四駆専門誌編集長が初代ダイハツ・タフト愛を語る好評企画 トヨタ・ブリザードって知ってるかい?

“軽”じゃないゾ! 初代ダイハツ・タフト集中講座 第4回 試乗編 育ちの違うタフトの兄弟・ブリザードLD10系を大解剖!!

ダイハツ初代タフトの兄弟車、トヨタ・ブリザード LD10
骨董四駆推しまくりの超マニア向け(?)連載も引き際が肝心と思っていたところ、編集部から「どんどんやってよし」とのお達し。そこで今回は初代タフトの傍流、トヨタから発売された兄弟車、トヨタ・ブリザードをご紹介しましょう。
(初出・2020年7月6日)

TEXT&PHOTO 赤木靖之(『キュリアス』編集室)(初出・2020年7月6日)

 昭和55年(1980年)、新しく発足したトヨタVISTAの販売網で、専売車として先陣を切ったブリザードLD10系。見ての通りダイハツ・タフトの兄弟車である。
 しかしこれは単なるOEMではなく、エンジンをダイハツDG型2.5ℓOHVからトヨタL型2.2ℓOHCに換装しての登場だった。2つのエンジンは排気量の違い以上に性格が異なり、タフトとブリザードの違いを明確にしていた。
 つまり典型的なトラック用ディーゼルと高速型の乗用ディーゼルということで、双子の兄弟が体育会系と文化系に進んでしまったかのようなインプレッションだったのだ。
 運転してみるとその乗り味は明確に好みが分かれるところで、ビスタ店とダイハツ販社であいみつを取って「安いほうで買うぞ」なんて単純な話ではなかったのである。
 なお、価格はタフトが2万円ほど高かったが、値引きはトヨタの方が渋そうだった。買うとなれば、実際には同じ値段だったのだろうと思う。

■写真で見るトヨタ・ブリザード LD10系

トヨタ・ブリザードが登場した昭和55年(1980年)の雑誌広告から。「LIGHTそして、HEAVY DUTY」のキャッチフレーズが盛り込まれている。初期にはフェンダー先のコーナープロテクターがなく、あっさりした表情だ。


同じく昭和55年(1980年)の雑誌広告から。


バンタイプは一体構造の鉄屋根に加え、途中からFRPトップ(タフトではレジントップ)が登場。現車はブリザードを象徴する色とボディ形状である反面、初期のタフトからは全体のデザインが破綻して映る。赤色が粉を吹いて白っぽくなるのは未再生車の証。ツヤツヤに全塗装してはイケナイ ホイールはジムニー用に交換してあり、ブリザードもグレードによっては同サイズだからマッチする。


動弁系がOHCになって、タイミングベルトの大きな樹脂カバーが目立つ。ディーゼルの場合は噴射ポンプも共掛けで回すためベルト自体が長い。これが切れたりコマが飛んだらエンジンに致命傷を与える


バリエーション展開はタフトに準ずるが、色は多く選べた。鮮やかな青やカラシ色etc、同じトヨタのランクル40系の影響が強い。昭和58年(1983年)のカタログから。


カタログでは全般的に街乗りを前面に出しつつ、本格的な構造も強くアピールしている。折しもビッグホーンやパジェロの発売と相前後する時期、それら“イマドキRV”との棲み分けがキッチリ行なえるかが運命の分かれ道だった。「子ランクル」のブリザードに対して「親」もまだ頑固者だったから、ライバルと一線を画す強みはあった。


ランドクルーザーBJ41後期〜BJ42時代のカタログからは、ブリザードと同じ匂いが漂う。元を辿れば異なるDNAだが演出は似ている。すなわち本格派ながら官庁や土建業向けではなく、個人ユーザーを多く取り込みたいのだ。実はこれらランクル40系のエンジンは全てダイハツ製(3.2ℓの2B型/3.4ℓの3B型)だった。


昭和56年(1981年)式のFRPトップ車の運転席。フロアマットまで完全に純正。上位グレードのDXではセンターパネルに計器類が装備される。


燃料計や水温計は、追加された回転計のためにメーターベゼル内から追い出された。所在なくぶら下がるワイパースイッチや灰皿をよけて曲げられた変速レバーも、狭い車幅に色々追加する苦しさの表れか。


タフトのチェック柄シートは、ブリザードではランクル40系のLXに似たパターンの縞模様に。なんとリクライニング&スライド式に進化している。


荷室マットを剥がすと、実はタフト初期の短尺フロアパネルを継ぎ足していることがわかる。


ドアストッパーが布製だと笑ってはいけない。ジムニーなんて平成10年(1998年)までゴムバンドだったのだから。


OEM車はOEM元の銘板を貼られることが多いが、ブリザードは正真正銘トヨタ車だ。赤色のカラーコード(#336)は、ランクル40の赤色(#309)とは異なっている。青やカラシ色も然り。


■トヨタ・ブリザードの走行インプレッション

 ブリザードを紹介するにもシャシー自体はタフトと変わらないから、これまでの記事をあわせてご覧いただきたい。ブリザードの注目すべきはボンネットの中身、L型の乗り味に集中している。
 タフトのDG型と比べ、排気量が342cc小さく単体重量も30kgほど軽いだけ。そのうち半分はOHC化によってプッシュロッドとタイミングギヤがなくなった分と、噴射ポンプが分配型になった分と思われる。
 なのにどこか頼りなさげに感じるのは、軽いアイドリング音がブロックやヘッドの薄さを想起させるためと、乗用車用のエンジンという先入観のためだろう。

 路上に乗り出すとスムーズで振動が少なくレスポンスが良い。もちろん「対DG型比」であって、良くも悪しくもガソリンライクになった近年のディーゼルからすれば重ったるい。それでもチョン踏みのレスポンスだけは負けない。

 タフト・ディーゼルの、クラッチを繋いだ瞬間、なんの負荷も受けていないかのように軽々立ち上がる発進、そのままトップギアにぶち込めるような走りではなく、トラックと乗用車の合いの子のようだ。
 一発一発の燃焼を感じながらドドドと加速する荒っぽさは影を潜め、洗練されている。言い換えればフツーで物足りず、ゆえに目指したところは理解できる。
 かといってガソリン車のタフトグランのように軽快ではない。クラウンに積まれたL型とて、この小さな鼻先にとっては十分な「重石」だ。

 ちなみに同一ボディ(幌ドア・長尺)での車両重量は

  タフトF10L 995kg
  タフトF20L 1080kg(前期型) 
  タフトF50J 1220kg
  ブリザードLD10-KSY 1195kg(前期型)

 これらの重量差は全て前軸に掛かる。

ディーゼルにしてはコンパクトに見えるエンジン。パワステやクーラーがないことも効いている。バッテリーは運転席の下に置かれている。


奥まって見づらいが、噴射ポンプは大きくて頑丈な列型から、コンパクトで高速向けの分配型(ボッシュ式)となった。以後、コモンレール式が登場するまで、全てのディーゼルRVにおいて主流であり続けた形式だ。


分配型の噴射ポンプは内部潤滑を軽油の粘性に頼る。燃料中の水は大敵だから水分離器が備わり、インパネにドレン警告ランプが追加された。左側のカートリッジは燃料フィルター。


 ブリザードはL型の特性に合わせてデフの減速比をDG用の3.545(タフト末期のDL用は3.363)から3.909に下げている。このトランスファはハイレンジでも1.3倍に落としてあるから、実質4.6から5.2にファイナルが低められたと考えればわかりやすい。
 これでもタフトのガソリン車のデフ(1.6ℓ=4.777、1.0ℓ=5.571)よりは高く、通常走行で3000rpmも回さないタフト・ディーゼルとの中間を取った終減速比なのだ。

 L型は内径90mm/行程86mmのショートストロークの割に実用回転域が狭く、4000rpmに達する頃には、ただ回っているだけのようなトルク感になってしまう。さりとてタフト・ディーゼル並みにハイギヤード化する余力もない。
 峠道にさしかかると平地でのスムーズさはどこへやら、車速はみるみる落ちてゆく。トラック用のディーゼルで軽々引っ張るF50/F60や、ガソリン車らしくササーッと登るタフトグランと比べ、どう評価したら良いのか…。

 後年、これを200ccスケールアップした2L型を、さらにターボ化&電子制御化でNET 97PSまで引き上げた通称2L-TE型が、サーフ130系やプラドLJ70系に積まれた。
 2L-TE型はトルクが細い、黒煙を吐く、オーバーヒート癖があると不評を買って、新しい3.0ℓの1KZ-TE型に移行した経緯がある。
 そんな不甲斐なさは初代L型でも感じ取れるが、自然吸気であれば耐久性の不安は少ない。ハイエースやハイラックスにも積まれ、海外でも支持を得たエンジンである。空気と燃料を無理に押し込み、2tもある車重で高速をすっ飛ばしたらボロが露呈したまでのことだ。

こちらも昭和56年(1981年)式。純正ウインチを下ろして延長バンパーだけ残っている。


折れた木の枝が深く積もったフカフカの廃道。ランクル クラスの重さでは身動きが取れなくなっていたかもしれない。


昭和59年(1984年)にタフトがラガーに変わり、ブリザードはLD20系へ移行。このクラスも空白になって久しく、国産の“狭義の四駆”がジムニーorランクルの二択という、初代タフト登場前より寂しい状況になってしまった。あるいは、ランクルの肥大化を思えばジムニー一択ともいえるが…。


 タフト一族の中でもっとも「走らない」のがブリザードLD10系かもしれない。それでも現役当時、タフトよりは多く見かけた(タフトは本当に見なかったのですよ)。
 あまり良い書き方をしなかったが、では魅力に欠けるのかといえば、まったく逆だ。あえてフォローするのではなく、この中庸なエンジン特性は誰にでも扱いやすく、ガラガラと野蛮なDL型より快適で、キャブレター車のようなご機嫌のムラや曖昧な調子に一喜一憂することもなく、燃費に優れる。クセを楽しんだり業務用で酷使するのでなければタフトより好ましいと言える。

 やがてネッツ店につながる先進的な販売網の専売車種として「ジープみたいな四駆」より、ライト志向の味付けは正解だったはずだ。
 これはなんとなく、タフト〜ラガーの流れより、後年のロッキー(現行型のことではない)を彷彿とさせる存在感ではないだろうか。その頃には、トヨタはRAV4でもっと先を行っていたから、ロッキーをOEM販売することはなかったのだが……。
(初出・2020年7月6日)
●主要諸元

トヨタ ブリザード FRPトップ デラックス 
型式 K-LD10V-KDY

寸法 全長3520mm×全幅1460mm×全高1875mm
ホイールベース 2025mm
トレッド 前/後 1200mm/1200mm
車両重量 1285kg
エンジン L型 直列4気筒OHCディーゼル
総排気量 2188cc 
最高出力 72ps/4200rpm
最大トルク 14.5kg-m/2400rpm 
トランスミッション 4速MT 2速副変速機付き
ブレーキ前 ディスク
ブレーキ後 2リーディング
タイヤサイズ H78-15-4PR
東京店頭渡し価格 1,579,000円

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