マツダCX-60の「動く脚、動かない脚」を体験:サスペンションウォッチングチーム@御殿場試乗会

話題沸騰のマツダCX-60。縦置きアーキテクチャーや直列6気筒に注目が集まるところ、試乗会にはサスペンションチームで参加。さまざまな走行シーンにおける振る舞いを試し、その感想をエンジニアにぶつけてみた。
TEXT:安藤眞(MakotoANDO) FIGURE:MazdaPHOTO:MFi

モーターファン・イラストレーテッド vol.192より一部転載

マツダの“ラージ商品群”第一弾、CX-60の売れ筋モデル“X DHYBRID”に公道試乗する機会をいただいた。2台の試乗車は、いずれも3.3L直6ディーゼルエンジンと48Vモーター、トルクコンバーターレス8速ATを組み合わせたパラレル式ハイブリッドシステムを搭載する。

1台目は、最上級の“Premium Modern”グレード。“自動ドライビングポジションガイド”という新システムが標準装備されている。ドライバーモニタリングシステムのカメラでドライバーの目の位置を検出し、コマンドダイヤルを操作して身長を入力すると、シートとステアリングの位置をベストポジションに調整してくれる……はずなのだが、基準とする体系が手足の長い欧米人なのか、シートスライドを50mmほど前に出す必要があった。

エンジンを始動すると、アイドリングの静かさと滑らかさにまず驚く。完全バランスの直6とはいえ、振動はまったく伝わってこない。冷機始動なのに、燃焼音も静かだ。

走り出しは、至って穏やか。最大トルクが550Nmもあるエンジンとは思えない。ターボラグも、ほぼ「無い」と言って良い。モーターアシストをうまく使っているのだろうが、交差点を左折し終わってからトルクが出る2.2L初期型のような悪癖はいっさい見られない。

一方で、1000rpmを超えたあたりから、ディーゼル特有の燃焼音が聞こえ始める。これは新たな燃焼プロセスであるDCPCIとも関係している。2段エッグ燃焼室を使用して予混合燃焼成分を増やしているため、燃焼時間が短く、燃焼圧のピークも高いのだ(その分、熱効率は高い)。とはいえ、後席同乗者とも普通の声で会話できるので、「うるさい」というほどではなく、アイドルが静かなだけに「おや?」と思った程度だ。

加速応答は、まさにオンデマンド。アクセル操作に対する応答は一貫してリニアで、過敏感がなく扱いやすさは抜群だ。公道なので全開加速は試していないが、それをする必要がないくらい、パーシャルでも力強い。

自社開発した8ATのマナーも良好。トルクコンバーターを廃止し、発進デバイスには湿式多板クラッチを使用しているが、発進もノロノロ走行もスムーズだし、変速ショックもほとんど感じない。モーターを発進アシストに使えるHEVだから、トルクコンバータの増幅機能が不要なのかと思ったら、エンジン単体で使う25S(ガソリン直4)やXD(3.3Lディーゼルターボ)も同じ仕様だという。もっとも、DCTでもクリープ走行できる時代なので、驚くような話ではないのかもしれない。

もうひとつ書いておきたいのが、走行中にエンジンを始動/停止する際のショックがまったく無いこと。新エンジンはディーゼルながら、吸気カムスプロケットに電動VVTを付けており、始動時にはこれを使って圧縮圧を落としているそうだ。排気側に付ければ掃気に使えそうな気もするが、そのくらいのことは試しているだろう。乗り心地の面では、50km/h以下の低速域で、少し硬さを感じるシーンがあった。フィーリングとしては、高減衰というより、タイヤのエンベロープ特性か、サスのフリクションというイメージ。ちなみにタイヤの銘柄はBSアレンザA001で、サイズは235/50R20。指定空気圧は前後とも250kPaと高めの設定。リヤサスのナックル側は5カ所ともボールジョイントで、ジオメトリー剛性を重視してプリロードをガッツリかけており、その影響もあるのかも知れない。

しかし一方で、ジオメトリー剛性の高さは直進性に効いており、うねった路面を通過しても、進路はほとんど乱れない。これだけリヤが安定しているクルマは、欧州車でもなかなかない。

盤石なリヤスタビリティの上に構築されたハンドリングは、どこまでも滑らか。操舵応答性はマイルドながら、どこまで切っても手応えが一定なので、狙ったラインにピタリと乗せることができ、狭い峠道でも1890mmある車幅がずっと小さく感じられる。聞けば、リヤで直進安定性が確保できたため、キャスター角を立ててキャスターアクションの影響を減らしたという。

燃費は1台目が19.8km/L。御殿場から新東名と伊豆縦貫道を通って三島まで行き、国道1号線経由で十国峠(標高774m)に登って折り返すというコースで、帰りは新東名の120km/h区間を制限速度いっぱいまで使った。2台目は御殿場から長尾峠(911m)を往復して、12.2km/L。「さすがに落ちたな」と思ったけれど、上り坂でそれなりに踏んだので、軽自動車でもこれくらいの数値になると思う。他社のストロングハイブリッド勢には、脅威的存在になりそうだ。

著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…