかったり転倒しないように、吊り荷の荷重やクレーンに働く回転運動――モーメント――を演算し、それが許容値を超えると警報を発して作業の安全を確保するモーメントリミッタが標準装備されているのが大きな特徴となっています。

さらに、現場に合わせた作業範囲設定が可能で、電線や障害物のある場面でも、作業範囲を設定しておけばブームが設定位置で自動停止するため、接触することなく安心して作業ができます。これらに加え、ウィンチのスピードはクラス最速の10.9m/minを誇り、走行速度も2段階の切り替え式、クレーン・走行誤操作防止機能も備えています。このほか、屋内で使用する場合に床面にブラックマークを残さないよう、オプションで白ゴムクローラーなども用意されています。

トンネルや建物の中など、狭い場所でも使える機動力の高さが“かにクレーン”の利点の一つ。(写真はMC305C-3。PHOTO:前田製作所)

“かにクレーン”の名前の由来であるかにの脚のようなアウトリガは、一見すると脚で歩けそうな雰囲気ではありますが、実は上下動こそ油圧式であるものの左右旋回方向は外部からの手動式ですので、残念ながら(?)歩けません。あくまでクレーン本体を安定させるためのものです。また、先述のように運転席はなく、オペレーターは外部から操作盤あるいはデジタルディスプレイ付きリモコンで操作します。

『トミカ』の『No.63 前田製作所 かにクレーン』は、意外に繊細で華奢な実機を、『トミカ』としての自主安全基準の範囲ギリギリで出来る限り忠実なモデル化がされています。ユニークなスタイルが魅力的な異色のモデル、あなたのコレクションに加えてみませんか?

■前田製作所 かにクレーン MC-174CRM(1.72t×1.0m モーメントリミッタ標準装備) 主要諸元

全長×全幅×全高(mm):2000×590×1300(収納時) / 3475×3035×1300(アウトリガ展開時最大)

機械質量(kg):1290

クレーン容量:1.72t×1.0m

最大作業半径:5.17m×0.22t

最大地上揚程(m):5.5

最大地下揚程(m):7.0(4本掛)

フック巻上速度(m/min):10.9(ドラム3層目、4本掛)

ワイヤロープ仕様:IWRC6×Fi(29) φ6mm×35m

ブーム形式:5角形全自動4段(3・4段目:同時伸縮)

ブーム長さ(m):1.83~2.97~4.21~5.45

ブーム伸長ストローク/伸時間:3.62m/15sec

ブーム角度/起時間:3°~77°/12sec

旋回角度/旋回時間:360°連続/30sec(2.0min-1)

アウトリガ方式:1段屈折ステーダンパ付、2段手動引出、油圧シリンダ直押式

アウトリガ最大張出幅(mm):(左右)3475×(前)3215×(後)3035

走行方式:油圧モータ駆動2段変速

走行速度:1速2.0km/h・2速3.3km/h

登坂能力:20°

クローラ接地長×幅(mm):1044×180

接地圧:33.7kPa(0.34kgf/cm2)

原動機形式:三菱重工 GM401LE 単気筒OHVガソリン

排気量(cc):391

連続定格出力:6.6kW/1800min-1(9.0ps/1800rpm)

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