オムロン:急拡大するEVや5G向け電子基板の全数検査を可能とする世界最速*1の3D X線検査装置「VT-X750-V3」を発売

オムロンは、世界最速で電子基板を3D検査できるCT型X線自動検査装置*2 「VT-X750-V3」を11月20日からグローバルで発売する。

 近年、5GやEV、自動運転などで使用される電子基板の需要が急増している。特に車載をはじめとするこれらの用途は、人命に関わることから、品質要求は一層高まっている。また、最終製品の性能向上や安全性を担保するため、基板上に搭載部品数を増やせるよう、基板の両面への部品実装や部品を集約したICチップ化が進んでいる。外観では検査できないこれらの部品をより正確に検査するには、従来のX線による2D撮像ではなく、3Dでの検査が必須。しかし、3D検査は撮像と画像処理に時間がかかるため、運用効率と高品質な検査の両立が非常に困難なことが課題だった。製造現場では、2D検査時と同等の生産数を確保するために、生産品の全数ではなく一部のみの検査、または、全数検査を行うために、生産工程から離れた場所に置いた検査工程で、時間をかけて対応する場合もあることが現状だった。

同じはんだを2DでX線撮像した画像(左)と、3DでX線撮像した画像(右)

 今回、発売する 「VT-X750-V3」は、現行モデルより検査速度を1.5倍に高速化することで、複雑な基板でも全数検査を可能とした。搭載するオムロン製制御機器をシームレスに制御することで実現した独自の連続撮像技術*3と、従来比2倍*4の感度を持つカメラの採用により、クリアな3D画像の高速撮像を実現した。これにより、高性能な検査を短時間で行うことができる。また、AIによって検査の撮影条件設定を自動化させ、基板検査プログラムの作成時間を大幅に短縮させる。

複雑な基板・部品の検査事例

主な特長

従来製品との検査速度の比較

① 従来比1.5倍の検査速度をオムロン独自の連続撮像技術により実現
 従来の高画質な3D-CTデータ(3D画像)の撮影はそのままに、撮影のためのハードウェア制御を高度最適化することで、従来比1.5倍の高速撮像を実現した。これにより、従来同等の生産性で、高精度な全数検査が可能となる。
 ハードウェア制御の高度最適化においては、オムロンの制御機器で培ったノウハウを集結し、高速でシームレスな連続撮影を実現するとともに、フィードバック制御による、より正確な位置での撮影を実現した。これらの独自技術により、クリアな3D-CT画像(3D画像)の撮像が実現できた。さらに、3D-CTデータ(3D画像)の生成にあたっては、自社開発による最新の3D-CTアルゴリズムの搭載と高感度高速カメラの採用により、よりノイズのすくない3D画像が生成できるようになった。

GaNパワーデバイス(左)とSiP(右)の3D-CT撮像事例

② パワーデバイスの検査
 IGBTやMOSFET*6などのパワーデバイスに最適化した検査ロジックを新たに追加した。また、基板実装後のアセンブリ工程でのスルーホールコネクタのはんだ充填検査や、近年採用が増加しているSiP/PoPパッケージ*7やプレスフィットコネクタなどの検査にも多くの採用実績がある。
 特に、パワーデバイスにおいては、パワー半導体がSiからSiCやGaN*8へ変化しつつある中、放熱の課題はますます重要となってくる。EVの課題である1回の充電における走行距離の延長や、高出力化、小型・軽量化に対して、放熱の課題は避けては通れない。オムロンではそれに先駆けて、放熱の課題の一つであるはんだ接合中のボイド検査について、独自の検査アルゴリズムを開発し、搭載した。

③ AIによるスキルレス化、自動化
 検査対象物や、部品、また裏面に搭載された部品の影響などにより、X線撮像条件の最適化が必要。それらの撮像条件の設定には、いくつかのパラメーターがあり、従来は、カット&トライを繰り返しながら、最適な撮像条件を設定していた。それらの設定を、AIにより自動で設定することができるようになった。これにより、撮像条件の設定が大幅に短縮できた。
 また、VT-X750-V3で撮像した3D-CTデータ(3D画像)を用いた検査には、3D画像処理の技術が必要。その3D画像処理の設定を事前に登録しておくことで、生産現場では自動で検査を行っている。 しかしながら、その3D画像処理の設定には、専門スキルが必要となっていた。この度、その一部を自動化することで、専門スキルに頼ることなく、設定時間を短縮することができた。

④ 被ばくリスクの低減
 作業者への被ばく防止はさることながら、検査するワーク上の半導体部品などの被ばくによる故障リスクの低減が大きな課題。今回、基板の表・裏や、搭載される位置などによって、部品ごとの被ばく量をより正確にシミュレーションできる機能を追加した。
 これにより、部品ごとの被ばく量の限界値と照らし合わせることで、被ばくによる部品故障のリスクを低減することができる。

部品ごとの被ばくシミュレーション

*1 世界最速:基板検査業界におけるフル3D-CT型X線自動検査装置として、世界最速。2021年10月オムロン調べ。
*2 CT型X線自動検査装置:X線を用いて、ヒトの目に見えない構造物内部の連続的な断面の画像を撮影し、コンピューター処理することで、3次元の立体的な画像を得る技術を搭載した検査装置。医療機関などで利用されているCTスキャンと同様の技術が使われている。
*3 連続撮像技術:立体画像を移動しながら止めることなく撮像する技術
*4 従来比2倍:旧モデルに比べて、約2倍の感度。同一撮像条件で、イメージセンサ(撮像素子)がX線を光として感じる度合い。
*5 Mサイズ基板の全面検査の時間。基板の搬入・搬出時間は除く。2,000~3,000ピンのBGA2個やSiPを含む、 基板の表面、裏面の全部品の3D検査にかかる時間。
*6 IGBTやMOSFET:パワーデバイスは、バッテリーに蓄えられた電気を使って、モータなどを駆動させるために必要な部品で、バッテリーなどの直流の電気を、モータ駆動に必要な交流に変換する部品。特に、近年では、自動車や鉄道などの電動化では重要な部品の一つとなっている。家庭用の家電製品では、コンセントからの交流の電気をそのままモータなどの駆動に使えるが、電気自動車やPHEVでは、バッテリーを駆動源としており、直流から交流に変換することが必要。IGBTやMOSFETはパワーデバイスの代表的な一種で、用途によって採用が異なる。
*7 SiP/PoPパッケージ:SiP=System in Package、PoP=Package on Packageの略。いずれも基板に実装される部品の名称で、従来のIC/LSI部品の内部構造は単層であったが、SiPやPoPなどの内部構造は、複数層となっており、複雑な構造となっている。複雑な構造となることで、X線検査としてはより3Dでの検査が必要となっている。なお、SiPはコネクテッドカーやスマートフォン端末などの5G通信用部品として用いられることが多く、PoPはスマートフォンのアプリケーションプロセッサ(メインのCPU)として用いられることが多い。
*8 SiCやGaN:従来の半導体素子は、パワーデバイス向けも含めてSi(シリコン/ケイ素)が主流であるが、パワーデバイス向けでは電気容量の大容量化や高圧/高電流化に向けて耐熱温度が課題となっている。SiC(シリコンカーバイド/炭化ケイ素)やGaN(ガリウムナイトライド/窒化ガリウム)は、Siよりも耐熱性に優れ、次世代のパワー半導体素子として期待されている。

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