-世界初のアナログ・デジタル混載ICでノイズを51%低減、 モーター駆動回路・直流交流変換器等の小型高効率化でカーボンニュートラル社会の実現に貢献-

東芝:世界で初めて、次世代パワー半導体を制御する高機能ドライバーICをワンチップ化

東芝は、次世代パワー半導体を制御するドライバーICにおいて、世界で初めて、アナログとデジタルを融合した高機能回路のワンチップ化に成功した(*1)。

 本ICは、2マイクロ秒以下の超高速でパワー半導体の電圧・電流の状態を検知し、きめ細かな制御によって、パワー半導体で発生するノイズを最大51%低減することができる。また、従来の方式で同等のノイズ低減をする場合に比べ、モーター駆動時の電力損失を25%削減できることも理論計算で確認した。短絡等の事故発生時にはパワー半導体を即時保護して破壊を防止できる。

 本技術は、次世代パワー半導体の性能を最大限に引き出すための技術である。EVや産業機器、スマートグリッド等に使われるモーター駆動回路や直流・交流変換器の小型・高効率・高信頼化に繋がり、カーボンニュートラル社会の実現に貢献する。

開発の背景

 パワー半導体は電圧や電流の制御を行う半導体で、あらゆる場所で使われているモーターの駆動や、直流・交流変換などの電力変換に使用されている。カーボンニュートラル社会の実現には、パワー半導体と電力変換器の小型・高効率化が不可欠である。パワー半導体市場は年々拡大しており、パワー半導体を制御するドライバーICの世界市場規模は2017年の約1400億円から2021年には約1800億円に成長し、今後も拡大していくことが見込まれている(*2)。

 現在はパワー半導体素子としてIGBT(*3)やSi-MOSFET(*4)などが一般的に使用されている。さらなる高効率化には電力変換時に発生する電力損失の低減が必要であり、SiC-MOSFET(*5)などの低損失な特性を持つ次世代パワー半導体の開発が進められている。次世代パワー半導体は電力変換器で発生する電力損失を低減し、高効率化を実現するとともに、放熱が容易になり小型軽量化を進めることができる。一方で、従来と同様の回路方式で制御した場合、電力損失の低減と引き換えにノイズが発生しやすくなる。また、放熱経路が小さくなり、万が一、短絡などの事故が発生すると瞬時に温度が上昇し、半導体の破壊に至りやすくなる課題がある。

 次世代パワー半導体の制御方法を工夫してノイズを低減する技術が研究されているが、パワー半導体素子の電圧や電流状態によって最適な方法が異なるため、柔軟にノイズを低減することは困難である。また従来方法では、短絡などの事故検知・保護機能は、マイコンを介してシステム設計者が構築する必要があり、検知・保護の遅延による素子破壊等に至りやすいリスクがある。

本技術の特長

 そこで東芝は、アナログ・デジタル回路を混載した高機能な1チップゲートドライバーICを世界で初めて開発し、この課題を解決した。従来、本ICと同様の高機能を実現しようとすると、信号変換器やメモリー、演算回路、増幅回路等の多数の個別半導体部品を用いて構成する必要があった。アナログ・デジタル回路を混載し、パワー半導体素子の電圧・電流をアナログ回路で検知、検知結果に基づきデジタル回路で制御方法を切り替えることで、多数の部品を用いることなく1チップで最適な制御が可能となる。制御方法を蓄えるメモリーも搭載している。また制御時は、低速なデジタル回路と高速なアナログ回路を組み合わせた分解能向上回路により、高速な制御が必要な部分だけアナログを利用することで、等価的にきめ細かな制御を実現する。

 加えて、パワー半導体の高速な電圧・電流波形から、制御や事故の検知に必要な特徴量だけを抽出するアナログ波形の前処理技術を開発することで、低速なアナログ・デジタル変換器による故障検知を可能にした。これにより、マイコンなどを経由することなく短絡などの事故状態を検知し、即座にパワー半導体を保護することができる。

 更に、本ICは、既存の装置が利用できる低コストのCMOS(*6)プロセス技術により実現可能である。本ICを用いて1.2kVのSiC-MOSFETパワー半導体を制御し、電力損失を増加させることなく、ノイズ発生の主要因の一つであるサージ電圧を51%削減することに成功した。従来の方式で本ICと同等のサージ電圧低減を行うと、モーター駆動時の損失が増加してしまうが、これに比べ本ICを使えば電力損失が25%低減できることも理論計算で明らかにした。またマイコンを介さず、最短2マイクロ秒と高速に、事故状態を検知することに成功した。これらは、次世代パワー半導体の性能を最大限引き出す性能として期待される。

図1: 開発した1チップ制御ICの概要と効果、主要技術
図2: SiC-MOSFETパワー半導体を制御した際のノイズ低減効果と高速な事故検知の結果

今後の展望

東芝グループは、本ICの2025年の実用化を目指す。パワーエレクトロニクスは東芝グループの注力事業であり、今後も本ICの関連技術の開発を進める。さまざまな電力変換システムへの次世代パワー半導体の適用を推進し、パワー半導体の高効率化を通したCO2排出量の削減、ひいてはカーボンニュートラル社会の実現に貢献していく。

*1 本技術は、2021年10月10日から14日までオンラインで開催されたIEEE国際学会ECCE2021(2021 IEEE Energy Conversion Congress and Exposition)で発表した。
*2 出典:https://s3.i-micronews.com/uploads/2019/01/YDPE17009_Gate_Driver_Market_and_Technology_Trends_Report_2017_Flyer.pdf(685KB)
*3 IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistorの略。MOSFETをベース部に組み込んだバイポーラトランジスタのこと。
*4 Si-MOSFET:Silicon MOSFETの略。トランジスタの一種でIGBTに比べ低電力で高速な動作に向く。
*5 SiC-MOSFET:新材料のSiC(シリコンカーバイド)を使用したパワー半導体。
*6 CMOS:半導体回路の一種。パソコンをはじめとする電子機器の多くに採用されている。

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