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乗り出してすぐにわかるボディ剛性向上と乗り心地の良さ
いよいよ新型フェアレディZ(RZ34)バージョンST 9AT(9速オートマチック)に試乗する機会に恵まれた。横浜の日産グローバル本社ギャラリーでは日産車に30分体験試乗できる「テストドライブ」を実施しているが、そのラインナップに新型フェアレディZ(RZ34)が加わったのだ。運よくキャンセル待ちで乗ることができたので、さっそくレポートしてみたい。
鮮やかなイカズチイエローのZ試乗車は、近づくと白いナンバープレートが装着されたためか、ショールームで見るよりもノーズは低く伸びやかに感じられた。青空の下で見るZはボディの抑揚が思ったより強調されると同時に圧倒的な存在感を放っており、これは下手なスーパーカー顔負けだと感じた。日産とZのブランドイメージを一気に高める強烈なデザインの力だ。
ドアを開けて乗り込み、エンジンをスタートさせると勇ましい音が一瞬して、メーターが凝ったグラフィックと共に浮かび上がる。今回の試乗車は9AT車なので、電制セレクタースイッチでDレンジに入れてスタートする。インテリアの感じは見慣れたZ34のイメージだが、筆者が最も気に入らなかったシフト周りの可愛いミッキーマウスみたいなデザインは、スポーツカーらしく精悍で格好良くなった。
エアコンの吹出口はZ34の縦型からRZ34は横型へと変更され、ナビ周りも最新モデルらしくモダンになっていて気分がいい。試乗車のバージョンSTはスエード調とレザーのコンビでダッシュボードにも効果的に張り込まれ、質感が高い。R32GT-Rのステアリングを意識して開発されたステアリングの握り心地は近年の日産車の中でベストと言えるもので手によく馴染む。エアバックやスポークのデザインも良い。走り出す前からとても好印象だ。
走り出し、駐車場から出る段差での感じから、ボディ剛性とサスペンション取り付け部の剛性が高まり、ダンパーの減衰力はかなり低め、スプリングはやや硬めといった印象を受ける。多少揺れが残るが、あたりの強さはZ34最終モデルより柔らかく、乗り心地はかなり向上している。走り出して初めて加速する際でもアクセルワークに気を遣わない。
面白いのはまるでマニュアル車をクラッチミートするかのような感覚で走り出すことだ。このスポーツカーに適した秀逸なチューニングには驚いた。一方で少し走っただけで気になったのはタイヤのパターンノイズだ。Z34から静粛性は向上し、タイヤノイズは確かに多少は静かになっているが、もうひと頑張りしてほしい。最初の交差点で止まる際のブレーキはソリッド感があり、カッチリしている。とても頼もしいブレーキフィールだ。
信号が変わり、交差点をゆっくり右折する。右ドアミラーによる死角が大きいのはZ34の時から気になっているが変わりない。シートを高めに調整して乗るしかないが、街中では歩行者や自転車などに注意が必要だ。交差点を曲がり終えて、加速はとてもスムーズで気持ち良い。9速もあるオートマチックだが、7、8、9速は高速道路で燃費を稼ぐためのギヤのため、街中メインの今回の試乗コースでは入ることはなかった。
まるでNAエンジンのような自然なトルクの盛り上がり
1速から6速を小気味よくシフトアップしながらスムーズに加速していく感じは、運転の上手い人のマニュアル車に乗っているような感覚で、適度な節度感があり、緩やかな加速でも楽しさを感じられた。加速感はいかにも3.0ℓターボという感じのものではなく、3.5ℓ以上のNAエンジンのような自然な中回転トルク特性のフィーリングだ。
左カーブの直角コーナーを少し速めのスピードで進入、軽くブレーキングして、ステアリングをスッと切り込むとノーズが軽く、素直に向きを変える。この辺り、Z34最終型ではステアリングが重めで、少しフロントタイヤに無理がかかっているような感じがあったが、新型RZ34は軽快に追従し、そこから加速時にステアリングを戻していく際の感覚がリニアでイメージ通りかつ、スッキリとしたフィーリングで気持ちが良い。ゆっくり走っても「いいクルマに乗っている感」があり、とても気に入った。
スポーツモードではレスポンスが向上、マニュアルモードではパドルシフトで自分の意思でシフトチェンジも可能だが、今回の試乗コースでは、そのメリットを存分に活かせるような場所はなかった。もちろん、いざとなればターボブーストを効かせた400PSオーバーの加速で流れをリードできる力を秘めている。トンネル内の安全なところで少しだけ深くアクセルを踏み込み、高回転域までターボブーストのかかった加速を試したが、エンジンサウンド、フィーリング共に切れ味鋭く、爽快なフィーリングでとても気持ちが良かった。
乗り心地の良さと日常領域での気持ち良さ
多くの人はスポーツカーだからといって、常にサーキットを走ったり、街中を飛ばして、他車を追い抜くような走りはしない。街中をゆっくり流して、大切な人との移動の時間と会話を楽しむためにZに乗る人が大多数だろう。ビジネスシーンで毎日、街中を乗る、あるいはデートカーとして、郊外への移動の足として乗るといった「大人のスポーツカー」として、今度の新型フェアレディZ(RZ34)を欲しいと感じている人たちにとって、この乗り心地良さと落ち着いたしなやかな走り、日常領域での気持ち良さは、かなり魅力的だ。
この価格帯でこれほど日常の気分を上げてくれて、毎日を幸せにしてくれそうなスポーツカーは滅多に出るものではない。今回の新型RZ34は新しいエンジンと大幅なデザイン変更によって、見事にイメージチェンジに成功したが、この走りとデザインの作り込みは、最後の純粋なガソリンエンジン搭載のフェアレディZに対する日産の執念すら感じる。
誤解を恐れずに言えば、RZ34の走りはこれまでのZ34の延長線上にあり、決して全く異なるクルマになったという印象ではない。すでに完成の域にあった最終型Z34の走りをさらに熟成させ、魅力を加えた走りのイメージだ。
日産6気筒伝統の血を受け継ぐ、日産らしいV6 3000ccDOHCターボに、重量配分に優れたFRレイアウト、機械式LSDの標準装備(バージョンS、バージョンST)、そしてS30を彷彿とさせる美しい内外装のデザイン。これだけ揃っていれば、発売前から受注停止となるほど人気が出るのは当然だと、今回の試乗で再確認した。新型Zが街を走り出せば、人気はさらに高まることだろう。
「テストドライブ」での試乗は無料で、専用Webサイトで試乗予約すれば、35歳以上の普通免許所持者であれば誰でも試乗可能だ。今は大人気で、2週間先の予約が午前0時より開始されるとすぐに埋まってしまう状況だが、キャンセルもあるようなので、こまめにチェックしてみることをおすすめしたい。