「アメリカ人がキャバリエを最高速仕様に仕立てるとこうなる」ボンネビルで見つけた超弩級マシンPart.1

驚愕のストレッチでもはや車種判別不能

心臓部には4.2LV8ツインターボを収める!

ボンネビルで最高速を出すためだけに作られたマシン(実際はストリートカーもあったりするが)は、目的がハッキリしている分、割り切った、あるいは想像も付かないようなメイキングが施されていて実に面白い。取材した年は、4輪クラスに381台、2輪クラスに179台ものエントリーがあったが、その中で我々の目を最も引いたのがこのモンスターだ。

ベースはシボレーキャバリエで、日本でも90年代半ばにトヨタがOEM供給を受けて販売したクルマだ。一見すると、ゼロヨンマシンのファニーカー風だが、全長はそれより遥かに長いはず。フロントマスクは一応キャバリエ風に仕上げられている。派手なカラーリングを施さず、シルバーのボディにゼッケンとクラス、エントラント名のみ入ったシンプルな見た目がいかにもボンネビル仕様だ。

といってもこのマシン、パイプフレームでシャシーを全面的に作り直すことで超ロングノーズ化が図られ、もはやガラスエリアとテール周りにベース車の面影を残すのみ。ひと目見て、すぐにこれがキャバリエだと分かる人は、まずいないだろう。さらに、搭載エンジン&駆動方式も直4横置きFFからV8縦置きFRへと改められていたりする。

エンジンはシボレーのV8通称スモールブロックで排気量4228cc(258ci)。ホイールベース延長によって完全なフロントミッドシップとされている。その片バンクに1基ずつ、ショップで組み上げられたオリジナルタービンがセットされ、最大ブースト圧1.5キロ+α時にピークパワーは1000psに達するという。

面白いのは、ホーリー製4バレルツインキャブ→ターボチャージャー→インマニという吸気系のレイアウトで、ターボは空気でなく混合気を加圧している点だ。一般的なキャブターボはターボチャージャー→キャブ→インマニという配置になるのでキャブを覆うボックスが必要になるが、これなら不要。さらに、吸気量に対する燃料を最適化できるメリットもあるわけだ。しかも、大排気量ターボでありながら、レブリミットは8400rpmと、かなりの高回転型に仕上がっている。

また、ボンネビルを走る最高速マシンではよく見られるが、ラジエターを持たない点にも注目。リヤのラゲッジスペースにウエイトを兼ねた巨大な水タンクを積んで、そこからエンジンに循環させることで冷却しているのだ。

そんなエンジンに組み合わされるミッションは、ドラッグレースで高い実績を持つアメリカ・リバティ製の5速直結タイプ。独自のクラッチレス構造を持ち、エアシフターを追加することで切れ目のない加速を実現している。

さらに、足回りは前後ともストロークに対して対地キャンバー角が変化することなく、構造的にもシンプルなリジッド式を採用。タイヤ接地面積の変化やアーム類のトラブルが文字通り“命取り”になりかねないボンネビルでは、最も信頼性の高いサス形式と言っていい。

フロントサスはストローク時の横方向のズレを防ぐため、パナールロッドにワッツリンク式が使われる。また、ホーシングの前方にセットされた黒いボックスが燃料タンクで、フレームにくくり付けられたスイッチはメンテ時にクルマを持ち上げる油圧ジャッキ用だ。

フロントサスのナックル部。リジッド式サスでフレーム側にダンパーユニットが付き、さらにブレーキを持たないため見た目はシンプルそのものだ。

リヤサスはホーシングを左右で支えるダンパーユニットの他、デフキャリア部にも上下2本のダンパーユニットが水平にセットされる。これはホーシングの前後方向の動きを規制するもので、上側が加速時に、下側が減速時に効くのだ。

車内は、まさに“戦うための空間”といった様相。ケース剥き出しのミッションがド迫力で、万が一プロペラシャフトが脱落してもフロアを貫通しないよう、トンネル部にはスチールパイプ製の頑丈なガードも設けられる。さらに、画像ではイマイチ分かりにくいが、ペダルはアクセルだけ!! 減速はパラシュートのみという作りが凄まじい…。

と、見た目も中身もボンネビルスペシャルであることを主張しまくっていたが、トラブル続きで結局1本もまともに走れず。リザルトには計測結果が掲載されていないほどだったり…。まさに一発勝負の直線番長と言うわけだ。(ボンネビルスピードウィーク2009より)

E/BFCCクラス
Stringfellow & Kirk
CHEVROLET CAVARIER
MAX SPEED:———
ドライバー:JimKirk

TEXT:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)

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