従来品比で 30%トルクを低減し、自動車の低燃費化に貢献

NTN:自動車電動ウォータポンプ用「低トルク樹脂軸受」を開発

NTNは、HEV や EV、FCV などの電動車の冷却システムに使用される 電動ウォータポンプ向けに、スラスト面に設けた特殊潤滑溝によりトルクを従来品比で 30%低減した 自動車電動ウォータポンプ用「低トルク樹脂軸受」を開発した。

 近年、自動車の電動化および低燃費化において、エンジンやインバータ、バッテリ、モータなど車両コンポーネントの熱管理(サーマルマネジメント)は重要な課題となっている。電動車では冷却水を循環させる電動ウォータポンプが自動車1台あたり複数個搭載されており、電動ウォータポンプ内で冷却水を押し出す役割を担うインペラ(羽根車)に軸受が使用されている。電動ウォータポンプ用軸受には、PPS樹脂*1 などを使った樹脂軸受やカーボン軸受など小型・軽量かつ耐薬品性を有するすべり軸受が使用され、いずれの軸受も燃費向上を目的にさらなる低トルク化が求められている。


・インペラ、軸受、マグネットを一体化したロータをポンプ室に収納
・マグネットに対向して配置したステータへの通電によって発生する磁界で、ロータが回転
・ロータの回転により、インペラがポンプ室に吸入した冷却水を移送
・アキシアル荷重とラジアル荷重が発生し、軸受のスラスト面とスラスト受(図左側)、軸受内径と軸が摺動

 今回開発した「低トルク樹脂軸受」は、固体潤滑剤などの独自配合により、水中使用時に優れた低摩擦・低摩耗特性を発揮するNTN製PPS樹脂材料を使用するとともに、スラスト面に特殊潤滑溝を形成している。従来は、潤滑溝に矩形溝を形成していたが、本開発品の特殊潤滑溝は、軸受の反回転方向に徐々に溝が浅くなる勾配を設けることで、軸受回転時に冷却水を反回転方向に押し込み、 動圧効果による圧力を発生させる設計とした。これにより、軸受のスラスト面の接触部に冷却水が入り込みやすくなり、従来品と同等以上の耐久性を維持しながらトルクを30%低減することに成功した。


特殊潤滑溝の構造

従来品と開発品のトルク比較

 本開発品は、カーボン軸受に発生しやすいクラック(割れや欠け)の心配がなく、水中における優れた耐摩耗性を有し、カーボン軸受からの置き換えも可能なことから、NTNは電動ウォータポンプ用途でのさらなる販売拡大を見込んでいる。

【特長】 NTN従来品(スラスト面に矩形溝を形成)比
 低トルク:30%低減
 耐久性:同等以上
  水中で優れた低摩耗特性を発揮するNTN製PPS 樹脂材料を使用
【販売目標】
2026年度2億円/年
【用途】
・HEV、EV、FCV 用電動ウォータポンプ
・住宅設備(自然冷媒ヒートポンプ給湯機、燃料電池コージェネレーションシステム)の電動ウォータポンプ

 本開発品で使用している PPS 樹脂は耐薬品性にも優れているため、冷却水だけでなく、溶剤などさまざまな液体中で使用が可能。自動車のほかにも、ZEH*2 対応の住宅設備で使用される自然冷媒ヒートポンプ給湯機や、家庭用燃料電池コージェネレーションシステムなどの循環や冷却用の電動ウォータポンプにも使用可能で、省エネルギー化に貢献する。

*1 Poly Phenylene Sulfide(ポリフェニレンサルファイド)の略。射出成形が可能で、連続使用温度 240°Cの熱可塑性樹脂。 耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性に優れる。
*2 Net Zero Energy House の略。外皮の断熱性の向上や高効率な設備システムにより大幅な省エネルギーを実現した上で、 再生可能エネルギーを導入し、エネルギー消費量をゼロにする家のこと。

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