「屋根がなければドアもない・・・」オープンエアすぎるバモスホンダの長期レポート!?

もはやクルマの域を超越した乗り物だ

ホンダの旧き佳き自由な社風を色濃く反映した1台

「車検を取ったからしばらく乗ってみる?」。今思えば、それは悪魔のささやきだったような気がする。

1970年に放たれたバモスホンダは、軽トラックTN360をベースに誕生した多用途車、今風に言えばRV(レジャービークル)だ。乗るどころか、なかなかお目にかかれないクルマだけにこれはチャンスと思い、「もちろん借ります!」と返事をしたのは言うまでもない。

それから半年に渡ってほぼ毎日、バモスホンダを通勤の足に使うという、生粋のホンダマニアにとっては夢のような日々が始まった。

果たして360ccの軽自動車は通勤車として使えるのか? 筆者としてはそんな実験的要素も含んでいたが、結論から言うと、都内で渋滞にハマりながらであれば十分に使えるのは間違いない。

そのメカニズムを見ていくと、パワートレインや足回りは軽トラックのTN360を踏襲。荷台のパネルを開けるとエンジンにアクセスできる。エンジンは最高出力30ps/8000rpm、最大トルク3.0kgm/5500rpmの354cc空冷直列2気筒SOHCだ。高さを抑えるため、シリンダーをほぼ水平に搭載するなど、初代エスティマと同じようなことをホンダは20年も早くやっていたのが凄い。

乗り始めてまず思ったのは、10インチの小径タイヤと1速ギヤの組み合わせが凄まじく、信号待ちから発進すると、目の前の横断歩道を通過する前に2速にアップしなくてはならないほど超ローギヤードということ。ちなみに、ホイールはブレーキドラムを兼用していて、質実剛健な作りに思わず萌える。タイヤはバイアスで145R10LT 6PRのトーヨーi VBCが組み合わされる。

最初のうちは正直に1速で発進していたのだが、瞬殺で吹け切るそのギヤは実は悪路走行用のエキストラローなのではないか?とある日ふと思い立ち、それから2速発進するようにしたらスムーズに走れるようになった。

鉄板むき出しのインパネに装着されるのは、スピードメーター(左)と燃料計&ワーニングランプ(右)。必要な機能や装備だけに絞り込むと、ここまでシンプルになるという好例だ。

ミッションは4速MTで、1速の左にリバースがくる。ステアリングは当然ノンパワステだが、据え切りを含めて重いと感じることはない。

それと全長3m以下、全幅1.3m以下という絶対的にコンパクトなボディと3.8mを誇る最小回転半径によって、普段はクルマで入っていけない、入っていく気もおきない細い路地にもガンガン突っ込んでいけるのが楽しすぎた。カッコ良い言い方をすれば、他のクルマでは見られない景色を見せてくれるのだ。

そして520kgという車重。その数値だけを見ればケータハムスーパーセブン級で、タイヤの転がり始めからして動きが軽く、リヤミッドシップエンジンも相まってハンドリングは軽快そのもの。絶対的な速さはたかが知れているが、交差点ひとつ曲がるのさえ楽しく思えるのは、今のクルマには求められるべくもない、ドライビングプレジャーにおける基本中の基本のような気がする。

ひとクセもふたクセもあるバモスホンダだが、慣れてしまえば楽しいクルマ。街乗りに限って上限60km/hと考えるなら、サブロクでも著しく交通の流れを妨げるということはないと確信した。

しかし、首都高に乗るのは決死の覚悟だった。まず本線への合流。うかつに流れていると、バモスホンダの動力性能からして、そこにタイミングよく入っていけるかどうかが非常に怪しいからだ。むしろ、完全に渋滞してくれていた方がありがたいと思ったのは、後にも先にもバモスホンダ以外にない。

それでも首都高に乗ったらアクセルを踏みたくなるわけで、たまに通勤ルートとして使っていた高速道路で一度だけ、メーター読み105km/hまでは確認したことがある。そもそもスピードメーターがどのくらい正確なのか不明だし、タコメーターが無いため何とも言えないが、感覚的には多分8000rpmは回っていたと思う。

しっかりしたキャンバス生地を使ったシートは汚れに強く、濡れても乾きやすいなど実用的な作り。ヘッドレストは運転席のみに用意され、シートベルトは2点式となる。ドアは存在せず、後ろヒンジの遮断機のようなスチール製ガードパイプが1本あるだけで開放感は抜群だが、万が一、横から突っ込まれたことを考えると本当に怖い…。

晴れた日にフルオープンで乗るのは実に爽快で、それこそがバモスホンダの真骨頂。一方、悲惨だったのは雨の日で、幌を被せるにもドアがないため、少しでも風が出てくると雨に打たれ放題。それでもタオルで拭きながら片道1時間半の通勤路をよく通ったものだと今さらながらに思う。

そもそも幌とは言ったものの、正確には雨除けの簡易的なカバー。フロントウインドウ上部の左右に設けられたツメにカバー側の芯棒を引っかけて両端のロックで固定し、後ろ側は何ヵ所かロールバーに巻きつけるようにホックボタンで留めた記憶がある。脱着に要する時間は30秒ほどだ。

筆者はバイクに乗らないので、それをバイク感覚と言っても良いものかどうか実感として分からないが、少なくとも、バモスホンダは一般的なクルマの感覚からは大きくかけ離れていたところに位置している1台だと思う。

■SPECIFICATIONS
全長×全幅×全高:2995×1295×1655mm
ホイールベース:1780mm
トレッド(F/R):1110/1120mm
車両重量:520kg
エンジン形式:空冷直2SOHC
ボア×ストローク:φ62.5×57.8mm
排気量:354cc 圧縮比:8.0:1
最高出力:30ps/8000rpm 最大トルク:3.0kgm/5500rpm
トランスミッション:4速MT
サスペンション形式(F/R):ストラット/ド・ディオン+半楕円リーフスプリング
ブレーキ(F/R):ドラム/ドラム
タイヤサイズ:FR5.00-10-4PR ULT

TEXT:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)

キーワードで検索する

著者プロフィール

weboption 近影

weboption