BEV関連と並行して進む「水素シフト」水素エンジン、燃料電池の可能性 『人とくるまのテクノロジー展2022』

電気自動車(BEV)か水素の存在感を増していくのか。『人とくるまのテクノロジー展2022 YOKOHAMA』

FEV Breeze Fuel Cell 固体高分子型燃料電池で出力は30kW。
『人とくるまのテクノロジー展2022 YOKOHAMA』が5月25日〜27日にパシフィコ横浜で開催された。来場を誘うリーフレットには「その先のテクノロジーが見える 将来の車社会を展望する技術展」とあるが、そのとおりというのが筆者の印象。2020年、2021年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止されたため、リアルな開催は3年ぶりとなった。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

じつは「水素」に関わる技術開発が熱い

英国パビリオン

4月末に行なわれたウイーン・モーター・シンポジウムの講演プログラムを見渡して「水素関連(燃料電池、水素エンジン)が多いな」との印象を抱いていたので、そっちに意識が向かっていたのかもしれない。例年、会場の北の端にある英国パビリオンから見学するのをならわしとしているが、最初に目に飛び込んできたのがインテリジェント・エナジーの100kW燃料電池システムだった(バス、トラック、貨物取扱、海洋、鉄道、建設、定置型エネルギー向け。「ワンボックス」モジュール式デザイン)。

インテリジェント・エナジー(Intelligent Energy)社の「IE-DRIVE」。燃料電池はバス・トラック向けに設計されているが、定置型にも応用できるという。IE-Drive HDの出力は100kW、重量は270kg、容積は460ℓだ。

水素に意識が傾いていたので、「やっぱり」と確信した次第。量産燃料電池車を発売した実績、あるいは発売中のホンダやトヨタのブースに燃料電池車や、燃料電池関連の展示物があるのは当然として(ホンダのブースには、GMとの共同開発による次世代燃料電池システムが展示してあった)、豊田合成には高圧水素タンクが展示してあって炭素繊維やガラス繊維などの解説がなされていたし、ジェイテクトには高圧水素タンクに取り付ける高圧水素バルブや減圧弁が展示してあった。

フォルシアは「小型商用車(ワゴン車)向け水素貯蔵システム」として、70MPaの高圧水素タンク(容量42L)を展示。ボルグワーナーには、燃料電池に空気を送り込むコンプレッサー(Fuel Cell Air Supply Compressor)が展示してあった。

ボルグワーナー

ボルグワーナーの燃料電池用コンプレッサー。ターボチャージャーの技術が活きる領域だ。

豊田合成

ジェイテクト

ホンダ

フォレシア

水素と絡んで電動化技術の開発の幅は広がっている

OEMもサプライヤーも燃料電池や水素エンジンに特化した技術に展示物を絞っていたわけではない。モーターと何かを組み合わせたり、バッテリーに関連したりする電動化技術は、今回の『人テク展』のいっぽうの花形ではあった。シェフラーも同様。電動アクスルなど、電動化に関するソリューション技術を展示するいっぽうで、数ある技術のひとつとして燃料電池スタックを展示していた。燃料電池のセルにはスチールを使う。そこに、「ベアリングなど、自動車エンジン部品で培ってきた技術を生かせる」と説明する。

電動化が大きな流れになっているのは衆目の一致するところだ。だから当然、競争相手は多いし、少ないパイを奪い合う状況になりかねない。専門性の高いサプライヤーもあるため、後発でビジネスチャンスをつかむのは難しい。別の鉱脈として脚光を浴びつつあるのが、水素関連ということだろう。エンジニアリング企業の技術戦略に「選択と集中」はありえず、電動化と水素の両面で技術提案を進めている。FEVには水素エンジンと燃料電池ユニットが、IAVには水素エンジンが展示されていた。

FEV

IAV

電気自動車(BEV)に収斂(しゅうれん)していくのか、水素が存在感を増していくのか。カーボンニュートラルへの取り組みが続くにしても、どのパスがメインになっていくのかはOEMやサプライヤーの力では決められない。国や地域のエネルギー政策が絡んでくるし、貿易政策にも左右される。水素エンジンの展望に関しては、ある説明員が次のように話してくれた。

「(カーボンニュートラル燃料の)e-fuelは、これまでのガソリンエンジンと同等の排ガス処理装置が要ります。EUが次の排ガス規制を厳しくした瞬間に締め出されるリスクがある。水素エンジンの場合、基本的にはNOxしか出しません。NOxはこれまでのディーゼルの後処理装置で対応が可能。大型トラックの電動化を発表しているOEMがありますが、実質走行200kmごとに30分以上の充電が必要になる。そう考えると、水素エンジンは乗用車よりも大型トラックにとっての技術解になる可能性があります」

FEV

『人テク展』と同期間にパシフィコ横浜で開催された『自動車技術会2022年春季大会』では、本田技術研究所が「大型EVトラック向け450kWダイナミックチャージシステムの開発」、日本自動車研究所と本田技術研究所が「450kW走行中充電インフラの高速道路への適用方法の研究」のタイトルで講演を行なった。ダイナミックチャージとは、走行中に道路側のインフラから直接給電と充電を行なうシステムだ。これが実用化されれば、電池搭載と航続距離の問題は解決される。

となると、やはり電気か。いやいや、どっちに転ぶかは誰にもわからない。どこに向かうにしても、いま持っている技術と、将来的に生き残る技術をつなぐ技術が存在するはず。特定の技術に的を絞る段階ではないが、水素が選択肢のひとつである可能性は高い。主催者企画展示はカーボンニュートラルへの道を「創・蓄・使」の観点で捉えた内容となっており、「蓄」のゾーンでは、海外にある未利用資源(例えば、オーストラリアの褐炭)を用いて水素を製造し、日本に輸送する水素サプライチェーンを構築する取り組みなどについての紹介が行なわれていた。水素を取り巻く動きは活発だ。

日本大学理工学部飯島研究室

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…