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映えある200マイルクラブへの挑戦!
K20型のハートを持った最高速ホットロッド!
アメリカ伝統のカスタム文化であるホットロッド。「ロッド」はコンロッドのことで、ホットロッドとはつまり「コンロッドが熱くなるほど速い」という意味。実はチューニングこそが、その真髄なのである。
そして、常に最速を目指すホットロッダー達が年に一度集まる聖地と言えば、“ボンネビル・スピードウィーク”。ソルトフラッツを舞台にした最高速チャレンジで、勝者に与えられる最高の栄誉が「200マイルクラブ」の称号だ。最高速が200mph(約321km/h)を超え、かつクラスレコードを更新した者にのみ、その証であるレッドハットが手渡される。

今回取材したのは、そのレッドハット獲得を目指してボンネビルに参戦している1929年式のフォード・モデルAロードスター・ピックアップ。ウェブオプションでは滅多に取り上げることのない車種だが、面白いのはエンジン。なんと、ホンダのK20型直列4気筒が搭載されているのだ。

車両オーナーであるブルース・ワンタと共に、ボンネビルではドライバーも務め、かつ車両の製作全般を担っている「ハリウッド・ホットロッド」の代表、トロイ・ラッドに話を聞いた。
「ブルースは最初フォードのZetecエンジンを使っていたんだけど、ボンネビル初参戦でブローしてしまったんだ。それで代わりの2.0Lエンジンをリサーチしてたら、うちの従業員にドリフトをやってる奴がいてね。それならホンダのK型が良いよって言うんで調べてみたら、1000hpオーバーのドラッグマシンなんかがゴロゴロいて、おい何だよコレって(笑) Zetecも400hpは出てたけど、4ピストンレーシングのコンプリートは1500hp対応って言うんだから、もう即決さ!」。

そんな感じでトロイがポチった4ピストンレーシングのK20コンプリートエンジンは、ブレット・レース・エンジニアリング製のビレットブロックがベース。強化型のピストンやコンロッドなどが組まれた状態で出荷されるレーシングユニットだ。



トロイはそれをモデルAの細長いエンジンルームに縦置きすると、ワンオフのエキマニとギャレットのタービンをドッキング。車両前方には水冷式インタークーラーとオイルクーラーを備える。
一方、運転席の右隣に隠れる30ガロンのクーラントタンクから常時水を回すため、ラジエターは装備されていない。エンジン制御はフルコンのLINKエクストリームを使用。大会中に制御マップの変更が必要になった時は、セッティングを担当したオレンジカウンティのアンライバルド・チューニングからオンラインでデータが送られてきたそうだ。

駆動系にはジェリコのクラッチレス5速ミッションとスピードウェイ・エンジニアリングのクイックチェンジを使用。

ホイールには、空気抵抗を減らすエアロディスクを装着。参戦するのはBGMR(B=過給機付き、G=ガソリン、M=モディファイド、R=ロードスター)クラスで、レギュレーション上、カウルより後ろの車体構造をイジるのはNG。そのため、フロント側を前に出してホイールベースを拡大している。
トレッドも広げて地を這うようなフォルムで前面投影面積を縮小。重量は軽すぎると逆に浮き上がってしまうため、敢えて重くしているのもボンネビルらしい特徴だ。フロントにディスクブレーキも装備するが、ゴールした後の減速にはドラッグシュートを活用する。

ロードスター・ピックアップの名の通り、運転席後方には荷台が装備されている。そのスペースを使って、前側にはオーバーフロータンクや消火器、バッテリー、レーシングスーツを冷やすためのウォータータンクを装備。ボンネビルは気温が50度を超えることもあるため、ドライバーを冷やすことも死活問題だ。後ろ側には燃料タンクと水冷式インタークーラー用の氷水を入れるウォータータンクを備える。



ドライバーひとり乗るのが精一杯なスペースにカーキーのバケットシートが備わり、横転に備えたロールケージとレーシングハーネスも用意される。イグニッションやレーシングスーツ冷却用のスイッチ類が並ぶ中、リンクのECUから供給されるデータを表示するデジタルダッシュだけが違和感を醸し出す。クラッチレスの5速ドグミッションを空気圧で操作するエアシフターも装備するが、ダウンシフトは必要ないため、ボタンはもっぱらアップシフトにのみ使用。

ポテンシャル的には1500hpと10000rpmも見込めるが、ひとまず793hp(約803ps)/8872rpmを実現させ、2024年8月のボンネビル・スピードウィーク2024に挑んだ。そこで、まず従来のレコードだった186mph(約294km/h)をいきなり更新する196mph(約315km/h)を記録! しかし、他の参加者がそれを上回る211mphを出したため、レコードホルダーになる夢は叶わなかった。
だが、そこでK20の能力に確信を持ったトロイたちは、さらに9月28日〜10月1日に開催されたワールド・ファイナルにもエントリー。そこで、自己最速の213mph(約342km/h)を一時的に記録するものの、残念ながらエンジントラブルで失速。またもレコード更新とはならなかった。

「ロガーでは220mphまで出ていたことになっているから、今年学んだことを来年フィードバックすればレッドハットも夢じゃない。今度は絶対獲るよ」。
ホットロッドの世界には保守的な面もあるのだが、生粋のホットロッドに日本のエンジンを使うことに抵抗はなかったのかと聞くと、トロイは一蹴した。「NO,Fast is fast!(い〜や全然、速いものは速いからね!)」。

何よりもチャレンジ精神を重んじるトロイにとって、K20は最も挑戦しがいがあり、現実にクルマを一番速くさせる潜在能力を感じる素材のようだ。Kスワップはついにホットロッドの扉までもこじ開けてしまった!
PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI