フォーミュラEという舞台で電動技術の先鋭化と高効率化を図る[ZFとモータースポーツ]

シーズン8・第6戦:モナコのマヒンドラ・レーシング・M7Electro。(PHOTO:ZF)
ZF(ゼット・エフ)は、ドイツ・フリードリヒスハーフェンに本社を置く自動車関連製品のグローバルサプライヤーだ。オートマチック・トランスミッション(AT)やダンパー、フロントおよびリヤの操舵システムなどの開発・生産で実績を積み上げてきた。近年は世の中の動向を先取りする格好で電動系やAD/ADAS系コンポーネントの開発に積極的だ。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)

 そのZFは、2016年からフォーミュラEに参戦するチームと提携する形で技術を提供している。フォーミュラEは電気自動車(EV)で行なうレースシリーズで、世界各地の市街地特設コースを転戦する。2014年に始まった新しいシリーズで、F1(フォーミュラ・ワン世界選手権)やWEC(世界耐久選手権)、WRC(世界ラリー選手権)と同様、FIA(世界自動車連盟)が統括する。2021年のシーズン7からは世界選手権(World Championship)の格式が与えられ、F1やWEC、WRCと同格になった。世界四大世界選手権のひとつがフォーミュラEというわけだ。

 2014/2015年に行なわれたシーズン1は初めてのシーズンだったこともあり、参戦全チーム全車が共通のシャシーを使用して戦った。4本のタイヤがボディワークに覆われておらず露出した”フォーミュラ“の形態を持つ車両ミッドに、使用可能エネルギーが28kWhに規定されたリチウムイオンバッテリーを搭載(当時。以下同)。後輪を駆動するモーターの最高出力は200kWだった。

シーズン1のフォーミュラEマシンの例:Abt Sportsline。(PHOTO:Audi)* 一部をトリミング

 フリー走行と予選は200kWの出力をフルに引き出すことができたが、レースでは180kWに制限。80-90kmに距離が設定されたレースの途中で、充電済みの車両に乗り換えるルールだった。フォーミュラEは量産EVやハイブリッド車と同様、減速時に回生を行ない、走行中の車両が持つ運動エネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリーに蓄えることが可能。それでも、常に全開で走ったのではエネルギーが不足するため、緻密なエネルギーマネジメントが求められた。

 2015/2016年のシーズン2からは、モーター、インバーター、ギヤボックスで構成される電動パワートレーンの独自開発が認められることになった。参戦するチームは独自に開発してもいいし、別のチームが開発したチームから供給を受けてもいい。また、サスペンションを構成するダンパーとスプリングもチームの判断で選択することが可能になった。

シーズン3のヴェンチュリー・フォーミュラEチーム。(PHOTO:ZF)

 ZFは2016/2017年のシーズン3から、モナコに拠点を置くヴェンチュリー・フォーミュラEチームとパートナーシップを組み、サスペンション・システム技術やコンポーネント(ダンパー)、シミュレーションやテストに関する技術的なサポートの提供を始めた。さらに、2017/2018年のシーズン4からは得意のギヤボックスを新開発し、チームに提供。

 2018/2019年のシーズン5では第2世代を意味するGen2シャシーが導入された。最大の変更点はバッテリーで、ユーザブルエナジーが28kWhから54kWhへとほぼ倍増した。この変更により、レース中の乗り換えがなくなり、45分+1周に規定されたレース距離を走りきれるようになった。ZFはGen2シャシー向けにダンパー、ギヤボックスに加え、モーターとインバーターを供給した。言い換えれば電動パワートレーンとダンパーで、このシーズンからヴェンチュリーに加え、新規参戦したHWA(ドイツ)にも電動パワートレーンを供給した(供給元はヴェンチュリー)。

シーズン5のヴェンチュリー・フォーミュラEチームのマシン:VFE05。(ILLUST:ZF)

「ZFは乗用車や商用車向けの電動化を可能にするコンポーネントやシステムを開発しています」と、フォーミュラE向け電動パワートレーンの開発を担当する技術者は当時、説明した。

「ZFがフォーミュラEに参戦する理由はふたつあります。ひとつは、レースでの活躍を通じてEモビリティの領域で高い技術力を持っていることを示し、ZFブランドの価値を高めること。もうひとつは、フォーミュラEへの参戦を通じて得たノウハウを量産部門の技術にフィードバックすることです」

 モータースポーツでは短期間で成果が求められる。量産分野のシステムやコンポーネントに比べて開発期間は短く、製作に費やすことのできるリードタイムは短い。そのため、プロトタイプの製作やテストを短期間に済ませる必要がある。軽くて効率の高いコンポーネントを開発する技術力も必要だが、短期間に検証して問題を洗い出し、完成度を高めてシーズンに間に合わせる必要がある。耐久性の確保は不可欠だが、余裕を見すぎれば重量増につながるため、ギリギリを攻める見極めも必要だ。

 シーズン5の第5戦香港で、ZFの電動パワートレーンとダンパーを搭載するヴェンチュリー・フォーミュラEチームの車両はE・モルタラのドライブにより、チームとZFに初優勝をもたらした。

シーズン5の第5戦・香港におけるVFE05。ドライバーはエドアルド・モルタラ。(PHOTO:VENTURI RACING)

 ZFは2019年、ヴェンチュリー・フォーミュラEとの技術提携を終了し、新たにマヒンドラ・レーシングチーム(インド)のオフィシャル・パワートレーン・パートナーになった。この年の11月から始まった2019/2020年のシーズン6に向けて、ZFは専用の電動パワートレーン(モーター、インバーター、ギヤボックス)を開発。特別に設計したダンパーとエンジニアリングサービスの提供を開始した。

シーズン6:マヒンドラ・レーシングのM6Electro。(PHOTO:ZF)
ZFが開発したフォーミュラE・シーズン5用のパワートレーン。モーターとトランスミッションを組み合わせるとともに、パワーエレクトロニクスを統合、高出力でコンパクトなユニットとした。(PHOTO:ZF)

 フォーミュラEは2023年のシーズン9から第3世代にあたるGen3車両を投入する予定。Gen2車両がリヤに搭載していたモーターの最高出力は250kW(レース通常時は220kW)だったが、Gen3では350kWに引き上げられる。さらに、フロントにも回生専用のモーターが搭載され、前後合わせて600kWの回生側最高出力を発生。強力な回生パワーを手に入れることから、リヤの油圧(摩擦)ブレーキは廃止される。

 ZFは格段にパワフルになるGen3車両の電動パワートレーンを開発し、マヒンドラに供給する。これまでの経験を生かした専門知識が、惜しみなく投入されるはずだ。

著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…