「4A-Gエンジンで常用1万1000rpmを実現!」OS技研が開発を進める『4/7AGキット』の全て

4A-G高回転化の切り札!

7Aブロックを使用することで理想的な連桿比を実現

シリンダー内で混合気を燃焼(爆発)させ、その力で押し下げられるピストンの上下運動を、コンロッドを介してクランクシャフトの回転運動へと変換するレシプロエンジン。その構造からストローク時にピストンが首を振り、シリンダー側壁に押し付けられるサイドフォースが発生する。それは言うまでもなくフリクションだから、スムーズなエンジンフィールや高回転化を望むなら、サイドフォースをできるだけ抑えることが非常に有効な手段となる。

そこに注目して開発されたのが、削り出しクランクシャフト、鍛造I断面コンロッド、鍛造82φピストンで構成されるOS技研の『4/7AGキット』だ。ピストンのサイドフォースには、コンロッドの芯間距離をクランク半径(ストローク量の半分)で割った“連桿比”が深く関係する。その数値が大きいほどピストンの首振りが減少し、サイドフォースも小さくなる。

「まともに設計されたエンジンなら、連桿比は最低でも3.3くらい。安全マージンを見るなら3.5以上が理想なんやけど、ノーマルの4A-Gの連桿比は3.16しかない。ストロークアップした5.5A-G仕様に至っては2.9という、とんでもない数値になる。それで常用8000~9000rpmとか、よく壊さんで乗ってると思うわ。ちなみに、旧いエンジンでは日産L18が3.4、新しめだとホンダF20Cが3.5。F1用エンジンになると5.0とかあるんよ。そら、無理しなくても回るエンジンになるわな」とは、4/7AGキットの開発に携わったオフィストミタク代表の富松さん。

そこから分かるのは、そもそも4A-Gの設計に無理があるということ。それもそのはず。本来、排気量1.3Lで開発された2Aをベースに、ストローク量を71.4mmから77.0mmまで実に5.6mmも延ばしているから。2Aも4Aもシリンダーブロック自体は共通だから、ストロークが延びた分はコンロッド長(芯間距離)を詰めて帳尻合わせするしかない。結果、連桿比が小さく、つまりはサイドフォースが大きくなるわけだ。その問題を解決する4/7AGキットは、4Aとボアピッチが同じで全高が15mm高い7A用シリンダーブロックへの組み込みを前提に設計される。

富松さんが言う。「普通7Aブロックを使うんは排気量アップを目的にしとると思うけど、このキットでは根本的な考え方が違う。あくまでも排気量は1.6Lのまま、連桿比を改善するためなんよ。結果的にパワーもついてくるけど、一番の狙いはエンジンに掛かる負担を軽くしての高回転化。1万1000rpmまでは普通に回せると思う。それとレスポンスやフィーリングの改善も、やね」。

ここでポイントになるのがコンロッドの芯間距離。純正に対してOS技研製は18.5mmも長い設計となる。一方、ストローク量は77.0mmでノーマルと変わらないことから、連桿比は3.16から3.65へと劇的に改善される。ただし、芯間距離が延びたことで4A用ブロックでは上死点でピストントップが大きく飛び出してしまう。そのため、高さに余裕がある7A用ブロックの出番となるわけだ。

左:4A-G純正/右:4/7AGキット
ボア径は純正81.0φに対して、4/7AGキットは1mmオーバーサイズとなる82.0φの設定。デモカーに組まれたフラットトップのSPL品とは異なり、ピストントップは凸形状が採用される。尚、OS技研では12.5:1前後の圧縮比を推奨。それに伴い、燃焼室加工やヘッドガスケット厚の調整といった作業がマストとなる。
4A-Gの燃焼室。バルブシートリング端面からスキッシュエリアまでの距離はインテーク側(黄色い矢印の間)よりもエキゾースト側(赤い矢印の間)の方が広い。そこでOS技研デモカーに載るエンジンでは、その距離を均一化しつつ、よりコンパクトな燃焼室を実現するために斜め面研を実施。燃焼効率の改善を図る。

また、OS技研のデモカーであるAE86に搭載されるエンジンは、富松さんが提唱する“トミタク燃焼理論”に基づいて各部をリファイン。バルブリセスだけを彫った完全フラットトップのワンオフ82φ鍛造ピストンを組み込み、コンパクトかつ理想的な燃焼室形状を生み出すためにシリンダーヘッドが斜めに面研される。これで圧縮比は12.2:1の設定となる。

「フラットトップのピストンを使う理由は大きく二つ。トップが盛り上がってると燃焼に影が出て、混合気がキレイに燃えないことが一つ。もう一つは、オーバーラップ時にトップの凸形状が壁となって掃気の邪魔をしてしまうんよ。そのへんを考えると、トップが山みたいな、いわゆるハイコンプピストンで圧縮比を上げるんは今時じゃないと思う」と富松さん。

さらに、オーバーラップを大きく取ると実質的な圧縮比が下がってしまうことを嫌い、カムシャフトの作用角はインテーク側310度、エキゾースト側290度を選択する。こうして燃焼状態と吸排気の流れを最適化することで、パワー&トルク特性やレスポンスに優れるのはもちろん、低燃費で排ガスもクリーンと、全方位で絶大なメリットを生み出しているのだ。

クランクシャフトを比較する。クランクジャーナル径は共に48φ。A系シリンダーブロックを使う以上、その寸法は変えられない。一方、4/7AGキットのクランクピン径は4A-G純正42φから48φへとサイズアップ。クランクジャーナルとのオーバーラップが大きくなることで剛性が向上し、高回転域での振れを抑え込む。

回転に伴う変動負荷が大きい4気筒エンジンのカムシャフト。それを軽減するためにカムスプロケットが製作された。クロモリ鋼からの削り出しでずっしりとした重量感があり、フライホイール効果を狙うわけだ。

OS技研の試作ディストリビューター。L型4気筒/6気筒用、S20用はすでに販売中で、高回転域での確実な点火を実証している。今後4A-G用の他、日産A型用も発売予定。プラグコードもOS技研オリジナル。

クランクプーリーはオフィストミタクオリジナルのクロモリ削り出し。サーキット仕様のデモカーはエアコンコンプレッサーを駆動する必要がないため、シングルプーリーとされる。打ち消し側ウエイトをたっぷり取ることで高回転域でも滑らかなエンジンフィールを実現。

燃料供給はツインで装着されたイタリア製ウェーバー45φDCOE9が担当。セッティングさえきっちり取れれば、電子制御インジェクションには真似できないスロットルレスポンスと吸気音を楽しませてくれる。ファンネルはオフィストミタクオリジナルが組み合わされる。

ここで一つ付け加えておきたいのは、7A用シリンダーブロックにこのキットを組むだけでは性能を存分に引き出せないということ。4/7AGキットはあくまでも素材であり、シリンダーヘッドの加工や補機類の見直しが必須で、そこはエンジン製作を手掛けるチューナーの腕や実力に委ねられる。

「世の中は完全にEV化の流れになっとるけど、内燃機関にはまだまだできることが残されとるし、伸び代だって十分あると思う。ボクはそこを追求していきたいんよ」。

独自の燃焼理論に基づき、その有効性を自らの技術と経験、何よりチャレンジ精神で実証してきた富松さんの言葉だけに説得力は十分。だからこそ近日中の発売を目標に開発が大詰めを迎えている4/7AGキットにも、期待が大きく膨らむというものだ。

1 / 16

「「4A-Gエンジンで常用1万1000rpmを実現!」OS技研が開発を進める『4/7AGキット』の全て」の1枚めの画像

2 / 16

「「4A-Gエンジンで常用1万1000rpmを実現!」OS技研が開発を進める『4/7AGキット』の全て」の2枚めの画像

3 / 16

「「4A-Gエンジンで常用1万1000rpmを実現!」OS技研が開発を進める『4/7AGキット』の全て」の3枚めの画像

4 / 16

「「4A-Gエンジンで常用1万1000rpmを実現!」OS技研が開発を進める『4/7AGキット』の全て」の4枚めの画像

5 / 16

「「4A-Gエンジンで常用1万1000rpmを実現!」OS技研が開発を進める『4/7AGキット』の全て」の5枚めの画像

6 / 16

「「4A-Gエンジンで常用1万1000rpmを実現!」OS技研が開発を進める『4/7AGキット』の全て」の6枚めの画像

7 / 16

「「4A-Gエンジンで常用1万1000rpmを実現!」OS技研が開発を進める『4/7AGキット』の全て」の7枚めの画像

8 / 16

「「4A-Gエンジンで常用1万1000rpmを実現!」OS技研が開発を進める『4/7AGキット』の全て」の8枚めの画像

9 / 16

「「4A-Gエンジンで常用1万1000rpmを実現!」OS技研が開発を進める『4/7AGキット』の全て」の9枚めの画像

10 / 16

「「4A-Gエンジンで常用1万1000rpmを実現!」OS技研が開発を進める『4/7AGキット』の全て」の10枚めの画像

11 / 16

「「4A-Gエンジンで常用1万1000rpmを実現!」OS技研が開発を進める『4/7AGキット』の全て」の11枚めの画像

12 / 16

「「4A-Gエンジンで常用1万1000rpmを実現!」OS技研が開発を進める『4/7AGキット』の全て」の12枚めの画像
左:4A-G純正/右:4/7AGキット

13 / 16

「「4A-Gエンジンで常用1万1000rpmを実現!」OS技研が開発を進める『4/7AGキット』の全て」の13枚めの画像

14 / 16

「「4A-Gエンジンで常用1万1000rpmを実現!」OS技研が開発を進める『4/7AGキット』の全て」の14枚めの画像

15 / 16

「「4A-Gエンジンで常用1万1000rpmを実現!」OS技研が開発を進める『4/7AGキット』の全て」の15枚めの画像

16 / 16

「「4A-Gエンジンで常用1万1000rpmを実現!」OS技研が開発を進める『4/7AGキット』の全て」の16枚めの画像

●取材協力:オーエス技研 岡山県岡山市中区沖元464 TEL:086-277-6609

「このAE86は30年の集大成だ!」極まったNAメカチューンで筑波最速クラスの速さ実現!!

「戦闘力はフルチューンAE86と同等!?」AE70型スプリンタークーペの最先端5.5A-G仕様がヤバすぎる!

【関連リンク】
オーエス技研
https://osgiken.co.jp/

キーワードで検索する

著者プロフィール

weboption 近影

weboption