東芝: モデルベース開発向けに車載半導体の動作検証時間を約10分の1に短縮できるシミュレーション技術を開発

東芝は、モデルベース開発(Model Based Development:MBD)向けに車載半導体の動作検証時間を同社従来技術に比べて約10分の1(注1)に短縮できるシミュレーション技術を開発した。今回開発したシミュレーション技術により、同社半導体を用いた機器の動作を迅速に評価可能となり、車載機器の開発および設計時間の短縮に貢献する。
メイン画像:今回開発された技術によるシミュレーション事例

 近年、電動自動車や安全運転支援システムの普及などを背景に、車載機器の高度化や複雑化が進んでおり、それに伴い、車載機器の開発コストや開発時間も増大している。モデルベース開発は、ソフトウェアを用いて仮想環境上で現実と同様のモデルを作成し、そのモデルに対してシミュレーションを行う開発手法である。ハードウェアを試作する前から、開発と検証を同時進行できるため、効率的な開発に貢献する手法として自動車業界を中心に導入が進んでいる。

 モデルベース開発では、機能をブロックに分け、そのブロックを繋いでいくことで全体の機能や性能を検証するが、車載機器で重要視される熱やEMI注2ノイズなどの指標を検証するためには、各ブロックにおける半導体の動作も考慮した高精度なモデルが必要だ。一方、実際の機器の動作を詳細に再現するほど、計算時間も増大してしまうという問題があった。具体的には、電動パワーステアリングなどの車載機器は、シャフトやギアなどメカ機構とMOSFET注3などの半導体を使用した電気回路で構成されているが、東芝従来技術では、ミリ秒単位で動作するメカ機構とマイクロ秒単位で動作する半導体を同じ時間間隔でシミュレーションしていたため、メカ機構において無駄な計算が発生していた。また東芝の従来技術における半導体のモデルでは、特定の指標を検証する場合でも100種類以上のパラメーターを使って計算するSPICEモデル注4を使用していたため、計算が複雑になり、時間がかかっていた。

 今回、東芝が開発したシミュレーション技術は、「Accu-ROM」と呼ばれる技術が特長。本技術では、メカ機構のみの動作を検証した後にメカ機構のモデルを簡素化し、その後半導体の動作を計算することで、動作速度の差から発生していたメカ機構における無駄な計算を大幅に削減している。また、半導体の計算では、予め検証範囲を熱やEMIノイズなど検証する頻度が多い指標に限定したVHDL-AMSモデル注5をSPICEモデルから自動で生成し、シミュレーションに組み込むことで、SPICEモデルによる計算よりも時間を短縮した。これらの特長を備えた「Accu-ROM」技術により、同社従来技術では32時間51分かかっていた車載半導体の熱やEMIノイズのシミュレーションを3時間27分で完了させることに成功した。注1

注1:車載電動パワーステアリングシステムの三相インバーター回路における、6秒間かけ右折した場合のシミュレーション時間を比較。
注2:MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor):金属酸化膜半導体電界効果トランジスター
注3:EMI:Electro Magnetic Interferenceの略。外部の電磁波や電場、磁場の影響を受け、電子回路が誤作動すること。
注4:SPICEモデル:Simulation Program with Integrated Circuit Emphasisモデルの略。電子回路シミュレーターSPICE上で、電子部品や回路を表現するためのモデル言語のこと。MOSFETやダイオードなどの半導体素子の動作は、多数の半導体パラメーターによって記述されている。
注5:VHDL-AMSモデル:Very-High Speed IC Hardware Description Language-Analog and Mixed Signalモデルの略。電気や熱、メカニカルな動作などアナログ的な挙動と、マイコンなどデジタル的な挙動の双方を表すことができるモデル言語のこと。

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