清水浩の「19世紀の技術を使い続けるのは、もうやめよう」 第28回 

脱・温暖化その手法 第28回  —リチウムイオン電池は日本で発明&量産化された技術だ!—

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Eliica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

リチウムイオン電池の原理

今回以降は日本で発明され量産化されたリチウムイオン電池について複数回取り上げたい。

まず、今回は基本的な構造について述べる。

リチウムイオン電池は充電時に正極(プラス)に貯えられたリチウムが電気を帯びたイオン状になり、電解質を通して負極(マイナス)に移動する。これは、外部から電力を供給することで行なう。その逆に、外部に電気を取り出すときに、負極に貯っていたリチウムが、電解質を通して正極に戻る。これが放電ということになる。これが繰り返し行なえる電池が充電可能な電池ということになる。

一般に乾電池のように一度放電したら使えなくなる電池を一次電池、充電をしながら長く使えるものが二次電池と呼ばれている。

正極にはリチウムと金属酸化物の化合物が使われる。開発された当初は、金属酸化物としてリチウムと化合した酸化コバルトが使われた。これは約3.7Vの電圧を持つ。負極には炭素が用いられた。電解質にはフッ素の化合物の有機溶媒を使った。

その基本構成は、正極と負極の間に双方が接触せずリチウムイオンは自由に行き来できるようにするためポリエチレンに小さな穴を空けたセパレーターを置き、正極、セパレーター、負極を交互に重ねたり円筒状に巻いた上で容器に入れる。これに電解液を満たして正極と負極から電気を取り出す電極を外に出す形で密封し電池を完成させる。

正極、負極の形をもう少し詳しく述べよう。正極物質、負極物質は粉末状であり、金属酸化物は電気をあまり通さない。これを電極に使うために、正極は繊維状黒鉛などでできた導電補助剤を混ぜ、電気を流しやすくしたうえでアルミ箔に薄く塗る。負極は同様に銅箔に炭素を薄く塗ったものを用いる。このアルミと銅は集電体と呼んでいる。集電体そのものが、ターミナルを介して電池の外に繋がれる。

素材や構造を改変して進化

その後、正極材料と負極材料には幾つかの物質が使われるようになった。正極にはマンガンの酸化物やニッケルの酸化物も用いられた。マンガン酸化物を用いたリチウムイオン電池は、安全性は高く原材料の価格は安いが、充放電が何回できるかという寿命は長くない。ニッケルを使うと、重量当りの容量は大きく取れるが、マンガン程安全ではなく、寿命はマンガンよりは長いが、コバルトには劣る。コバルトを使うと寿命は長いが安全性はマンガン程ではなく、容量はニッケル程ではない。このため、次第にこれらを適度に混合して用いられるようになった。さらにマンガンの代わりにアルミを少量用いるものも商品化された。現在、容量が最も高いのはニッケル、コバルト、アルミを正極材料にするものである。

さらにリン酸と鉄とリチウムを化合させた材料も用いられた。これは安全性が高いが電池電圧が他の材料に比べて低いため、その分重量当たりの容量が小さい。

負極には、当初炭素材料でもハードカーボンと呼ばれる構造のものが使われた。これは炭素が球形をして並んでいる構造で、炭素と炭素の間あるいは球の内部にリチウムが取り込まれることで負極としての役目を果たす。

その後、炭素が層状に形成されている黒鉛で、この層と層の間にリチウムを貯えることで負極として用いることが主流になった。

また、負極に酸化チタンを用いるものも生まれた。これは炭素に比べて酸化チタン自身が約1.5Vの電圧を持っているので正極の電圧との差が小さくなるために重量当りの容量が小さい。しかし寿命が2万回もあり、充電がわずか6分でできるなどの特徴があるために、特別な用途には使われている。その後、これにニオブを化合させることで容量が大きくなるということが発見され、これを用いた商品もこれから売り出されることになる。

こうして原理の発明以来、進化を続けて来たリチウムイオン電池であるが、その発明から商品化、そして産業化はほとんどが日本人の手で、かつ日本の企業で行われて来た。その主役の方々はまだご存命で、実際に働いている方もおられるというくらい若い技術でもあるのだ。

次回は、主役の方々がどんな成果を残されたかを紹介しよう。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…