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チタンボルトの効力は軽量化だけじゃない!
かつて高橋国光氏も在籍していた鈴鹿の名門バイクレースチーム、FCCテクニカルスポーツ出身で、現在はW124やW201などネオクラシックメルセデスのチューニングを手がける“ガレージえちごや”代表の皆口昌彦。ホンダレーシングやHRC、ヨシムラ、モリワキなどとも親交が深く、そこでパーツ開発やエンジンの組み方など、『速さと強さに直結する方程式』を存分に吸収。ガレージえちごやとして独立後はその方程式を応用しながら、メルセデスベンツのチューニングを手掛けつつ、フェラーリデイトナやF40、トヨタ2000GT、ロータスヨーロッパなど国籍を問わず、往年の名車のエンジンを700基以上組んできた実績も持つ理論派チューナーだ。そんな彼が語る、チタンボルトの効果とは。

「チタンボルトは旧車にこそ相応しいパーツと言える」皆口
2万点とも3万点とも言われる部品の集合体であるクルマは当然、ボルトがなければ成立しないわけで、その重要性をもっと知ってもらいたい。
ウチではエンジンを始め、ボディ、シャシー、駆動系、足回りなどの要所にはできるだけチタンボルトを使うようにしている。その理由は三つ。強度的に優れている。軽量化を実現する。でも、一番の理由はテクニカルスポーツ時代、HRCのワークスマシンではほとんどの部分にチタンボルトが使われているのを実際に見たから。機能性の高さだけでなく、見た目にもカッコ良いんだから、それを使わない理由はない!

そんなチタンボルトを使うようになったきっかけは、W124メルセデスベンツ500Eのリヤサスメンバー固定ボルトが錆びているのを発見したから。このボルトは、モノコック側メインフレームに切られたネジに直接締め込むけど、ボルトが錆びていれば、同じスチールでできたメインフレームもいずれ錆びてしまう。ボディの骨格が錆びると厄介だから、その対策として純正ボルトに代えて、錆びる心配がないチタンボルトの出番になったというわけ。
また、錆びない以外にも大きな効能がある。まずチタンには二種類あって、一つが原発にも使われるほどの強度を誇る『64(ロクヨン)チタン』。その素材を手に入れてオリジナルで作ったボルトをウチでは使ってる。64チタンはスチールやアルミのように伸びたりしないから、締結剛性が劇的に向上。つまり、純正ボルトと交換するだけで補強にもなるというわけ。それって凄いと思わない?

ただ、64チタンは非常に高価。純正ボルトが一本100数十円なのに対して1000円以上もするからね。それと通電性が悪いから電気を通すところには使えないんだ。それでも見た目にかっこいいから目に付くところはつい交換したくなるし、長く乗るつもりなら機能面での価値は十分すぎるほどあると思う。

もう一つが『純チタン』。その名の通り混ぜ物がなくて、64チタンに比べるとはるかに軽く、単価も安い。けど、強度的に劣るから使用箇所が限定される。ハーネスを留めたりするにはいいけど、大きな応力が掛かるところに使うのはNGだね。

ちなみに、以前ATマウントをボディに固定するM12ボルトを64チタンで製作。強度があることと、どうせ作るなら軽さにも徹底的に拘りたくて、本来なら最低でも17mmとする頭を10mmで設計してみた。すると、何が起こったか。規定トルクが掛かる前に、なんとソケットの方が割れちゃったんだな。スチールボルトだったら、頭がねじ切れるのに。それだけ64チタンボルトは強いってこと。そういうわけで、M12ボルトの頭は10mmでなく11mmに変更したのでありました。

これはブレーキキャリパー固定ボルトをチタン製に置き換えた例。乗り出してすぐに、ペダルタッチがリニアになるだけでなく、フロント周り全体の剛性がアップしていることがわかると好評なメニューだよ。

チタン材を使うのはボルトだけじゃない。うちのオリジナル車高調のフロントアッパーはピロ内蔵部が純チタン製、アッパーマウントを固定するナットやキャンバープレート用ボルトは64チタン製。スチールやアルミとは振動特性が変わるため、チタン仕様専用のセッティングを施している。
ボルトに限らず、えちごやではマニアックなことをたくさん手掛けているから、また次回以降紹介させてもらえたらと思います!
⚫︎REPORT:廣嶋健太郎
⚫︎取材協力:ガレージえちごや 愛知県一宮市北神明町2-30 TEL:0586-85-8954
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