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東のスプーン、西のジェイズレーシング!
ホンダ車チューンと言えば、共に創業から30年以上を数える、『東のスプーン、西のジェイズレーシング』という意見に異論はないだろう。それだけに、「バチバチのライバルでアンタッチャブルな関係」だと思っている読者も少なくないはずだ。そこで考えた。「だからこそ、この2社だけで取材をしてみたい」と。その意向を伝えると、どちらも快諾。FL5現行シビックタイプRデモカーでの取材が実現したのだ。
スプーンスポーツFL5

まずはスプーンから。「基本はストリートを狙っていますが、ミニサーキットでのスポーツ走行まで楽しめるように仕上げてます」と城本さんは言う。

エンジンはブーストアップ仕様。ブースト圧はノーマルの最大1.6キロから1.8キロへと引き上げられ、パワーは345ps、トルクは55.5kgmをマークしている。スロットルはノーマルに対してインデュース径を2.5mm(62.5→65.0mm)、バラフライバルブ径を2.0mm(60.0→62.0mm)拡大した同社のべンチュリビッグスロットルボディを装着。純正交換タイプの同社エアクリーナー、インタークーラーと併せて吸気効率を高める。

サーキット連続周回で厳しくなる水温対策として、ビレット製アッパー&ロワタンクを持つオリジナルアルミニウムラジエターを導入。サーモスタットも開弁温度を純正78℃から68℃としたローテンプタイプに交換される。

また、エンジン制御はHONDATAフラッシュプロが担当。プリインストールされるデータはブースト圧1.6キロ仕様と1.8キロ仕様を用意。

ステアリングホイールはMOMO製オリジナルで赤いステッチがアクセント。シフトノブもオリジナルのジュラコン製に交換。従来モデルに対して高くなったシフトレバー位置に合わせてシフトノブの高さを最適化し、操作性を高めている。

運転席にはホールド性と快適性を両立し、ドライビングポジションも改善するカーボンバケットシートを、助手席にはストリートユースでの使い勝手を重視したリクライニングバケットシートを装着。どちらもスプーンオリジナルとなる。

ストローク初期のレートを落として日常域での乗り心地を改善しつつ、深く沈み込む高速、高負荷域では高レートでロールを抑える、不等ピッチ樽型を採用したプログレッシブスプリング。アーム類はノーマルで、前後2度に抑えられたネガティブキャンバーからもストリート重視であることが分かる。フロントブレーキに組まれるのは市販化が期待される試作6ポットキャリパー。前後スリット入りローターやブレーキホースもオリジナルが装着される。

ホイールはTan-ei-sya製鍛造のオリジナルSW388。サイズは9.5Jプラス45×19で、表面には塗装よりも重量増を抑えられるマットブラックのアルマイト処理が施される。組み合わされるタイヤは265/30サイズのポテンザRE-71RS。

マフラーは、アメリカ・サンダーヒル25時間レース参戦のFK8(2021年)にも装着されたオリジナルN1マフラーキット。パイプ径はメイン70φ、テールエンド80φに設定される。また、ウェットカーボン製クレインネックリヤウイングも装着。低ドラッグ&高ダウンフォースを実現し、メインフラップはコースなどに合わせて9段階の角度調整も可能となっている。

スプーンのFL5に試乗したジェイズレーシング梅原さんは「まず足回りに感心しました。ストローク初期の突き上げ感が解消されてて、19インチ、+Rモードでもしっかり足が付いてくる。ペースを上げていっても優れた路面追従性は変わりません。ウチのデモカーはギャップがある山道を安心して飛ばせるのを狙ってるんで、街乗りではどうしてもコツコツ感が出てしまうんですけど、そういったことが全くない」。
続けて「それとスティッフプレートやリジカラなどの補強も効いてますね。ステアリングの操作感がしっかりしてて挙動に一体感がありますもん。一方、エンジンはECUセッティングによってトルクの谷などを感じさせることなく綺麗に回ってくれます。アクセル操作に対するパワーやトルクの追従性も良く、乗りやすい。トータルバランスに優れる1台だと思いました」と絶賛。
ホンダという自動車メーカーのモノ作りに対する拘りを尊重しながら、各部の精度を飛躍的にアップさせたオリジナルパーツ開発を行い続けるスプーン。その実力は、西のトップチューナーをも唸らせるレベルというわけだ。
ジェイズレーシングFL5

続いてジェイズレーシング。「ストリートでの快適性を犠牲にすることなくサーキット走行も楽しめる」という基本コンセプトはスプーンと変わらないが、やや走りに振った印象。それを踏まえて細部を見ていく。まずエンジンで注目なのはタービン交換仕様ということ。

「FL5の純正タービンはFK8よりもサイズが小さく、5500rpm以上の領域で吸排気温度や燃焼温度、排圧が上がってしまいます。これはサーキット走行で致命的。なので、オリジナルHYPERタービンキットを開発しました」と梅原さん。その効果は凄まじく、ノーマル比130ps以上のパワーアップを実現(実測290→425ps)。ブーストアップとは次元の違う速さを手に入れられるのだ。

HYPERタービンキットの軸となるのは純正と同じ三菱製ながら、仕様の見直しによって高効率かつハイパワー化を実現するオリジナルアップグレードタービン。さらに、キットには高流量高圧フューエルラインや大容量インジェクター、ガスケット一式、専用データインストール済みのHYPER-ECUまでが含まれ、最高のパフォーマンスを引き出す。
タービン交換に伴う大幅な熱量アップに対して必須となるのがクーリング対策。そこで投入されるのが、ジェイズレーシングオリジナルのラジエター(オイルクーラー内蔵型)、ローテンプサーモスタット、強化クーラントホースキットだ。また、DRL(大和ラヂエーター製作所)と共同開発し、吸気温度を15℃以上低下させるHYPERインタークーラーも導入される。


イタリアatc社と共同開発のステアリングホイールは同社のロゴが入ったXRシリーズJAPANリミテッド。太めのグリップと小径325φで操作性を向上させる。チタンシフトノブとシフトブーツリングもオリジナルだ。運転席側フロントウインドウ上部にはAim製データロガーSOLO2 DLをセット。各種車両情報を表示させ、追加メーターとして機能させる。

運転席、助手席共にレカロのフルバケットシート、RS-GSを装着。スポーツ走行時のホールド性を格段に高め、ローポジション化も実現する。シートベルトは2インチ幅でアンチサブマリンベルトも備えたサベルト製6点式フルハーネス。

前4.8kg/mm、後4.4kg/mmのノーマルに対し、前3.5~5.0kg/mm、後2.5~4.5kg/mmという可変スプリングレートとされたHYPERスプリング。付属のバンプラバーを組み合わせることで、コーナリング性能を一段と向上させるセッティングが可能となる。表面は耐食性に優れ、塗装剥がれも最小限に抑えるジンクパウダーコーティングで処理。

数々のレース参戦で得たノウハウとデータを投入して生み出されたオリジナル鍛造ホイール、XR227。9.5Jプラス45×18で、265/35サイズのプロクセススポーツ2が組み合わされる。フロントブレーキはエンドレスレーシングMONO6キャリパーとCC43パッドで強化。また、ネガティブキャンバーはフロント3度半、リヤはアッパー&コントロールアームを調整式のオリジナルに交換して3度に設定。サーキットを始めとしたスポーツ走行重視のセットアップが施される。


マフラーはT304ステンレス材を使った試作品。「開発を進めていることろですが、FK8までとはまた違ったシリーズでの展開を予定してます」と梅原さん。テールランプはオリジナルLEDに交換され、被視認性を高めている。

こちらのステアリングを握るのは、もちろんスプーンスポーツ城本さん。「タービン交換仕様なので、もっとメリハリのあるいかにもターボ車らしいエンジン特性を予想してたんですけど、良い意味でNAフィールに近いまま上まで回ってくれるんですね。ノーマルを楽に100ps以上も上回るパワーなんで、とくに高回転域の伸びは気持ち良いの一言ですよ!」と評価。
さらに「足回りやハンドリングはソリッドな感じで、サーキット走行まで視野に入れてることが雰囲気として出てますね。このサスペンションなら、サーキットを本気で攻めるのも余裕だと思います。ウチのスプリングはよく“交換した感じがしない”なんて言われるんですが、ジェイズさんのはストローク初期から踏ん張ってくれる感じですごく分かりやすい。でも、限界域では似たような動きを見せるんじゃないかなって思いましたね」。
サーキットシーンを見据えながらチューニングカーとしての純度を高め続けるジェイズレーシングのFL5は、ホンダ車チューンのオーソリティを感激させるクオリティだった。

ホンダ車チューナー同士、同じマシンをベースとしたチューンドで比較するからこそショップの色が出る。まだまだ途上といえるFL5チューニングだが、その未来は明るいと言えそうだ。
●取材協力:スプーン 東京都杉並区荻窪5-2-8 TEL:03-3220-3411/ジェイズレーシング 大阪府茨木市彩都もえぎ1-3-2 TEL:072-641-9000
【関連リンク】
スプーン
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ジェイズレーシング
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