「パイクス・ピークに全てを賭けた男とランエボの物語」大クラッシュを乗り越えて掴んだ栄光

「雲へ向かうレース」の異名をとるヒルクライム競技にフルチューンCT9Aで挑む!

大クラッシュから復活したランエボはまさに超人ハルク

映画化もされ、日本でもお馴染みのマーベル・コミック『超人ハルク』。主人公のブルース・バナーは、怒りの感情を爆発させた時、緑色の肌を持つ怪力の巨人、ハルクへと変身する。ハルクはどんな物でも持ち上げる圧倒的なパワーと、ケガをしてもすぐに回復する治癒能力を持ち、なんでもかんでもぶっ壊しまくる超アドレナリン・ヒーローだ。

そのハルクに見立てて、愛車のランエボ8をグリーンとブルーパープルのカラーリングに仕上げたロイ・ナルバエズは、ハルクにも負けない不屈の闘志を持った人物。

例年、独立記念日の前後にアメリカのコロラド州で開催されている『パイクス・ピーク・インターナショナル・ヒルクライム』。ロッキー山脈にある標高4301mの頂上(=パイクス・ピーク)を目指し、全長19.99kmのコースを駆け上がる大会だ。

ロイは、そのパイクス・ピークに愛車のハルクEvoで2015年から2017年まで合計3度出場。参戦プランの立案と準備は2014年からスタートさせているので、丸々3年もの間、“The Race to the Clouds(雲へ向かうレース)”の別名で知られる、度胸試しのヒルクライム競技に、生活の全てを費やしてきた。

参戦初年度の2015年は、準備不足によるマシントラブル、頂上付近の降雪によるコース途中での中断などを経験し、消化不良のまま終わってしまう。そして、ロイ自身もクルマも準備万端が整った2016年。悪夢は起こった。

練習走行を無難にこなし、予選でもクラストップ10に入る快走を見せたロイ。そこで魔が差したのか、練習走行の最終日、路面とタイヤがまだ冷えていたにも関わらずオーバースピードでコーナーへと進入。そのまま山側の壁へと激突し、車体が宙を舞う大クラッシュを起こしてしまった。幸い滑落は免れ、ロイに大きな怪我もなかったのだが、ハルクEvoは半死半生の傷を負うこととなる…。

普通であれば、それで心が折れてしまいそうなものだが、ロイは違った。ランエボを復活させ、2017年のパイクス・ピークでのリベンジを決意したのである。参戦当初、ロイにランエボ8の車体を提供し、元々パイクス・ピークに参加するきっかけを作ってくれた恩人、Road Race Engineeringのマイク・ウェルチは、ボロボロになったハルクEvoを見て、「大変だが、きっと元に戻せるだろう」と約束してくれた。

ロイの不屈の魂に共感し、協力してくれる仲間やスポンサーは他にも現れ、信じがたいことだがハルクEvoは見事に復活。むしろ戦闘力を増して2017年のパイクス・ピークへと帰ってきたのである。

ここで改めてマシンスペックを紹介すると、4G63エンジンは排気量を2.3L化し、圧縮比を10.5:1に高めて強化。燃料にはフレックスフューエルのE85を使用し、過給圧は約2.1キロで最高出力627psを発揮する。

タービンはギャレットのGTX3582Rで、インタークーラーやEXマニなどのファブリケーションはJEM FX Motorsportsが担当。AEMの制御はエンジニアのBeau Brown、オリジナルのドライサンプシステムはNorris Designと、多くの仲間やスポンサーにも恵まれた。ファイナルギヤ比は、ヒルクライムではストック、タイムアタックでは4.11と使い分けている。

エクステリアは、強力なダウンフォースを生み出すAPRパフォーマンスのワイドボディキット、リヤウイング、カーボン製カスタムスプリッターを装着。ウイングのステーにはブルース・バナーがハルクへと変身する様が描かれている。バンパーの左右に見えるのは向かって左がパワステクーラー、右がオイルクーラーだ。

ホイールはブルーパープルのカスタムパウダーコートが施された、ボルクレーシングTE37をセット。タイヤはドラッグレースやホットロッドで有名なフージャーのレーシングスリックで、サイズは前後とも295/30-18。足回りにはオーリンズの車高調が備わり、スプリングレートをヒルクライムとタイムアタックで使い分けている。ブレーキはストップテック製だ。

そしてインテリアは、軽量化のために不要なものはすべて取り去ったスパルタン仕様。レースで必要な情報はレースパックのデジタルダッシュで確認する。カスタムロールケージもホイールと同じブルーパープルで統一。室内後方にはオイルタンク、トランクルームには燃料タンクが設置され、燃料タンクの中にはRadiumのトリプルポンプが備わっている。

完全復活を遂げたハルクEvoは、練習走行と予選をノートラブルで走破。そして6月25日の日曜日に決勝の時を迎えた。標高差1439mのコースを駆け上がったロイは、3度目の参戦にして初めての完走を見事に成し遂げた。タイムは12分15秒773。クラス12位と、結果は平凡だった。

だが、ロイは言う。「もはやタイムは問題ではありませんでした。信じられないような困難を、チームで乗り越えることができた。そのことのほうが重要だったんです。山頂に着いた時、全ての苦労が報われたと思いました。一緒に戦ってくれた仲間とスポンサーに心から感謝したいです(笑)」。

Photo:Akio HIRANO  Text:Hideo KOBAYASHI

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