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オリジナルを尊重したサン・カン渾身のラグジュアリーZ
ヴェイルサイドが再びワイルド・スピード出演俳優のサン・カン氏とコラボ! エンジンから内装まで徹底してカスタマイズされた、世界に一台のS30Zをクリエイトした。

一緒に朝食をとりながら広がったアイディアを具現化
映画ワイルド・スピードシリーズの次回作で登場する予定のRZ34ボディキット「FFZ400」を製作し、2023年の東京オートサロンで発表したヴェイルサイド。その開発にはワイルド・スピードでハン役を演じる俳優サン・カン氏も直接関わり、ヴェイルサイド代表の横幕さんと交流を深めた。

2人の接点が最初に生まれたのは、「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」でハンがヴェイルサイドのRX-7フォーチュンに乗り、サン・カン氏がスターダムを駆け上がったことがきっかけ。
「FFZ400」のプロジェクト完成後も中国のイベントで顔を合わせ、たまたま同じホテルに宿泊していたことから朝食をともに取ったそうだ。その時に、生粋の旧車好きでもあるサン・カン氏が「次はこんなことをしてみたい」と話した内容を横幕さんがメモ。それをわずか2か月の製作期間で具現化してしまったのが、東京オートサロン2025でお披露目されたこのS30フェアレディZだ。

厳密には左ハンドルのダットサン240Zがベースで、国内で購入したと車両を一旦ドンガラの状態にまで分解。ダッシュボードやセンターコンソールなどの内装部品は、一度ドバイにあるプロショップ“カーボンシグナル”に発送し、イタリアンレザーを使った張り替え作業を行なってもらった後、ヴェイルサイドに送り直してもらうという工程を経た。

まず目を引くポイントはワイドフェンダーではなく、ナローなストックボディをそのまま生かしているところ。これは「オリジナルのデザインを最大限リスペクトしたい」というサン・カン氏の意向が強く働いた部分でもあり、ネジ穴ひとつ開けていないそうだ。


その上でカーボン製のフロントハーフリップとアンダーリップ、ボンネット、サイドフラップ、リヤスポイラー、リヤゲートをヴェイルサイドで製作。いずれもしっかりとした強度が確保され、商品化される予定となっている。また、前後のバンパーはノーマルのスチール製バンパーの上からカーボンを巻いている仕様で、それもまた「衝突安全性はしっかりと担保したい」というサン・カン氏の意見を汲んだものだそうだ。
最高速レジェンドであるヴェイルサイドだけあって、空力を高める機能性も確保。外から見ただけでは分からないが、フロントリップのサイド部分は下側にスリットが入っていて、空気の整流効果を発揮する。

カーボンボンネットの表面には「VeilSide78」のロゴがクリアプリントされており、見る角度によってオレンジ色に見えたり、ロゴ自体が見えなくなったりする仕掛けを盛り込む。ちなみに「VeilSide 78」の「78」はサン・カンさんのアイディアで「七転び八起き」をネーミング化したもの。俳優のキャリアを通して失敗と成功を重ねてきた自身の人生観と、クルマも壊れたり直したりを繰り返すことの苦労と面白さを重ね合わせているそうだ。
S30Zはボンネットの左右脇にバッテリーとウォッシャータンクを覆うカバーも設けられているが、そちらもカーボンで製作。ボンネットに設けられているダクトと共通性を持たせた、これまでありそうでなかったヴェイルサイド拘りのデザインとなっている。

カーボン製のサイドフラップは、ボディ下にある水抜き用の穴にナットサートを仕込んでボルトで固定。オリジナルのボディを傷つけることなく装着できて、S30Zらしいドア面のふくよかなラインも邪魔しない。


そして、この「VeilSide78」のもうひとつの見どころがエンジン。鋳造メーカーのJMCとカワサキZ専門店のPAMSが共同開発した、L型用チューンドヘッド「L6 HEAD ver.JP」を搭載したL28改3.2L仕様となる。RISING製の89mm鍛造ピストン、I断面コンロッド、85mmフルカウンタークランクシャフト、ビレットインテークマニホールドなども使用されている。

トランスミッションは、エスコートがオリジナルで商品化しているS15シルビア用ニスモ6速MTコンバートキットを使い、同じくエスコートのビレットリヤメンバーとR200デフも採用。クラッチは、OS技研のトリプルプレートを使用する。ハイスペックであると同時に、最新のパーツや技術を旧車に盛り込むことで誰でも快適に乗れるようなドライビングフィールを実現させているのがポイントだ。


サスペンションにはスターロードの車高調、ナギサオートのフロントレーシングアーム、リヤ調整式ピロアームなどを駆使することで、理想的なローダウンを実現。ブリヂストンのポテンザRE-71RSが装着された15インチホイールはRSワタナベ製で、フロントがGOTTI MG、リヤがエイトスポークと履き分けられている。


ドバイのカーボンシグナルが張り替え作業を行なった内装は、上質なレザー素材にオレンジのステッチを使用して統一感を表現。メーター類もオリジナルの文字盤デザインが採用され、特別感を演出している。

なお、エンジンに関しては、同じくJMC×PAMSのコンビで開発され、ヴェイルサイドのブースにプロトタイプが展示されていた、L28用DOHC4バルブの「LZ6」ヘッドに載せ替える予定とのこと。動弁機構にはカムギアトレインが採用され、400ps以上の最高出力を想定しているという。


ヴェイルサイド横幕代表は、このS30Zを「日本で素晴らしい仕事をしているメーカーやチューナーの情熱と技術が集約された一台」と表現。
また、3日間ほどヴェイルサイドで最後の仕上げ作業を手伝いながらも、残念ながら撮影の都合で東京オートサロンには参加できなかったサン・カン氏は、ビデオレターで「旧車を維持することは大変だけれども、こういうクルマこそ若い世代に知ってもらえたら嬉しい」とコメント。伝説的エアロデザイナーと世界的な俳優の出会いが、再び時代と国境を越えて語り継がれていくエポックメイキングなチューンドを生み出した。