トヨタのNASCARエンジン:古典的フォーマットに最新のテクノロジーを注ぎ込む[内燃機関超基礎講座]

大排気量V8・OHVエンジン──。アメリカで最大の人気を誇るレースシリーズは60年間に渡り、基本フォーマットを忠実に守りながらエンジンの開発を続けている。実は守っているのはフォーマットのみで、中身はハイテク。最新の技術を注ぎ込み、高回転・高出力化を果たしている。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)
*本記事は2009年3月に執筆したものです
■ Specification:Toyota NASCAR V8
エンジンタイプ:V型8気筒 OHV 16V
型式:TOYOTA/TRD Phase 11
バンク角:90°
排気量:5.8ℓ
ボア×ストローク:106.3×82.6mm
圧縮比:12
カム駆動:ベルト
バルブ駆動:プッシュロッド+スプリング
シリンダーブロック材質:鋳鉄
最高出力:850ps以上(最上級シリーズ)
最大トルク:未公表
最高回転数:9000rpm以上
搭載車両:カムリ(上位2シリーズ)/タンドラ(トラックシリーズ)

トヨタ/TRDがNASCAR参戦のために専用開発した5.8ℓ・V8 OHVエンジンは、最上位のスプリント・カップと、ほぼ同じボディを持つネイションワイド、ピックアップトラック形態のキャンピング・ワールド・トラック・シリーズが同じエンジンを使用する。キャブレターやリストリクタープレート、カムの違いで出力の違いを作りだしている。かつてはカム駆動にチェーンが使われていたが、高回転化にともなってベルトに移行。ベルトカバーにはCFRPの使用が認められている。

NASCARスプリント・カップにはシボレー、フォード、ダッジ、トヨタの4ブランドが参戦(当時)。スチール製パイプフレームのシャシーに板金ボディを被せる。ホイールベース間の構造は各社共通。前車軸より前方、後車軸より後方のボディはある程度の形状自由度があり、この部分で空力的なチューニングを施す。最高速は200mph超。デイトナ(2.5マイル)やタラデガ(2.66マイル)のようなスーパースピードウェイでは、エンジン性能やドラッグの影響が大きい。

Toyota Camry (Sprint Cup)
NASCARエンジンのアウトライン
・最大排気量5.8ℓの自然吸気2バルブOHV・V8
・シリンダーブロックは鋳鉄製、燃料系はキャブレター
・上位3シリーズともに基本的には同じエンジンを使用
・キャブレターのベンチュリー径でシリーズごとに性能を調整
・主要エンジン部品の販売が義務付け(競争相手も購入可)
キャブレター:NASCAR上位3シリーズは、1960年代から供給を開始したホーリー(Holly)製の市販4バレル・キャブレターを装着。「4バレル」の由来となった4つのベンチュリーインレットが見える。前面に見えるねじはミクスチャー調整用。
アルミ合金製インテークマニホールド。コースの特性に合わせて仕様の異なるマニホールドを採用(エキゾーストも同様)。吸気はウィンドスクリーンの下部から行なう。赤いプレートの位置にリストリクタープレートを装着。
アルミ合金製のシリンダーヘッド。手前に見えているのが排気ポート。各ポートの脇に点火プラグを差し込む穴が見える。吸排気バルブはインライン配置だが、バルブをオフセットさせることで、ペントルーフ型の燃焼室形状を実現。
プッシュロッド&リフター:プッシュロッドはスチール製が義務付け。それ以外の動弁系を軽くすることで高回転化に対応。
アルミ合金製ロッカーアーム。バルブリテーナーはチタンの使用が認められている。
8気筒分の吸排気カムが一直線に並んだカムシャフト。ショートオーバル/インターミディエイト/スーパースピードウェイと、コースの特性に合わせてタイミングの異なる仕様を投入する。カップとネイションワイド/トラックではタペットの形状が異なる。
砂型鋳造によって製造される鋳鉄ブロック。Vバンク角は90度。ボア×ストロークは4.185×3.25inch(106.3×82.6mm)のショートストローク型。Vバンク間にプッシュロッドを通すオフセットした穴の列(加工前)が見える。
スカベンジポンプ:オープン構造のオイルパンを持つネイションワイド/トラックに対し、カップは分割構造を採用する決まり。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…