【海外技術情報】アウディ:V6ディーゼルエンジンの多くが持続可能な燃料である再生可能燃料を利用できる

A lot of current Audi models with V6 diesel engines up to 210 kW (286 hp) have been approved for HVO fuel.
アウディはVWグループの一員として、カーボンニュートラルなモビリティのビジョンを追求している。そして2050年までに気候ニュートラルを達成しようとしている。その中心となるのはEVであるが同時に、燃焼エンジンの環境持続可能性も高めている。そして既に現在、再生可能燃料HVO(水素化処理植物油)を使用できる6気筒ディーゼルエンジンをラインナップしている。
TEXT:川島礼二郎(KAWASHIMA Reijiro)

アウディのチーフディベロップメントオフィサーであるオリバー・ホフマン氏は以下のように述べた。

「当社の『Vorsprung 2030』(筆者注;アウディが2021年8月に発表した企業戦略)では、2026年にはグローバルで発売するすべてのニューモデルをEVにする、という目標を発表しました。こうして当社はカーボンニュートラルなモビリティへの道に不可欠な貢献をしています。それと同時に、既存の燃焼エンジンポートフォリオを最適化して効率を高め、CO2排出量を低減することにも取り組んでいます。それを実現する一つの方法は、HVO(Hydrotreated Vegetable Oil;水素化処理植物油)などの持続可能燃料の使用に必要となる技術的基盤の確立です。それは短期的にだけでなく、2033年以降においても効果的であるはずです」

2月中旬に同社工場から出荷された210kW(286PS)までのV6ディーゼルエンジンを搭載した新型車は、欧州規格EN 15940に準拠したHVO燃料を利用できる。水素化処理植物油は一般的なディーゼル燃料と比較して70〜95パーセントのCO2削減を可能にする持続可能な燃料である。HVOのもう一つの利点は、セタン価が大幅に高いことである。従来のディーゼル燃料と比較して、より効率的でクリーンな燃焼が可能であることを意味する。V-TFSI、TDI、およびPHEVパワートレイン開発責任者であるマティアス・ショーバー氏は以下のように述べた。

「HVOはセタン価が約30%高いため、エンジンの可燃性が向上します。その効果は、コールドスタート時に特に顕著です。当社では、さまざまなコンポーネント、パフォーマンス、および排気ガスへの影響をテストしました。もちろんそれらは承認を与える前に実行されました」

HVOの原料となるのは生物学的残留物・廃棄物

HVOの製造には、食品産業から出る使用済の食用油や農業からの残留物といった、これまで廃棄されていた残留物や廃棄物が使用される。水素を組み込む(水素化する)ことにより、油は脂肪族炭化水素に変換される。これにより植物油の特性が変わり、ディーゼルエンジンでの使用に適した性質となる。それらは化石成分の代わりに従来のディーゼルに添加するか、または100%純粋な燃料として混合せずに使用することもできる。

HVOはBTL(バイオマス液体)燃料である。BTLだけでなく、GTL(ガス・トゥ・リキッド)やPTL(パワー・トゥ・リキッド)など、合成ディーゼル燃料の製造方法は他にもある。後者は再生可能電力、水、大気中のCO2から持続可能な方法を用いて得ることができる。EN 15940に準拠するこれら燃料はXTL(X-to-liquid)と呼ばれ、Xは元のコンポーネントを表す。これら燃料の使用が承認されたアウディ車両には、燃料タンクキャップにXTLステッカーが貼られている。

多数のモデルのHVO承認

2022年2月中旬以降に製造されたA4、A5、A6、A7、A8、Q7、それにQ8の210 kW(286 PS)までの出力を持つすべてのV6ディーゼルエンジンは、HVO燃料を使用できる。また2021年6月以降に製造されたA3、Q2、それにQ3の4気筒ディーゼルエンジンについてもヨーロッパで承認されている。モジュラー縦型プラットフォームに基づくモデルでは、A4 R4TDI 、A5、A6、A7、それにQ5シリーズは、スウェーデン、デンマーク、イタリアで2021年半ば以降よりHVO対応になった(これらの国は市場の需要が大きかった)。

HVOディーゼルはヨーロッパの600以上のガソリンスタンドで利用可能である。それらのほとんどは、環境要件が特に厳しいスカンジナビアに存在している。ドイツでは現在、HVOを提供しているガソリンスタンドはわずかであるが、増加傾向にある。残念ながらドイツにおいては、燃料規格EN 15940が国内燃料品質規制に組み込まれていないのが、その理由である。

内燃機関と再生可能燃料(reFuels)の互換性

ヴェルルテ発電所を含む様々なパイロットプロジェクトにおいて、アウディはVWグループで利用される持続可能燃料の製造に関する貴重な経験を得た。これらの経験は持続可能なエネルギーシステムの概念を開発するための重要な基盤である。VWグループは、石油メーカーやその他エネルギー供給業者と協力しており、既存のエンジンとreFuelsの互換性を確保するための技術的専門知識を提供している。

2021年3月以降、インゴルシュタットとネッカーズルムのアウディ工場のガソリンスタンドにおいて、環境に優しいR33ブルーディーゼルを利用できるようになった。このディーゼルは残留物と廃棄物のみに基づいており、最大で33%の再生可能成分を含んでいる。R33には二つの大きなメリットがある。一つはCO2を削減できること。ウェル・トゥ・ウィールの分析では、化石ディーゼルと比較して少なくとも20%の排出量を削減できる。もう一つは、特別な添加剤を通して摩耗と耐用年数にプラスの効果をもたらすことができる、という点にある(プレミアム燃料)。

R33ブルーディーゼルは現在最も普及している基準であるEN 590を満たしており、すべてのディーゼル車、さらには古いモデルでも、その使用が認定されている。アウディとVWのプラント給油所に加えて、幾つかのガソリンスタンドで利用可能である。ただしドイツにおいては、バイオディーゼル含有量が最大7%の化石ディーゼル燃料が依然として標準となっている。この燃料はガソリンスタンドでは記号B7で示されている。間もなくR33ブルーガソリンはガソリンエンジンにも使用できるようになる。R33ブルーディーゼルに相当するガソリンである。

アウディとVWグループでは、再生可能な合成燃料を利用できる燃焼エンジンをさらに承認する計画であり、これにより脱化石化に貢献して行く。

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著者プロフィール

川島礼二郎 近影

川島礼二郎

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系…