内燃機関超基礎講座 | 星型エンジン、その複雑で精緻な構造

レシプロエンジンの頂点、星型機関。OHVを基本とし、奇数気筒でないと成立しない。クランクシャフトの動きはまるで生き物のよう。この不思議なエンジンの構造を眺めてみる。
PHOTO:瀬谷正弘(SEYA Masahiro)

 星型(ラジアル)エンジンは、コネクティングロッド(以下、コンロッドと記す)とクランクシャフトの結合方式が特殊なだけで、吸気、圧縮、膨張、排気の行程から成る4ストロークサイクルエンジンであり、この点は他の形式のエンジンと変わらない。ご存知のように4行程の間にピストンは2往復、クランクシャフトは2回転し、クランクシャフトが2回転する間の膨張行程は1回しかない。

 さて、星型エンジンはマスター(主)コンロッドとサブ(副)コンロッド(あるいはマスターコンロッドとスレイブコンロッド)の2種類のコンロッドを持つ(写真A/写真B)。大きなマスターコンロッド大端(ビッグエンド)部の円周上に等間隔に開けられた孔にリストピンを挿入し、これにサブコンロッドが接続される(写真C)。

写真下にあるのがマスターコンロッド、上がサブコンロッド。マスターコンロッドのビッグエンド(大端)部にサブコンロッド接続用の8個の孔が開いているのがわかる。
ライトR3350は9気筒複列の18気筒。従ってマスターコンロッドが2本、サブコンロッドが16本並べられている。右はクランクシャフト。
マスターコンロッドのビッグエンド部に接続された8本のサブコンロッド。

 写真のカーチス・ライト社製R3350(二重18気筒)エンジンは1列あたり9気筒なので、マスターコンロッド大端部の孔は写真でもわかるように8個あり、ここにそれぞれ1本ずつ、計8本のサブコンロッドが接続される。サブコンロッドが接続されたマスターコンロッド大端部の円周に着目すると、この円周から主・副あわせて9本のコンロッドが放射状(=ラジアル)に突き出すというわけだ(写真D)。

コンロッドは放射状(ラジアル)に展開される。下図もあわせてご覧いただきたい。
カーチス・ライトR3350(通称:デュプレックス・サイクロン)エンジンは航空機用レシプロエンジンとしては最大級の出力を誇る星型多重エンジンだ。第二次大戦中はボーイングB-29爆撃機のエンジンとして用いられ、戦後は大型旅客機にも採用された。

 コンロッドの先にはピストンが接続され、それが気筒(シリンダー)におさまるという構造は他のエンジンと同じなので、星型エンジンの気筒もまた放射状に並ぶことになる。この構成はちょうど時計のように見えるから、点火順序とその間隔は、V型エンジンよりも視覚的に理解しやすいかもしれない。

 ここでは仮に真上、時計でいう0時の方向に来る、マスターコンロッドに接続されたピストンの入る気筒を1番とし、時計周りに2、3、4…と9まで番号を振ってみる(下図)。

 1番のピストンが上死点に達した後、次に上死点に達するのは右隣の2番ではなく3番となる。隣り合う気筒が順番に点火してしまうとクランクシャフトの1回転ですべての気筒が燃焼してしまうため、クランクシャフトが2回転する間の膨張行程は1回という4ストロークエンジンの原則に反してしまうからだ。そこで図の9気筒エンジンの場合は1→3→5→7→9→2→4→6→8の順序、つまり、気筒ひとつおきに点火することになる。それゆえ星型エンジンの1列あたりの気筒数は奇数となる。

 たとえばリノエアレースで使用されるようなエアレーサーの星型エンジンは基本的には複列式のため、点火順序は2列目の気筒も加えた複雑なものとなるが、ひとつおきに燃焼するという基本は変わらない。

注:本来は吸気用/排気用それぞれ1個ずつ別々にリングカムがある。

 星型エンジンは基本的にはOHV(オーバーヘッドバルブ)方式であり、カムは等加速度曲線を採用したリング状板カム(等加速度リングカム)で、1列あたり吸気バルブ用と排気バルブ用のものが各1個ある。各カムは90度位相で4つのカム山を持つ。ひとつの気筒の側面には吸気バルブ用と排気バルブ用プッシュロッドが各1本ずつあり、クランクシャフトとは逆方向に回転するカムのカム山がプッシュロッド下端を押し上げるとバルブを開放するという仕組みだ(上図)。

 尚、本解説執筆にあたっては昭和18年(1943年)5月発行の『航空発動機入門』(関義茂著/明治書院刊・絶版)を参考にさせていただいたが、現在では航空機用レシプロエンジンの基礎理解は、このような古書にあたらざるを得ない「技術」である。

短いクランクシャフトは星型エンジンのメリットのひとつでもある。クランクシャフトが長くなる直列やV型エンジンよりも、シャフト剛性確保の問題はシビアではなくなる。
裏側からシリンダーを見る。燃焼室形状やバルブ位置、プラグ位置がわかる。

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