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オーストラリアやアメリカのタイムアタックに参戦!

奇跡の4気筒フェラーリ、その名は244GTK!
アメリカ発のカスタムカルチャーとして、日本でも知られる存在となった「Stance(スタンス)」。要するにアメリカ版のシャコタン文化だが、スタンスという表現が広がりを見せるのに貢献したひとりが、スタンス・ワークスのマイク・ボロウズだ。

スタンス・ワークスの始まりは、マイクが2009年に開設したブログサイト。「当時はインターネットのフォーラムが流行ってたんだけど、情報がごちゃ混ぜだったから自分なりにブログで整理しようと始めたのがきっかけだったんだ」と、マイクは言う。
そのブログはいつしかマイクが製作したクルマの発表の場へと変化していき、V8スーパーチャージャーを搭載したフォードモデルA、SEMAに出展したE28型のBMW5シリーズなどが出世作となった。そして現在、スタンス・ワークスは登録者数38万人のYouTubeチャンネルへと成長している。

そんなマイクが今、最も注力しているのがタイムアタック。自分の手で速さを追求するマシンメイクのベースに選んだのが、フェラーリの308GTBiだ。

手に入れたのは切り刻むのがもったいないほどの極上車だったそうだが、マイクはそのエンジンルームからフェラーリ謹製のV8を引きずり出すと、なんとホンダのK型エンジンへとスワップ! 当初はトルクに勝る2.4LのK24型を使用し、オーストラリアのワールドタイムアタック、アメリカ国内で開催されるグローバルタイムアタックなどに参戦した。
308GTBiは3.0LのV8を搭載していることが名前の由来のため、マイクはK24を搭載したフェラーリを244GTKと命名。現在は高回転とハイブーストを重視し、敢えてショートストロークのK20型へと載せ替え、新シーズンに向けての準備を進めている。

マイクがパワーソースにK型を選択した理由はいくつかあるが、特に注目したのが重量。実際に計測してみるとフェラーリのV8が385kgで、ノーマルの最高出力が204psだったのに対して、当初使用したK24はわずか140kg。チューニング次第で1000ps以上も実現できるため、タイムアタックで結果を出すためには最適な選択だという。


後方に向かって伸びるカスタムメイドのターボマニホールドにターボスマート製6262タービンをマウント。エンジンの左隣にあるのが水冷式インタークーラー。その内部を循環する水を冷やす空冷インタークーラーも車両前方に装備されている。プラックワークスのカーボン製インテークにはボッシュの電子制御スロットルが備わり、ドライブバイワイヤを実現。オルガン式のアクセルペダルはE46から流用し、燃料には110オクタンのレースフューエルを使用している。エンジンはデイリー・エンジニアリングのキットでドライサンプ化されており、油温上昇もしっかりと抑えられている。

K型を載せるためのフレーム加工やマウントの製作、アライメントを調整できるように作ったオリジナルのダブルウィッシュボーン式サスペンションなど、大半のカスタムワークはマイク自身が行なった。トランスミッションはクワイフの5速シーケンシャルを使用し、カスタムメイドの強化型ドライブシャフトも採用。ホイールハブは強度に勝るC6コルベット用を流用している。

ホイールはロティフォームのROC-Hというモデルで、タイヤはファルケンが海外市場向けに展開しているアゼニスRT660を組み合わせる。308GTBiのPCDは5H-108だが、C6コルベットのホイールハブに変更されているため、5H-120となっている。ブレーキはフロント6ポット、リヤ4ポットの鍛造キャリパーと2ピースローターを組み合わせる、APレーシングのプロ5000Rを使用。バネ下の軽量化と強力なストッピングパワーを実現している。



リバティーウォークのワイドフェンダーを装着し、タイムアタックマシンらしいスタンスを実現。さらに、カーボンで作られたRSフューチャーのフロントスプリッター、サイドスカート、リヤディフューザー、リヤウイングも備え、空力性能を高めている。ちなみに、エンジンカバーやサイドマーカーの周囲、ホイールのスポークといったディテールに施されているのは、ガンダムにインスパイアされたグラフィック。タイムアタックマシンとモビルスーツを重ね合わせている。



ロールケージに囲まれたコクピットは無骨な雰囲気。レーステックのバケットシートの他、ハルテックのIC7デジタルダッシュ、PDMのスイッチなど、走りに必要なものだけで構成され、バルクヘッドにはエンジンの制御を司るハルテックのネクサスR5がマウントされている。クワイフのシーケンシャルシフターも備わるが、撮影後のアップデートでパドル式のエアシフターも導入したようだ。

タイムアタックにこだわる理由を聞くと、「ビルダーとしてのスキルとドライバーとしてのスキルを高めるのが目的。自らをプッシュし続けて、常に向上することが人生の目標なんだ」と教えてくれた。
「国内のタイムアタックには今後も出場し続ける予定だけど、いつか日本のアタック筑波にも出てみたい。それが僕のバケットリスト(死ぬまでにやり遂げたいこと)のひとつだよ(笑)」。

スタンスが日米で語られる共通語になることに図らずも貢献したマイク。その意欲作であるKスワップフェラーリが、筑波の空に快音を轟かせる日がやって来ることを願ってやまない。
Photo:Akio HIRANO Text:Hideo KOBAYASHI