目次
時空を超えたワイドボディ
ステップアップも考慮された高機能キット
世界中のホンダフリークを魅了し続けるS2000。エンジンからフレームまで全て専用設計という贅沢な作りは、コストや効率が優先される現代においては実現不可能とすら言える。そのバランスに優れたパッケージから産み出されるソリッドな走りに磨きを掛けるべく、多くのチューナーがカスタマイズに着手してきた。
とはいえ、すでに登場から20年以上が経過。もはやネオクラシックの域に達しているだけに、やり尽くした感があったのも事実だろう。

しかし、チューニングの世界は日進月歩で進化を続けている。新たに生み出されたマテリアルもあれば、20年前にはなかったチューニング手法もある。そうした最新トレンドを意欲的に取り入れた令和流のS2000メイクに挑んだのが、エアロブランドの“バリス”と岡山のプロショップ“オリジナルランデュース”だ。

「海外からのオファーが少なからずあったこともあり、5年ほど前から新しいボディキットを作ろうという構想はありました。ただ、S2000用のワイドボディは多くのメーカーさんが手掛けていたので、中途半端なものは作れないというプレッシャーもありましたね。ここ数年は、新型スポーツの登場が続いたこともあり、なかなか手が付けられませんでした」とバリスの矢萩さん。
ランデュース代表の浅田さんも「いつかは理想とするS2000を作ってみたい」という思いを胸に秘めていたようだ。画期的なメカニズムを持つF20C/F22Cユニットを積み込んだ素性の良さに加え、オープンモデルである点にも惹かれた。「クルマとバイクの中間的な楽しさもあるし、重量バランスがよく速さも兼ね備えています。素材としてとても魅力的だなと」と話す。
テーマに掲げられたのは、ストリートでもサーキットでもカッコ良く楽しく走れること。闇雲にタイムを追い求めるのではなく、スタイルと速さを高次元でバランスさせた仕様だ。


そこで、導き出されたエアロフォルムは、アグレッシブなデザインでありながら、抜群の一体感を醸し出している。洗練されたGTスタイルとでも言えようか。まさにS2000メイクの新境地である。
フロントバンパーは40mmほど前方に延ばした上、エアダムを設けることでカナードに頼らずダウンフォースを生みだす形状に。冷却パーツの効果をより引き出すべくダクトの意匠にも拘った。さらに、軽量なカーボンボンネットも用意。こちらはエンジンルームの熱を効果的に排出できるダクト付きだ。



ワイドボディについても然り。大胆にスリットを入れながらレーシーになりすぎないように配慮されているのも秀逸だ。
「実はこのボディキット。フロントは片側20mmのセミワイドボディの上に、さらに20mmワイドのオーバーフェンダーを追加する仕様となっています。ですので、徐々にステップアップすることも可能ですし、純正バンパーと組み合せることもできます」と矢萩さん。つまり、好みのスタイルにアレンジできるのだ。


リヤバンパーやディフューザーにより、存在感を高めたリヤセクション。フロア下を流れる空気を積極的に後方に引き抜きつつ、リヤバンパーにはアウトレットダクトを設けることで、内部に滞留するエアを排出してドラッグを低減する。
同時に装着されたGTウイングやトランクは12Kカーボン製。台座は3Dスキャナーなどを活用して製作されたという。職人によるモノ作りに拘るバリスだが、最新ツールも積極的に活用することでさらなる品質向上を図っているというわけだ。

もちろん、中身の作り込みも余念はない。F22Cユニットはあくまでストリートが主体ということで、扱いやすさと速さを兼ね備えたスペックが与えられた。HKSのスーパーチャージャーをドッキングし、インジェクターや燃料ポンプを強化。フラッシュエディターで制御データを最適化することで、最高出力は350㎰を発揮する(ダイナパック計測)。サーキット走行に備えて、DRLアルミラジエーターやHKSオイルクーラーを装備するなど、クーリング対策も万全だ。
足回りはHKSハイパーマックスRを軸に構成。ワイドトレッド化に伴い、スプリングレートは前後16kg/mmまで高められた。街中での乗り心地にも配慮し、スプリングはHALの低反発タイプを組み合わせる。イケやフォーミュラの調整式アームも装備し、アライメントを適正化。S2000の持ち味である旋回性能のさらなる向上を図っている。
ブレーキはオリジナルの鍛造4ポットキャリパーを導入。Biotの330φローターを組み合せる。制動力には余裕があるため、コントロール重視のZONEパッドで効きを最適化していくとのこと。


シンプルにまとめられたコクピット。シートは高剛性かつ軽量なフルバケットタイプのレカロRMS2600Aに変更。サーキット走行に備えてロールケージも組み込まれた。過給機付きということでエンジンのコンディション管理も抜かりなく、デフィーのDSDFを純正メーター位置にマウント。スマートに水温や油温、油圧などの情報を常にチェックできる環境を整える。あくまでストリート仕様ということで、エアコンやオーディオなどの快適装備はそのままだ。

このボディキットに与えられた『ダークパンサー』というネーミングには、ストリートを快適に、そしてサーキットではさらりと好タイムをマークする…という想いが込められている。令和に産声を上げたこのチューンドを目の当たりにして、そんなS2000メイクの新境地を垣間見たような気がした。
●取材協力:バリス TEL:042-689-2939
【関連リンク】
バリス
http://varis.co.jp