「変態アイテム、純正ハードトップを装着したマイティボーイを捕獲」まさかの2速AT! 新車価格50万円以下の珍作

超人気モデルだと思っていたのに生産台数は2万3000台だったという事実

下でネバるエンジン特性、車重540kgは超絶軽い!!

2代目セルボをベースとして、リヤセクションをピックアップに仕立てたマイティボーイは1983年2月に登場。直3SOHCキャブ仕様のF5Aを搭載し、カタログ値28ps/4.2kgmと、思わず笑ってしまうスペックだ。

ユーザー層をかなり限定する2シーターの商用4ナンバー車だけに、てっきりシングルグレードだと思っていたのだが、実は「アルト47万円!」のさらに下を行く衝撃価格、45万円の廉価グレードPS-Aと、装備充実49.8万円の上級グレードPS-Lが存在し(いずれも4速MT)、遅れて2速ATのPS-QLが追加。都合3グレードで展開していたのだ。

後、1985年2月のマイナーチェンジでヘッドライトが丸型から角型に変更され、フロントグリルもデザインを一新。エンジンスペックは31ps/4.4kgmに向上し、PS-Lはホイール&タイヤのサイズアップ(10→12インチ化)やフロントディスクブレーキ化の他、5速MTが搭載されるなど、結構な手直しが行われた。

取材車両は角型ヘッドライト+2速ATの後期PS-QL。少し車高を下げて、今時あまり見かけなくなった爆音系の砲弾型マフラーに交換されているが、それ以外はノーマル状態をキープ。良く言えば貴重な、悪く言えばなぜこのような改造をしたのか謎な1台だ。

ボンネットの下に収まるのは、550ccのF5A型。1978年、フロンテに初めて搭載されたエンジンだ。同じエンジン型式で、2バルブSOHCインタークーラーなしターボ(キャブ)/同インタークーラー付きターボ(EPI)、3バルブSOHCスーパーチャージャー、4バルブDOHC/同インタークーラー付きターボと多くの仕様が存在した。

この車両を取材するに至った理由は2つ。まずひとつ目は2速ATということ。1速で発進し、一度シフトアップしたらそれっきり…。一体どんなフィーリングなのだろうと気になったからだ。

実際、この2速ATは街乗りに限定すれば我慢できるレベル。多段化が進み、トヨタやホンダが10速ATを実用化など言っている今の時代、2速ATは歴史の生き証人として重要文化財に指定されても良いレベルだと思う。

もうひとつは、これまで見たことがない純正オプションのハードトップを装着していたからだ。このハードトップ、装着するとピックアップならではのスタイリッシュで軽快感溢れるサイドビューが一瞬で崩壊する。

当時の純正オプションカタログによると、FRP製の本体にアクリル製サイドウインドウと脱着式ガラスルーフを備え、9万7000円也。この値段設定、車両価格の5分の1にも相当するわけで、恐らく購入者は非常に少なかったはず。だからこそ、程度極上の状態でこうして残っていることが奇跡としか言いようがないのだ。

細部を見ていく。ダッシュボード周りは非常に程度が良くノーマル状態をキープ。右前のタイヤハウスに押しやられ、アクセル&ブレーキペダルは大きく左側にオフセットしていることが分かる。

スピードメーターは120km/h、タコメーターは8000rpmフルスケールで6500rpmからがレッドゾーン。その間に燃料計と水温計が上下に配置される。

上段からマニュアルエアコン、AMラジオ&灰皿、エアコン吹き出し口&シガーライターが並ぶセンターコンソール。一応、最低限の快適装備は備わっている。

シートは、全面ビニール生地で平板なPS-Aに対して、PS-L/QLではハーフモケットを採用。サイド&ニーサポートも張り出したスポーツタイプが標準となる。

想像以上に広いシート後方のスペース。エクステンドキャブを持った今時の軽トラ、ハイゼットジャンボやスーパーキャリイ以上の余裕がある。これなら大型スーツケースも十分積めるはずだ。

居住性を重視したしわ寄せは荷台に現れている。奥行が660mmしかなく、ピックアップトラックとしては異様に短いのだ。

せっかくの機会なので、さらにハードトップの細部を見ていく。リヤガラスゲート中央下にある開閉用ノブ。いかにも昭和的な形状で、「クルマにこんな形状のパーツを使うのか」と思わずにはいられない。写真は閉まっている状態で、ノブを90度回すとゲートが開く。

一方のアオリは、左右両端のレバーを内側に倒すことでロックが解除。手前に倒すことができる。

ハードトップはステーを介して蝶ネジと10mmナットで固定。これでも取り付け強度に問題はないのだろうが、純正オプション品にしてはお粗末な感じがするのは筆者だけだろうか。

ルーフにはガラスサンルーフが設けられ、レバー操作によって脱着が可能になっている。

さらに外装を見ていくと、透明の樹脂を素材とした純正サイドバイザーを装着。マイティボーイの英文ロゴが入るなど凝った作りになっている。恐らくこれもマニア垂涎のレアアイテムだと思われる。

純正鉄ホイールはトピー製で、リム幅は「そんなのあるのね…」と思うこと確実な3.5J。そこに組み合わされるのは、純正と同じ145R12サイズのグッドイヤーG47だ。

キーをひねってエンジン始動。キャブ仕様だが、気難しさなど一切なく一発で火が入り、ブロロロロ…とアイドリングを始める。グリップの細い2本スポークステアリングに若干の心許なさを感じつつ、ATセレクターレバーでDレンジを選び発進!

とにかく走りが軽い。車検証で確認すると、車重は前軸重360kg+後軸重180kg=たったの540kgしかない。もちろん速いとは言えないし、街中で流れをリードするのも怪しいが、普段の足として乗る分には31ps/4.4kgmでも全く不満なしだ。

今でも熱狂的なマニアが存在するマイティボーイは、人気モデルに違いない。が、思いのほか少ない生産台数や2シーターピックアップゆえ、希少性や特殊性を兼ね備える。そして、トドメに2速ATと純正オプションのハードトップ…。コレは“珍車”と断言する!

■SPECIFICATIONS
車両型式:SS20T
全長×全幅×全高:3195×1395×1290mm
ホイールベース:2150mm
トレッド(F/R):—/—mm
車両重量:540kg
エンジン型式:F5A
エンジン形式:直3SOHC
ボア×ストローク:φ62.0×60.0mm
排気量:543cc 圧縮比:9.7:1
最高出力:31ps/6000rpm
最大トルク:4.4kgm/3500rpm
トランスミッション:2速AT
サスペンション形式(F/R):ストラット/リーフリジッド
ブレーキ(F/R):ディスク/ドラム
タイヤサイズ:FR145R12

TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)
●取材協力:アンティークス 愛知県安城市池浦町小山西72-4 TEL:0566-77-8500

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