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AE86でドライビングテクニックを磨いた生粋の走り屋!
開発に携わったGR86にはAE86の要素も注入!
旧車人気の高まりによって、かつてのように気軽に楽しめる存在ではなくなってきたAE86。しかし、このクルマが“走り屋入門機”の代表格だった時代にメカニックとしてのキャリアをスタートさせ、同時にFRのドライビングテクニックを身につけたのが、レーシングドライバー・佐々木雅弘選手だ。
現在はTOYOTA GAZOO Racingでの活躍をはじめ、新型車の開発にも関わるなど多忙な日々を送る佐々木選手。その彼が自身の愛車を通して語る、新旧ハチロクへの想いとは。
「AE86は“憧れの一台”じゃなかった。でも原点だった」

「AE86は、僕らの世代ではみんな乗っていましたよ。先輩が5万円で譲ってくれたり、10万円で買えたりして、とにかく練習用には最適なクルマでした。チューニングパーツも豊富で、いろんなことを試せたし、壊してもまた買えばいい。メカニックとしてのスキルも自然と身についた。そういう意味では、自分にとっての原点のようなクルマです」。
そう語る佐々木選手だが、AE86を「良いクルマ」とは当時は思っていなかったという。
「すでに古い車だったし、正直“良いクルマ”なんて言えるものじゃなかった(笑)。でも、その不完全さが逆にドライビングを磨くにはちょうどよかったんですよ」
当時はドリフトブームの真っただ中。シルビアのようなターボ車が欲しくても、手が届くのはAE86という若者も多く、FRに乗りたいという思いをAE86で叶えていたのだという。

「何度も手放して、やっとたどり着いた“今のAE86”」
「実は今までに何台もAE86を手に入れては手放してきました。思いついたら買って、乗ってみて“やっぱり遅いな”と思ってまた手放す。その繰り返し。でも、今思えば、万能ではないAE86に幻想を抱きすぎていたのかもしれません(笑)」。
そんな試行錯誤を繰り返した佐々木選手が、今改めて手に入れたAE86は、これまでとは一線を画す“本気の一台”だった。

「今回は、まずボディを完全に裸にしてフル補強を入れました。エンジンは1600ccのまま、ハイカム&ハイコンプ仕様で抑えめのスペック。でも、そのぶん全体のバランスがしっかり取れて、すごくいいクルマになったんです。出力はたった150psくらい。それでも軽快に振り回せて、走る楽しさがすごくある。びっくりしましたよ」。
速さよりも、気持ちよく走れること。今回のAE86を仕上げていくなかで、佐々木選手は改めてその魅力に気づいたという。

「今までのAE86は、安いベースに中途半端な仕上げ方ばかりしていたから、本当の良さを感じられていなかった。でも、きちんと作れば、AE86って本当に楽しいクルマなんだと気づきましたね。特にボディの作り込みが重要だと実感しました」。
「GR86には“ハチロクらしさ”を詰め込みました」

GR86の開発にも携わった佐々木選手。そのコンセプトにも、AE86への想いが色濃く反映されている。
「僕が開発に関わったGR86では、“走って楽しいハチロク”を再現したかったんです。重厚なグランドツアラーじゃなくて、キビキビ動くハンドリングマシン。だからステアリングの情報量を増やして、アクセルを踏んだ瞬間に車が反応する、そんなFRスポーツに仕上げました」。
「リヤが出ても“怖くない”。それが理想のFR」
「重要なのはリヤのトラクションです。グリップして走るだけじゃなくて、コントロールできる範囲で滑る。それがハチロクらしさ。ドライバーが“今の動き、うまく操れた!”って思えたら、思わずニヤっとするんですよ。そんな楽しさをGR86にも盛り込みたかったんです」。
「唯一、妥協せざるを得なかったのが“車高”」

「GR86の足まわりは本当によくできてるんですが、やっぱり市販車なので、車高はちょっと高い。そこだけはどうしても納得できなかったので、純正ダンパーの性能を活かしつつ、車高だけ30mm下げられるオリジナルのダウンサスを開発しました」
そのダウンサスを装着した佐々木選手のGR86は、ノーマルエンジンながら筑波サーキットで59秒台を記録しているという。
「スタイルにも走りにも“らしさ”を」


エクステリアには自身がプロデュースしたグローデザインのリップスポイラーやオーバーフェンダーを装着。片側9mmワイドで車検対応もOKだ。サイドステップなども含め、全体のスタイリングは自ら手がけている。

マフラーはグローデザインとフジツボのコラボモデル。ノーマルバンパーに対応しつつ、スポーツカーらしいサウンドも楽しめる仕様だ。
「チューニング魂は今も健在」


佐々木選手が所有するGR86は2台。今回紹介した自然吸気(NA)のファインチューン仕様に加え、もう1台はHKSのターボキットを搭載したハイパワー仕様だ。気になるパーツや仕様はすぐに試してみたくなる、チューニングカー育ちの本能は今も変わらない。

ボンネットはニュルブルクリンクで性能を実証したドライカーボン製で、今後オリジナル製品として販売予定だという。
「“走りの楽しさ”を提供するショップを目指して」


佐々木選手は、GRガレージGROW盛岡の経営にも携わっている。新車ディーラーやチューニングショップの枠を超え、質の高いカスタム&チューンを提供。さらに、オリジナルのエアロパーツやサスペンションなども開発している。
もちろん、佐々木選手自身が代表を務めるショップだけに、モータースポーツへの参加アドバイスも期待できる。

AE86のデビューからおよそ30年。機械としての構造は異なっても、“走る楽しさ”というスピリットはGR86にしっかりと受け継がれている。
もしかすると、今からさらに30年後、GR86もまた「伝説の名車」として語り継がれているのかもしれない。
⚫︎取材協力:GR Garage GROW盛岡 岩手県紫波郡紫波町高水寺字稲村27-1 TEL:019-676-2330
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