「童夢-零/P-2という幻」スーパーカー世代に夢を与えたプロジェクトを振り返る

「国産初のスーパーカー」と言われる童夢-零、その市販スペックがP-2だ!

レーシングコンストラクターが市販を目指して本気で開発

オリジナルのロードスポーツカーを製作するという“童夢プロジェクト”がスタートしたのは1975年。そこから3年もの時間をかけて誕生したのが、1978年のジュネーブモーターショーで華々しいデビューを飾った“童夢-零”だ。

ウェッジの効きまくったスタイリングにガルウイングドアを採用。プロトタイプモデルとはいえ、誰がどう見ても一目でスーパーカーと分かるクルマが、日本のレーシングコンストラクターから生み出されたことは実にセンセーショナルだった。しかも、時代はスーパーカーブームの真っ只中。その名が広く知られるようになるまで、時間が掛かるはずもなかった。

衝撃的なスタイリングが大きな話題となった零だが、レーシングコンストラクターが手掛けただけに中身のメイキングも本格的だ。基本構造は、スチール製モノコックシャシーにFRP製セミモノコックボディを組み合わせたものとなる。

サスペンションは前後ともダブルウィッシュボーン式。ジオメトリー変化が少なく横剛性も確保しやすい…といったメリットを持つことから、レーシングマシンに採用されてきた長い歴史がある。ちなみに、今時のマルチリンク式はその発展型と言っていい。

心臓部は日産L28型エンジンをリヤアクスルより前に縦置きで搭載、完全なリヤミッドシップを実現しているのだ。キャブレターがソレックス3連装となり、エキゾーストパイプの取り回しがワンオフ品になっている以外、エンジン本体は基本的にノーマルのままだ。ヘッドカバーには童夢のプレートが付く。

L28の後方にドッキングされたミッションはレース用のZF製5速MT。ブレーキはまさしくレーシングマシンそのもので、ミッションケースのすぐ脇にキャリパー&ディスクローターが配置されるインボード式を採用する。バネ下重量を劇的に軽減する手法だ。

フロントノーズに収められたラジエター。前側を高く、後ろ側を低くセットすることでバンパーの下に流れ込んだ走行風を効率よくコアに導き、2基の電動ファンでボディ上面に引き抜く。ラジエターの上を覆うボディパネルが脱着式とされていたのは意外だった。

室内ではサイドシルの幅広さに注目。ガルウイングドアの開口部が巨大なため、サイドシルの幅を稼ぐことでボディ剛性を確保しているのだ。また、メーターはデジタル表示。助手席の目の前に装着された当時物のアルパイン製カセットチューナー&イコライザーが泣かせる。

左上がリバース、左下が1速のレーシングパターンとされたシフトレバー。長いリンケージを介しているため、シフトタッチがかなりアバウトなのは仕方ない。その後方、センターコンソールボックスの蓋にしか見えないものがサイドブレーキ。実に斬新なデザインだ。

アクセルペダルはオルガン式、相当な踏力が必要とされるブレーキ&クラッチペダルはフロアからはえる。タイヤハウスが左右に食い込んでくるため、ノーズに向かってフロアの幅が絞られているが、足元のスペース的な問題を感じることはない。

シート座面はフロアの上に薄いクッションを1枚敷いただけのような状態で、当然、着座位置も思いきり低い。また、シートバックの角度が見ため以上に寝ているため、ドライビングポジションは手足を完全に投げ出したものとなる。

当時、童夢は零の車両認定を受けるため運輸省との交渉を1年以上も続けたが、どうにもラチが開かず日本国内での認可取得を断念。そこでアメリカにDOME USAを設立して活路を見出すことになる。つまり、アメリカの法規に準じた改良モデルを作って認可を取り、日本に逆輸入しようと考えたのだ。その流れの中で開発されたのが“P-2”というわけだ。

運転席側のドアを開けると現れるアルミ製の控えめなコーションプレート。型式はP-2、シャシーナンバーは2番と打刻されている。

パッと見は零もP-2も同じように見えるが、アメリカで認可を取るために施された改良は、なんと150点にも及んでいる。主ななものとしては、安全基準を満たすためにバンパー位置を約10cm高くして素材もウレタンに変更。

ちなみに、零とP-2はサイズがまるで異なる。零はP-2に対して全長は約250mm短い3980mm。それは、市販スポーツモデルで言うとNC型ロードスターくらいのサイズだったりする。さらにホイールベースで50mm、全幅で5mm、全高で10mm小さいボディを持つ零は、P-2より遥かに引き締まった印象を与えてくれる。

見た目に2台の違いが分かるのはフロントバンパーの高さ。零の方が約100mm低く、フロントノーズ周りのデザインもよりシャープなものとなっている。また、零では真上に開閉していたガルウイングドアを、P-2では斜め前方に開くようにして開口部をより広くしたことなども挙げられる。

このように、基本設計から見直さなければならないことまで含まれていたから、実に大がかりな仕様変更だったのだ。

こうして車両認可に向け奮闘していたところで、童夢に舞い込んできたル・マン参戦の話。レーシングコンストラクターとしてより魅力を感じたのがル・マン参戦だったのも当然で、P-2市販化の動きはそこでストップしてしまったのだ。

■SPECIFICATIONS
全長×全幅×全高:4235×1775×990mm
ホイールベース:2450mm
車両重量:950kg
エンジン型式:日産L28
エンジン形式:直列6気筒SOHC12バルブ
排気量:2800cc
最高出力:145ps/5200rpm
最大トルク:23.0kgm/4000rpm
ミッション形式:ZF製5速MT
サスペンション形式:FRダブルウィッシュボーン
ブレーキ:FRベンチレーテッドディスク
ホイールサイズ:−−−
タイヤサイズ:F185/60-13 R225/60-14

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