「この戦闘力の高さは『ハチロクの皮を被った狼』だ!」独自ノウハウ満載の3.5L・V6ツインターボで戦うドリフト専用機

縦方向のトラクションの高さはホーシングならでは!?

あえての重量増で285タイヤを履きこなす!

「ウチに松川が来て最初に乗ったのはSC430。元々は吉岡(稔記)が乗っていたクルマで、次はAE86。これも日比野がAE85からZN6型86にスイッチすることになったから、余ったクルマだった。松川はずっとお下がりのクルマに乗っていたから、いつかアイツにも専用車を用意したいと話していたんだよ」と語るのは、今回紹介するマシンを製作したドルーピー代表の松岡さん。

そんな話が浮き上がった2014年のD1GPマシン情勢と言えば、NOSによるパワーの底上げが可能だった時代で、SR20エンジンもまだ主流。一方、2JZ-GTEエンジンを中心に大排気量の優位性も認められはじめ、翌年タイトルを獲得する川畑選手がドライブするR35GT-Rがデビューした年でもあった。

その大きな流れに触発され、ドルーピーも大排気量V6エンジンの可能性を模索し始める。そこで古くからトヨタと深い付き合いのあるチームが選んだのが、クラウンやレクサスに搭載され、当時から安く流通していた3.5L・NAの2GR-FSEだった。

「でも、最初に困ったのが強化エンジンパーツが無いこと。ネットで探したら、アメリカのモンキーレンチ。レーシングというメーカーがピストンとコンロッドを作ってて、それを注文してみた。届いた部品を見たら、ちゃんと素性の良い商品だったから、今に至るまで同じものを使ってるよ」と松岡さん。

AE85に搭載するにあたっては、エンジン高の問題解決とドリフト中の安定した油圧確保のためにドライサンプ化を実施。2015年にデビューを迎えたものの、当初はエンジンブローを繰り返したという。

「今でもそうだけどパーツが無いってことは2GRをレースに使うノウハウをどこも持ってなくて、全てが手探り。決まってメタルが流れる壊れ方をしていたけど、ブロックのオイルラインに原因があることが分かって、そこに手を加えてから全然壊れなくなった」とのこと。

ロッカーアームゆえにレブリミットの設定がシビアだったり、ブースト圧も限界を見極める必要があったものの、ノウハウを獲得した今では、何よりもスペアパーツの安さが魅力なトルクフルで使い勝手の良いエンジンという認識に変わったそうだ。

クランクシャフトは純正品を使用して排気量はそのまま、両バンクにHKS GTIII-RSタービンをセットし800psを絞り出すエンジンが完成した。なお、アクチュエーター式タービンを使用するのは、2024年シーズンのD1GPではこのマシンのみだ。

スロットルはレクサスIS Fの電子制御式を流用し、F-CON Vプロ4.1で制御。平べったく製作されたサージタンクからも分かるように、全高はAE85のボンネットギリギリだ。

入口が2つ、出口がひとつのインタークーラーは、トラストのコアを改造したもの。トランク内のレイアウトや、ベストな重量バランスが崩れることを嫌ってリヤラジエター化は行なっていない。燃料はレースガスとハイオクのハーフミックス。トランク内にはドライサンプ化のためのオイルタンクと安全燃料タンクを配置。

しばらくして、D1GPのタイヤルール変更をきっかけに、2019年からは主戦場をFDJに変更。2020年にシリーズ6位の成績を収めるなど安定した成績を残した後、2023年にD1GPへ再び活躍の場を移すこととなった。

しかし、復帰シーズン当初は「エンジンパワーとタイヤのバランスが合わなかった」と予選敗退を繰り返してしまう。このAE85はエンジン込み1100kg台という軽量な車体のため、レギュレーションにより265幅以下のタイヤで戦う必要があった。NOSを使用していたFDJ時代とパワーバンドが異なったことで、それまで良かったディレッツァZIIIの255/40−17とのバランスが崩れてしまったのだ。

そこで、2023年最終戦のお台場を前に、チームは思い切った変更を行なう。ドアパネルをFRP製から純正の鉄製に戻し、ボディ各部に補強を追加。さらに、バラストを追加することで車重を1200kg前半に約60kgの増量を実施。これにより、使用可能なタイヤサイズを285にアップし、銘柄もディレッツァよりハイグリップなβ02を選択できるようになったのだ。すると、これが功を奏し、直後のお台場ではその年の最高位となる7位で予選通過を果たした。

かつてチームに所属していた日比野選手からの勧めもあり、2023年から&Gコーポレーションの“マジギレくんナックル”を使用。コーナー進入の奥ギリギリでパキンと振り出して、転がるフロントタイヤをアクセルでコントロールする理想の走りを目指すためだ。

ドライバーに合わせたベストな減衰特性を特注できること、トラクションが掛かりしっかりと前に進ませられるDG-5の車高調はチームで信頼を寄せる足。ショックの位置関係などはこれまでのノウハウからくるドルーピーのオリジナルレイアウト。

駆動系は、ホーシングのまま素早いデフ交換が可能なクイックチェンジの汎用キットを溶接加工。ドリフト中のコントロール性に劣る部分はあるが、縦にクルマを押し出す力はダブルウィッシュボーン以上でホーシングのジオメトリー特性は一長一短だそう。

コクピットは、デフィの集中メーターをメインにダッシュボードはカーボンでワンオフ。ドライビングに集中できるレイアウトを構築した。パワステはカヤバ製の電動油圧タイプを使用している。サイドブレーキは縦引きだが、ドライバーの操作しやすい位置へ移設済みだ。

2024年シーズンは予選通過が一回に留まったものの、追走でのベスト8進出を達成するなど存在感をアピール。D1GPに返り咲いて3年目となる2025年は、このマシンがデビューしてからちょうど10年目となる節目にも当たる。

果たして最古参のAE85が最新車両を打ち負かす姿が見られる日が訪れるのか。ネオクラ好きからも大きな期待が寄せられるシーズンとなりそうだ。

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TEXT:Miro HASEGAWA (長谷川実路) /PHOTO:Miro HASEGAWA (長谷川実路) &Daisuke YAMAMOTO(山本大介)

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