新型プリウスのメカニズムに注目してみたら…

新型プリウス、現状のメカニズム考察から見えてきた、その行く末とは?

2022年11月16日 (日本時間)にワールドプレミアされたトヨタの新型プリウス。そのメカニズム的特徴の、現時点で公表されている部分を整理しておこう。

『第5世代』パワートレインは2系統3機

ワールドプレミアされた新型プリウス。まだ公式発表されている部分は限定的だが、『燃費ベスト』を目指しているわけではないという。それではいったい…?

2022年11月16日 (日本時間)にワールドプレミアされた、5代目を数える新型プリウスには『第5世代』と呼ばれる最新のパワートレインが採用されることが発表されている。まずはここから見ていこう。このパワートレインは次の2系統3機種が用意されている。

1:プラグインハイブリッドシステム(PHV)
 2023年春に発売予定(M20A-FXE型・直列4気筒?)
2:シリーズパラレルハイブリッドシステム(HV)
 2022年冬に発売予定
 a:2.0ℓエンジン版(M20A-FXE型・直列4気筒?)
 b:1.8ℓエンジン版(2ZR-FXE型・直列4気筒?)
*これに加え、PHV、HV2機種それぞれに電気式4WDシステム『E-Four』搭載の4WD車が用意される予定。
新型プリウスのプラグインハイブリッドシステム(PHV)。従来型を上回る圧倒的な加速性能と静粛性を実現しているという。エンジンは2.0ℓ。EV走行距離を延長し、日常生活の大部分をEV走行でカバー可能。
従来のPHVシステム。バッテリー搭載位置が高く、新型と比べるとあからさまに大きい。

まずプラグインハイブリッド(以下、PHVと略。システムの略語として使用)システムから見ていくと、従来のプリウスPHV(車名)では1.8ℓの2ZR-FXE型・直列4気筒を使用していたが、今回は2.0ℓへとエンジン排気量が拡大している。正式な発表はないが、おそらくM20A型・直列4気筒の系統だろう(おそらくM20A-FXE型)。システム最高出力も164kW(223ps)と大幅に向上、0-100km/h加速は6.7秒とスポーツカーなみだ。それでいてEV走行距離は、先に販売されたRAV4 PHVに使用されている新型のリチウムイオン電池セルを採用して電池容量が増えたため(先代のプリウスPHV比で約2倍という)、50%以上の向上を果たしたという。先代のEV走行距離が60kmだから、その50%増しで90km。おそらく100km以上のEV走行距離が見込まれているのではないかと思われる。なお、PHVには充電中にパワースイッチをONにすると、外部電源の電力を利用してエアコンやオーディオの使用が可能となる“マイルームモード”が設定され、停車中でも車内の装備を使って快適に過ごすことができる。これは今回の新型、あるいはプリウス向け機能というわけではなく、今後のトヨタのPHV車のスタンダードとなっていく機能なのだろう。

新型プリウスのシリーズパラレルハイブリッドシステム(HV)。2.0ℓエンジン版と1.8ℓエンジン版があり、2.0ℓ番は“走り”の楽しさを追求した仕様になると言われている。従来型比で約1.6倍の高出力となっている。

他方、シリーズパラレルハイブリッド(以下、HVと略。システムの略語として使用)システムも「約1.6倍の高出力を実現しつつ、従来型同等レベルの低燃費を両立」とアピールされている。燃費性能については今回公開された車両があくまでプロトタイプであるため燃費値は公表されていないが、2.0ℓエンジン版ではシステム最高出力が従来型比約1.6倍の144kW(193ps)、0-100km/h加速が7.5秒となっており、1.8ℓエンジン版もシステム最高出力103kW(140ps)、0-100km/h加速9.3秒と従来型よりアップしている。

さて、このHVの2仕様だが、どうやら2022年1月に発売された新型ミニバン、R90W型の4代目ノア/ヴォクシーに搭載されてデビューした『新世代ハイブリッドシステム』と基本的には同じもののようだ。だとすれば、HVの2.0ℓエンジンは“ダイナミックフォースエンジン”M20A-FKS型のハイブリッド車専用仕様であるM20A-FXE型、1.8ℓエンジンは2ZR-FXE型だろう。なお、PHVとHVの2.0ℓエンジン版とでは、同じ2.0ℓエンジンながらシステム適合性の観点から出力が若干異なっているとのことだ。

『新世代ハイブリッドシステム』はまた、すべての電動モジュールが従来型から刷新されており、モーターおよびバッテリーの高出力化とシステムの高効率化が進められている。モーターは交流同期式の1VM型だろう。また、電気式4WDシステム『E-Four』も同様とすれば、モーター出力向上により4WD作動領域や後輪へのトルク配分が拡大されており、コーナリング中の前後輪トルク配分を最適に制御し、操縦安定性が高められているほか、後輪のトルクを上げたことで、降雪時や雨天時における登坂発進時の安心感も向上 しているものとなっているはずだ。モーターは同じく交流同期式の1WM型と思われる。なお、モーターはPHVとHVでは基本設計は同じだが、ローターの磁石のレイアウトが変更されるなど最適化がはかられているという。

『第2世代TNGAプラットフォーム』と高剛性&空力ボディ

『第2世代TNGAプラットフォーム』と高剛性ボディ。TNGAプラットフォームと高度な結合技術を組み合わせて、さらなる高剛性ボディを実現。優れた操縦安定性と乗り心地を両立したという。

パワートレイン以外で明らかにされているメカニズム的な特徴としては、プラットフォームが低重心化とサスペンション設計自由度の向上がはかられている『第2世代TNGAプラットフォーム』へと進化している点。いわゆる『TNGAプラットフォーム』の乗用車用のもの(電気自動車専用を除く)には現状、小型Bセグメント車用の『GA-B』、その上のサイズの『GA-C』(ナロー版とワイド版の2仕様あり)、中型車用の『GA-K』、ラグジュアリー車用の『GA-L』(こちらもナロー版とワイド版の2仕様あり)、フルサイズ車用の『GA-F』の5種類があり、従来のプリウスは『GA-C』を使用していた。まだ新型プラットフォームのこれ以上の具体的な効能は明らかではないが、おそらく『GA-C』のエボリューションモデル的性格のものだろう。『第2世代TNGAプラットフォーム』は、より高剛性化がはかられたボディとあわせ、優れた操縦安定性と乗り心地を実現しているという。

新型プリウスの床下にはあえて段差が設けられ、空気の流れを与えることでスムーズに流し、優れた接地性を実現させる『エアロスタビライジングアンダーボデーステップ』が採用されている。

ボディは高剛性化のみならず空力性能も向上させており、全高を下げたことでスタイリッシュなデザイン性と空力性能との両立に成功したという。空気の乱れが少なく滑らかに流れる形状のフロント、あるいはエアスパッツやフロアカバーなどの形状が最適化された床下から、ゆるやかな絞り形状で流れがスムーズに収束するリヤに至るまで、車体まわりの風を巧みに受け流すことで、燃費向上と優れた操縦安定性を実現している。さらに床下にあえて段差を設けてゴルフボールのディンプルのように空気の流れを与え、優れた接地性を実現する『エアロスタビライジングアンダーボデーステップ』を採用。また、一時期話題となった、走行中に発生する静電気が車両の挙動を乱す悪影響を抑制するため、運転席の一部に除電機能を追加した『除電スタビライジングプラスシート』も採用。これによって安定して疲れにくく快適なドライブに寄与するという。

フロントサスペンションはマクファーソンストラット式。
リヤサスペンションはダブルウィッシュボーン式。

サスペンションはフロントがストラット、リヤがダブルウィッシュボーンと従来同様の形式を踏襲しているが、プラットフォームの進化でサスペンションの設計自由度が向上したため、ドライバーの意図に応じた車両応答性やライントレースのしやすさが一段と追求され、優れた乗り心地と静粛性が実現されたとしている。

こうして新型プリウスの現在までに発表されている技術情報を振り返ると、もはやトヨタにとってのHVは、「すでに広範に使用されてノウハウも固まり、不具合も出し尽くして安定して使える技術」 いわゆる『枯れた技術』となっていることがわかる。これはPHVも同様で、もはやトヨタにとって手の内の技術であることは、従来のようにあえてプリウスPHVという別車種を設けてデザインまで変えるという特別扱いをやめていることからもわかる。

運転席の一部に除電機能を追加した『除電スタビライジングプラスシート』を採用。走行中に発生した静電気が車両の挙動を乱す悪影響を抑制する。

デビュー以来、技術実験車的な性格も持たされてきたプリウスは、『燃費ベスト』の追求が宿命とされてきたきらいがあるが、もはや世の中がEVシフトを騒ぎ立てる中では『燃費ベスト』は訴求力になりにくくなってきている。何しろ『燃費ベスト』をうたうなら、トヨタにはもうアクアがある。あるいは普及車ならヤリスやカローラがある。トータルコストのベストなら同グループのダイハツの軽自動車がある。新型プリウスは19インチの大径タイヤを採用したのも話題だが、大径化は『燃費ベスト』の実現にかなうものの、それは狭幅化とセットで抵抗の減少という目的が無ければ不自然だ。そのセレクトは、あくまでも「カッコよさが基準」だとしている。では新型プリウス以後のプリウスは、いったい何を目指しているのか?

ここで想起されるのが、かつて「未来から来た自動車」をキャッチフレーズに斬新なデザインを引っ提げてデビューし、やはりデザインや技術の実験車的な性格を担わされていたセリカというクルマだ。クーペでデビューしてハッチバックに移行していったセリカの姿が、「21世紀に間に合いました」というキャッチフレーズをもってセダンとしてデビューし、ハッチバックへと移行したプリウスの姿がなんとなくオーバーラップしてくる。まったくの暴論を承知で言えば、「もはやHVが日常化した世界で、プリウスからHVを取ったら何が残るのか?」を考えた末の結論が、セリカと同じ“スペシャルティカー”――セリカでは“スペシャリティ”ではなく“スペシャルティ”と表記した――路線ではないだろうか? 今回の新型プリウスががむしゃらな『燃費ベスト』を捨てて“走り”や“快適性”、“爽快感”あるいは“カッコよさ”といった方向性にキャラクターを振ってきたのは、ひとえに“スペシャルティカー・プリウス”という新章のスタートなのかもしれない。

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